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21日目:メイ・ストーリー〜5月を振り返って〜

5月編、完結となります。

※今までのログボを振り返る内容となっているので、ネタバレ注意です。

「総集編ってどう思う?」

「手抜きだと思います」


 今日は5月31日。

 遂に5月も終わりを迎えた。春が終わり、明日からは初夏。梅雨が始まると思うと、少しだけ憂鬱になる。


 先輩のお気に入りのお店で、一緒に苺パフェを食べる。このお店に来るのは、1日目以来だ。


「5月も終わりだし、今月のログインボーナスを振り返ってみようよぉ」

「なるほど。では、1日目から記憶を総動員して語りましょう」

「記念すべき1日目は、9日だったねぇ。ボクが勇気を振り絞ってお願いしたおかげで、毎日キスしてもらえるようになったんだよねぇ」

「あれ、振り絞っていたんですか。すごく普通に見えましたが」


 なんてことはない、日常会話のように言っていた気がする。表情もいつも通りだったし。でも、内容が内容だから、先輩なりに覚悟をしていたのかもしれない。


 もし、あれで私に引かれたり嫌われたりしていたら、先輩はどうしただろうか。可能性としてありえないけど。


「2日目は、初めて第二理科準備室(いつもの部屋)に入って、チュートリアルをしたんだよねぇ」

「先輩が、先生から部屋の鍵を借りているなんて、驚きでしたよ」

「ドアが壊れて、閉じ込められる方が驚きだったけどねぇ」

「それはこっちの台詞です」

「あはぁ。でも、ボクがおしっこを我慢できなかっただけでよかったよ」


 良かったかどうかと言われたら、良くはなかった。

 漏らさずに済んだのは、不幸中の幸いだったかもしれないけど。


「3日目は、先輩のバイトがお休みで、デートをしましたね」

「初デートだったねぇ。楽しかったなぁ」

「ぬいぐるみも、写真も大事にして下さっていますもんね」

「あはぁ。とっても大切な思い出だからねぇ」

「私としても、とても思い出に残っています。次の日の日曜日はお会いしませんでしたね」


 ログインボーナスとはいえ、会わない日はある。今月は、実装してから2日間だけあった。……え、2日だけか。ほぼ毎日会っているじゃないか。


「4日目は……ボクが風邪を引いたんだっけ」

「そうですね。それで私がプリントを届けて、うどんを作りました」

「思い返すと、あれはニケに感謝しないといけないなぁ」

「プリントのことですか。まぁ、今思うとそうですね」


 先輩の同級生で、女子陸上部のエース、ニケさんこと二家先輩と初めて会話をした日でもある。

 風邪を引いて、うどんを食べる先輩が妙に色っぽかった。


「5日目って何かありましたっけ」

「たしか、6日目も特に何もなかったよねぇ。ほっぺにチューはしてもらったけど」


 ログインだけして、すぐにログアウトをするような2日間だった。そういうこともある。アニメでも漫画でも小説でもないのだから、そういう起伏のない日だってある。


「1週間目は……うん。ちょっと思い出したくないねぇ」

「結果的には良かったじゃないですか。最初は怖くてドキドキしましたが」

「でも、初めて君と本音で話した日かもね」

「そんなに私、本音で話していませんでした?」

「だって、他人に深く踏み込まないってスタンスだったじゃーん」


 ログインボーナス終了の危機。今思い返しても、心臓が嫌なリズムを刻む。


「8日目は、私のお気に入りの場所に行きましたね」

「夕日がキレイだったなぁ。また行こうよぉ」

「ふふ、今度行きましょうか」


 少し時間がかかるから、お互いに暇な時にでも。


「9日目は、君がボクに質問をした日だったねぇ」

「私が恋をしたことがないことを告白したり、先輩が、本当は女性しか好きにならないことがわかったりしましたね」

「嘘なんてつくもんじゃないなぁと思ったよ」


 あれは、一種のターニングポイントだったのだろう。正直に全てを打ち明けても、関係は悪化しなかった。秘密なんてものは、本人以外には大したことがなかったりする。


「10日目は、ね。はい、次いきましょう」

「たーっくさん、語ることがあると思うんだけどなぁ。ほら、行きつけの喫茶店ができたこととかぁ、君の家で」

「無いです。皆無です。はい、この話はおしまいです」

「えー」


 不満そうに、唇を尖らせる先輩。そんなわかりやすい表情をする人がいるのか。可愛いから良いけど。


