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2日目:チューと現実(後編)

ハプニングはチャンス。

 図らずも、先輩と2人きりで話す時間ができた。


 昨日のファミレスでも話はしたけど、周囲に人がいるのといないのとでは、また違ってくる。


 何を話そうか悩んでいると、先輩が沈黙を破った。


「ボクはさ、男も女もいけるから良いんだけど、君は異性しか好きにならないって言ってたよねぇ」

「そ、そうですね。少なくとも現時点では」

「ん~? それは、ボクにもチャンスがあるってことぉ?」

「これから先の長い人生、色々な可能性があるなって意味ですよ。そんな前向きに解釈しないでください」

「でも、彼氏とかいないよねぇ。じゃあやっぱりチャンスだよ」


 キスしても嫌がらなかったしね、と先輩は微笑んだ。


 それは確かにその通りというか、先輩のような可愛い人にキスをされても嫌悪感は無くて、ログインボーナスの提案も嫌ではなかったし、なんなら、好意を持ってもらえるのは嬉しい。


 しかし、それを上手く言葉にできない。

 そんな自分がもどかしい。


「先輩とお付き合いをするかはともかく、私も先輩のことが好きですよ」

「その『好き』が、ボクと同じ『好き』になってくれると嬉しいなぁ」

「まだまだログインはできますから、気長に待っていてください」

「思わせぶりだねぇ、期待しちゃうよ?」

「ご期待に応えられるかは、わかりませんが」


 私も先輩を真似て、微笑んでみせる。笑い方がぎこちない、とよくお母さんに揶揄されるのだが、どうだろう。上手く笑えているだろうか。先輩は鏡ではないので、確認のしようがない。


「あはぁ、笑うとそういう顔になるんだぁ」

「へ、変ですかね」

「ううん、とぉっても可愛いよぉ」


 世の中の女子が1日に5回は言うであろう言葉も、先輩が言うと嘘くささが一切無いのは何故だろう。シンプルに嬉しい。


 私のぎこちない笑顔を可愛いと形容してくれる、そんな先輩こそが真に可愛いというか、私には勿体ない言葉というか、もう頬が緩むのが止められない。はたから見たら気持ち悪いだろう。


 表情筋、過労死。


「あまり笑顔を褒められたことがないので、嬉しいです」

「そっかぁ。そもそもあんまり笑わないよねぇ」

「別に楽しくないわけではないんですけどね。表情が動かないといいますか」

「もーっと色んな顔、ボクに見せてよ」

「私こそ、今日は先輩の色んな顔を見させてもらいましたよ」

「それは忘れてほしいなぁ」


 楽しい時間は長くは続かない。というより、何故か短く感じる。アインシュタインが言うところの、相対性理論というやつだろう。


 一時限目の終了を告げるチャイムが鳴った。楽しい時間は、放課後までお預けだ。


「先輩、今日はバイトの日ですか」

「ううん、今日は休みだよぉ」

「放課後、私と……その」

「デートしよっかぁ」

「……はい」

「なんだか素直だねぇ、デートじゃありませんって言わないの?」

「デートでもなんでも良いんです、なんだか先輩と離れたくなくなっちゃって……」

「ボクが男だったら、もう抱いてるよぉ。言葉には気をつけてね」

「先輩の、せいですよ」


 ログインボーナス実装から僅か2日で、私はもう先輩の虜になっていた。


 先輩の好きと同じ気持ちなのかは、やはりわからない。


 けれど、ただの先輩後輩の仲だと思っていた私にとっては、少なくとも友人より上に思ってもらえているという事実だけで、心が動きまくっている。


 ちょろい女だと、自嘲気味に思う。


「さ、放課後デートするためにも、ここから出ないとねぇ」


 先輩はスマホを取り出して、電話をかけた。


 すると、隣の第一理科準備室と繋がるドアが開いた。


 理科の先生が居たのか。この早さなら、さっきからずっと居たということか。


「先輩、もしかして隣に先生が居るの知ってました?」

「確信はなかったけどねぇ」

「お前なぁ、朝から後輩を連れ込んで不純異性……じゃないか、不純同性交友とはいただけないなぁ。私はそんなことのためにこの部屋を貸したわけじゃないぞ」

「変なことなんてしてないよぉ」

「あ、あの。もしかして、先輩と私の会話もずっと聞いていたんですか」

「いや、そんな悪趣味なことはしていないよ。生徒が健全な恋愛をしているか調査する義務はあるがね」


 恥ずかしいのか怒りなのかなんなのか、私の感情は生まれて初めてレベルでぐちゃぐちゃになった。


 全て計算だったのか。先輩は、私の前でおしっこをすることさえ計算していたというのか。なんだその変なベクトルの覚悟は。


 しかし、あれが演技だとは思えない。仮にそうなら、ハリウッド女優になれる。


「嫌われたくないから、一応弁解させて? 扉が壊れたのは偶然だし、先生が隣にいたことも知らなかったよぉ」

「先輩が何をしても、嫌いになんてならないって言ったじゃないですか。先生の悪趣味はともかく、先輩のことは信じていますよ。おしっこまでしてましたし」

「えっ、おしっこしたのかお前。そういうプレイはまだ早い」

「もー……おしっこの話はしないでよぉ」


 こうして、無事……と言えるかどうかはともかく、二時限目からは出席することができた。


 私も先輩も、普段からさぼったりするような生徒ではないので、『登校してからずっとトイレにいた』という、名探偵なら確実に疑ってくるような理由をすんなりと信じてもらうことができた。むしろ先輩はトイレに間に合わなかったというのに、なんという皮肉だろう。


 先輩は急いで体育の支度をしに戻り、私は自分の教室に戻った。


 先生はおしっこのことを知らなかった。つまり、会話もドアの音も聞こえていなかった、ということだ。


 一年生の次の授業が理科らしいので、先生はその準備をしていたのだろう。そういうことにしておかないと、私の心が羞恥に耐えられない。


 さて。放課後、どこに行って、なんの話をしようか。


 まだ何も決めてはいないけれど、今日のお詫びと銘打って、先輩にまた奢ってもらおう。


 私はまた、不器用でぎこちない笑みを浮かべて、グラウンドで体育を受ける先輩を窓から眺めた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。よろしければブクマ等よろしくお願いします。次回、土曜日デート。

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