表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/236

24日目:しばしのお休み

毎日必ずある、と思っていたログボに、まさかの事態が。

「先輩、しばらくログボはお休みです」

「うぇっ!?」


 豆鉄砲を食らった鳩の顔を見たことはないけど、恐らくこんな顔なんだろうなと思った。目と口を大きく開き、慌てふためく先輩。


「毎日、第二理科準備室(この部屋)で会うのも、しばらくは」

「ま、待ってよぉ。悪いところ全部直すからぁ」

「別れ話を切り出されたダメ男みたいなこと、言わないでくださいよ。あくまで、お休みというだけです」

「どうしてぇ」

「来週は、何があるでしょうか」

「……前期中間テスト?」

「そうです。なので、今週は勉強に集中したいんです」


 私たちの通う高校は、いわゆる二学期制で、前期と後期しかない。そのため、6月に前期の中間テストがある。


 普段はそれほど本気で勉強しないけど、今回は頑張ろうと思っている。ログインボーナス実装から、ほとんど遊んでいるわけだし。


 元々、この学校に入れるか怪しかった身としては、油断はできない。自分の学力では厳しいかもしれない、と当時の担任に言われても、それでも目指したのは何故だったか。何か理由があった気がするけど、思い出せない。


「朝、チューするだけでもだめぇ……?」

「私がドキドキして、勉強どころではなくなるので」

「土日とか、お休みの日にデートもだめぇ……?」

「はい。お会いできません」

「……して」

「はい?」


 うなだれた先輩が、小さく何かを呟いた。


「テスト終わったら、今度こそやらしぃことして」

「えっと、それは」

「今からテストまで我慢したらぁ、それくらいのご褒美がないとだめでしょ!!」

「だ、だめかどうかは知りませんが」

「君は平気かもしれないけどぉ、ボクはもうログボ無しでは生きられない体になってるんだからねぇ!?」

「脱法ログボじゃないですか」


 ものすごく(まく)し立てる先輩。その圧に、思わずたじろぐ。

 私だってログボには感謝しているし、キスができないのは寂しいけれども、仕方がないのだ。


「どうして、今回はそんなに本気で勉強するのぉ」

「それは、ですね。えーっと……内緒です」


 先輩がどんな進路を選んでも、ついていけるように。

 なんて、口が裂けても言えない。


「今日は3日で、テストが10日からの3日間だっけ」

「はい」

「いくらなんでも長いよぉ」

「今日からバイト停止期間ですし、1週間の辛抱ですよ」


 因みに、ネットゲームで1週間も休んだら、追いつくのは少し面倒になる。最強だったはずの武器に、上位互換が出たり。アップデートで新コスチュームが増えたり。


 現実でログボを休止するとどうなるのか、流石にわからないけども、なんらかの弊害がある可能性は否めない。

 少なくとも現時点で、先輩の欲求不満が爆発することは確定している。


「わかった。ボクはとってもイイ子だから、頑張る」

「そんな、捨てられた子猫みたいな目で見ないでください。なんか罪悪感が」

「テスト終わったらえっち。テスト終わったらえっち。テスト終わったらえっち」

「目標をセンターに入れてスイッチみたいに言わないでください」


 捨てられた子猫なのか、血に飢えたライオンなのかわからない。同じネコ科だし、可愛いから良いか。

 ネコなのは私だけど。


「今日はキスしてくれるの?」

「そうですね、今日はします」

「8日分。まとめてくーださい」


 明日から、中間テスト2日目までログボは休止。テスト最終日の放課後からは、ログボ再開ができる。そうか、確かに8日間か。計算が早い。


「では」

「んむぅ」


 先輩の唇に、いつものように唇を重ねる。先輩が、私の腰に左手を回す。自然と体が密着する。

 やっぱり、キスをすると多幸感のようなものが溢れる。ログボを休止するのは、やはり勿体ない。けど、決めたことだ。


「頭、撫でてくれるぅ?」

「良いですよ」


 先輩の髪の間を、私の指がスルスルと通っていく。少し()かした後に、頭の上に手を置き、左右に撫でる。髪質がとにかく柔らかくて、動物を撫でているみたいだ。


「なんか頭を撫でられるとぉ、落ち着くんだよねぇ」

「そのまま落ち着いてくださいね、8日分なんてまとめて渡せないんですから」

「じゃあ、これくらいでいいかなぁ」

「ご満足していただけましたか……」


 多分、満足はしていないんだろうけど、一応の落とし所には辿り着いたようだ。

 頭を撫でて落ち着かせるなんて、なんだか猛獣使いのような気分だ。もしくは虫と心を通わせる族長の娘。


「続きは8日後、ねぇ」

「は、はい」

「勉強がんばってねぇ」


 私の頭を撫でて、鍵をポケットから取り出し、先輩は扉へ向かって歩き出した。その後を追うように、私も部屋を出る。


 先月は、たったの2日しか会わない日は無かった。一応、会うことはあるだろうけど、8日間も密に関わることが無いなんて、それこそログボ実装前くらいの感覚だ。


 先輩にわがままを言ったわけだし、本気で勉強を頑張らないと。

勉強、大事ですよね。仕方ないですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング→参加しています。気が向いたらポチッとお願いします。 喫と煙はあたたかいところが好き→スピンオフのようなものです。良かったら一緒に応援お願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