「その次の日は、なんかあったっけぇ」

「私が、お母さんに色々と見抜かれたりしましたね。あと、唇にキスをした気がします」

「あはぁ。最初の頃はほっぺにしかしてなかったのにねぇ」


 唇にするのは、先輩が卒業する日とか、特別な時とか言っていたのに、今では普通のログボとなっている。慣れって怖い。もしくは麻痺。


「12日目と13日目は、10日目のデートで行った喫茶店『Venti』で、私がバイトを始めましたね」

「そう考えると、まだ1週間くらいしか経ってないんだねぇ。前にしてたバイトはどうしたのぉ?」

「別にどうもしていませんよ。また暇な時にでも行きます」


 先輩とほぼ同じシフトなので、遊べない日も気にならなくなった。お小遣いも増えるし、マスターはとても良い人だし、これからも続けると思う。


「次の日には、ニケとアラも来て、4人でお店に集まる形になったよねぇ」

「先輩の同級生と、関わる機会が増えましたね」

「ボクより仲良くしたら、ダメだよぉ」

「えっ可愛い」


 ニケさんとアラさんは付き合っているらしいし、先輩以上に仲良くなるはずがない。いや、そんな前提が無くても、そんなことはありえない。


「15日目は、ボクが君のお母さんにご挨拶をした日だね」

「なんか違う意味に聞こえますが、まぁそんな感じですね」

「次の日は土曜日で、ログボはお休みだったねぇ」


 これで、今月のログボが無かった日は終わり。ログインしない日が2日だけなんて、最近の私のネトゲよりログイン率が高い。


「そして16日目と17日目は、私にとって忘れられない、かけがえのない大切な日になりました。水族館もホテルも最高でした」

「君の誕生日前日祝いと、当日のお祝いだね。ボクも楽しかったなぁ」

「今でも思い出しますよ。あんなに幸せな経験、中々ありませんから」

「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいよ。ログインボーナスに関係なく君と遊べるようになって、すごく嬉しい」


 先輩からのサプライズプレゼント。今まで生きてきた中で、あれを超える誕生日は無い。お母さんには悪いけど。


「その次の日も、まさかの誕生日祝いだったよねぇ。ニケの企画だけど」

「あれは意外でした。私、ニケさんのファンになっちゃいましたよ」

「……ん?」

「えっ、いや深い意味はないですよ。ちょっと待ってください顔が怖いです、可愛いのに怖いです」

「ボクが一番だよねぇ?」

「当たり前じゃないですか」


 なら良いけど、と先輩はいつもの表情に戻った。同じ笑顔でも、意味合いや圧が全然違う。まるで女優だ。


「19日目は、先輩の家でお料理をしましたね。一緒に買い物をするの、楽しかったですよね」

「なんか新婚さんみたいだったよねぇ」

「料理は、またいつでも作りに行きますよ」

「あはぁ。最低でも週に1回はお願いしたいなぁ」


 先輩のご両親がご不在なら、いつでも。と言っておく。

 キスしてデートして、料理まで作るようになったら、付き合ってはいません、なんて言葉だけで逃げるのは、いよいよ無理そうだ。


「昨日は、20日目ってことでログボが2倍だったねぇ」

「夜景が綺麗でしたね。先輩のセンパイにも会うことができましたし」


 全てを振り返り終わり、先輩と一息つく。お互い、苺パフェは食べ終えた。


「21日目、今日のログインボーナスはぁ?」

「朝、いつも通りキスしたじゃないですか」

「もう1回。ほら、今日で5月も終わりだし。ね、しよしよ」

「別に理由なんてつけなくても、キスはいくらでもしますよ」


 クリームで油分を得た唇で、対面に座る先輩にキスをする。


 5月が終わり、6月が始まる。

 きっと、私たちの関係(ログインボーナス)に大きな変化は起きないだろうけど。

無事に5月も終わったので、普通に次からは6月編が始まります。一区切りということで、ここまでの感想やポイント評価をいただけると、大変参考になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メインの登場人物が二名、しかも名前もわからない状態で、二人の会話を中心にお話が展開されていく。 たいへん興味深い作品でした。 逆に駅名やその他の方はちょくちょく名前入りで登場したりして、そ…
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