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20日目:20th day girls

20日間もログインするなんて、相当面白いんでしょうね。

 ログインボーナス実装から20日目の朝。


 やらしいことをしてから10日……ではなく、11日が経過した。光陰矢の如しとも言えるし、5ヶ月くらいの濃厚さがあったようにも感じる。いや、そもそもやらしいことなんてしていないけれど。


 この、第二理科準備室に閉じ込められたのも、遠い昔のことのようだ。


「今日で20日目ですね」

「おっ、今回は覚えてたんだねぇ。えらいえらい」

「ありがとうございます。さて、今日のログインボーナスはどうしましょうか」

「お互い、今日はバイトだしねぇ」

「連日、バイト後に遊ぶのも大変だと思いますし」


 私の誕生日祝いを3日連続でしていただいて、昨日は先輩に夕飯を作って。ここ数日は、平日とは思えない過ごし方をしている。


 明日も学校だし、流石に今日は無理か。しかし、20日目というのはなんとなく節目っぽいし、運営としては特別なことをしたい。


「では、どうしましょうか」

「前にも言ったけど、ボクは君が何かしてくれるってだけで嬉しいから。いつも通りで大丈夫だよぉ」

「そう、ですか。では、いつも通りのキスを」

「唇にぷりーず」

「言われなくても、そのつもりです」


 あれ。あんなに抵抗があったのに、頬ではなく唇にするつもり満々の自分がいる。

 変に思われていないだろうか。先輩は、目をつぶって私を待っている。まぁ、そんなことを心配しても仕方ないか。


「んっ……」

「ちゅっ……んむぅ……」

「……んむぅ!?」

「ぷはぁ」

「せっ……先輩。こんな濃密なヤツをしてくるとは予想外でした」

「初心に戻ってさ、ログインボーナスといえばキスっていうのをやりたかったんだぁ」

「キス以外のログボが増えましたもんね。まぁキス自体はほぼ毎日していますが」


 口内に広がる先輩の味が、私の脳を溶かす。もう、これから授業とか受けられるのだろうか。ちょっと無理そうだ。


 20日間もキスをしてきたのかもしれないが、いつまでたっても慣れない。毎回、初めてのようにドキドキしてしまう。

 先輩はどうなんだろう。その表情からは、内心を読み取れない。いつも通りの余裕のある笑みを浮かべ、こちらの視線に気がつくと、にこりと微笑みかけてくる。可愛いが過ぎる。


「それじゃあ、そろそろ教室にもどろっか」

「そうですね」


 2人で第二理科準備室を後にし、教室へ向かう。

 これで、今日のログインボーナスは終わりだ。


―――――――――――――――――――――


「本当に、これで良かったのかな」


 午後9時半。バイト、夕飯、お風呂を済ませ、ネトゲにログインする。

 ログインボーナス取得画面を見ながら、なんとなくモヤモヤしている。


「今日のログボは……経験値2倍ブーストか」


 ヘッドホンを着けようとしたところで、家の前に車が停まる音が聞こえた。宅配だろうか。


 ヘッドホンを机の上に置き、カーテンを少し開く。隙間から外を覗くと、見たことのない車が停まっている。そこから、見たことのある人が降りてきた。というか、先輩だった。


「えっ、先輩……?」


 先輩がスマホを取り出したかと思うと、私に電話がかかってきた。


「もしもし……?」

『もしもしぃ。あっ、見てたのぉ?』

「車の音が聞こえたので。どうしたんですか?」

『記念日は大事にしろってセンパイに言われてさぁ。車で送ってもらったんだぁ』

「取り敢えず、今行きますね」

『ありがとぉ』


 電話を切り、適当にパーカーを羽織って外に出る。

 車の姿は、既に無かった。


「あれ、先輩のセンパイは」

「近くのコンビニに行くって」

「そうですか。……あの、やっぱり20日目ですし、何か特別なログボが欲しくなったんですね?」

「えへへ。お恥ずかしながら」

「ふふ。私も、ちょっと物足りないと思っていたところです」

「忙しくなかったぁ?」

「ご心配なく。まだログインしただけです」

「あはぁ。でも、ここでできることなんて限られてるよねぇ」

「そうですね。まだお母さんも起きていますし……」


 2人で悩んでいると、車が戻ってきた。車には詳しくないので名前はわからないが、恐らく外車だろう。


 丸っこい車体に、丸い目のようなヘッドライト。ボンネットに排気口のようなものがあり、車体は多分黒色。屋根は白。それと、見たことのあるWのエンブレム。


 運転席から、黒いパーカーに、下はジャージの女性が降りてきた。暗くてよく見えないが、グレーっぽい色のショートウェーブヘアで、両耳に複数のピアスをしている。それから、車のハンドルは右らしい。


「どっか行くなら、送るケド」

「いいのぉ?」

「いいよ。どうせヒマだし」

「あの、初めまして。先輩の後輩の、茶戸(さど)と言います」

「はじめまして。いつもカサから話は聞いてる」

「そ、そうなんですね。えっと」

「ヒア。大体みんなそう呼ぶから、それで」

「ヒアさん、本当に送っていただいても良いんですか?」

「いいよ。サドちゃんは歳上に対する礼儀がしっかりしてるね。カサとは大違い」


 ヒアさんが運転席に座ったのを合図に、先輩と一緒に後部座席に座る。お風呂上がりみたいな匂いがする。そういう芳香剤なのだろうか。


「で、何処に行くの」

「んー、センパイのおすすめは?」

「私はホテルと居酒屋しか知らないケド」

「先輩、ホテルには行きませんからね」

「あはぁ、先手を打たれちゃったよ」

「じゃあ、適当に走るよ」


 目的地が定まっていないことに怒りもせず、ヒアさんは車を走らせる。街灯の光が、線のようになって流れていく。

 少し窓を開けると、ひんやりとした夜風が流れ込んできた。こんな時間に車に乗るの、何年ぶりだろう。


 車は少しずつ坂を上り、気がつくと随分高い所まで来ていた。

 そのまま進み、駐車場らしきところに停まる。他には人も車もいないようだ。

 ヘッドライトに照らされて、看板が見えた。『肆野(よんの)展望台』と書いてある。


「ここで良いんじゃない。お金かかんないし」

「初めて来ました」

「そう。ご休憩する金の無いカップルとか、よく来るよ」

「へぇ。早く免許取りたいなぁ」

「その流れでその発言はどうかと思いますよ……」

「私は待ってるから。夜景でも見ておいで」


 車を降りて、柵があるところまで歩く。眼下に広がるのは、肆野(よんの)町の夜景。まだ人家も明るい。なんらかの会社や、工場も輝いている。残業だろうか。

 なんとなく自分の家を探してみたけど、見当たらない。


「キレイだねぇ」

「そうですね。こんなに綺麗なら、もっと早く見に来れば良かったです」

「あはぁ。車じゃないと大変でしょ、坂多かったし」

「ふふ。それもそうですね」

「ねぇ。そろそろ……いいかな」

「は、はい。えーっと……本日のログインボーナスは、2倍ということで」


 気がつくと、ヘッドライトは消えていた。本当に気が利く方なんだな、ヒアさんは。

 夜景をバックに、先輩を抱きしめる。いつも通りの、甘い匂いがふわりと香る。


「汗くさくない?」

「全く。汗腺が機能しているか不安になるレベルです」

「大袈裟だよぉ」


 照れ笑いする先輩の唇に、唇を重ねる。柔らかく、しっとりと吸い付く感覚。朝した時とは、なんとなく違う。バイト終わりだからだろうか。


「……ふぅ。それでは、戻りましょうか」

「そうだねぇ。2度目のログインボーナス、ありがとぉ」

「いえ。これはさっき手に入れた、経験値2倍ブーストですよ」


 疑問符を浮かべる先輩の手を握り、ヒアさんの待つ車へ駆け出した。

次回、5月編完結。

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