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18日目:アフターファイブ(前編)

友だちの定義って、なんでしょう。一つだけ挙げるなら、いつの間にかなっているもの。でしょうか。

「後輩ちゃん、この後は暇?」

「はい、一応」


 放課後。二家(ふたや)先輩が、1人で私のクラスまでやってきた。

 学年と性別を問わず大人気な彼女が、私と会話をしている。この状況、周りから見ればさぞ不思議だろう。


「カサっちに聞いたんだけどさ、後輩ちゃん、昨日誕生日だったんだろ?」

「そうですけど」

「アラちゃんのお姉さんのお店でさ、お祝いパーティーしようぜ」

二家(ふたや)先輩と、ですか?」

「ニケでいいよ。あたしと、アラちゃんと、カサっちと、アラちゃんのお姉さんにも参加してもらうつもり」

「行かせていただきます」

「カサっちの名前を出されたら、来ないわけにはいかないもんな」


 別に嫌味っぽいわけでも、意地悪い感じでもなく、自然にそう言われた。ニケさんに言われるのは、悪い気分ではない。


「別にそういうわけではありませんよ。ただ、ニケさんがお祝いして下さるというなら、断る理由がありません」

「あっはっは。別にあたしと仲良くしたいわけじゃないだろ。顔にそう書いてあるよ」

「そ、そんなことありませんよ」

「まぁ、ちょっとずつ仲良くしていこうぜ」


 ニケさんは、快活に笑った。

 笑うのが上手なところ、正直羨ましい。


「アラちゃんとカサっちは、先にお店で準備してくれてるからさ。あたしと電車に乗って向かうよ」

「わかりました」

「そんなに緊張するなって。カサっちと同じように……は無理だろうけど、気持ちはそれくらい緩めていいからさ」

「善処します」


 緊張しているわけでも、警戒しているわけでもないのだが、ほとんど会話したことのない先輩と話すのは、どうしたって堅苦しくなってしまう。


 先輩は、ニケさんはあまり裏表が無い人だって言っていた。あの先輩が仲良くしているくらいだから、間違いなくいい人だという、確信めいたものはある。


 先輩もニケさんに負けず劣らず人気者だけど、親密な人は少ないと言っていた。ニケさんもそうなのだろうか。


 玄関を出て、駅へ向かいながら、勇気を出してニケさんに話しかける。


「あの、ニケさん」

「なに?」

「ニケさんは、めちゃくちゃ人気者じゃないですか。それでも、仲のいい人は少ないですか?」

「んー。友だちだなーと思ってるのは、カサっちと後輩ちゃんくらいかなぁ」

「アラさんは違うんですか」


 自分も友だちにカウントされていることに衝撃を受けつつ、2人の関係を知ってはいるけれど、知らない(てい)で訊ねる。


「アラちゃんは……その、あたしの彼女だから、さ」

「……へえ、そうなんですか」


 驚いたのは演技ではない。隠しているはずの関係を話したことに、素直に驚いた。


「変だと思うかもしれないけど、あたしは本気だから」

「変だなんて思いませんよ。私は……その、恋をしたことが無いので」


 ニケさんが話してくれたのだから、私も素直に話してみた。先輩以外に話すのは初めてだったけど、特に驚いた様子もない。


「アセクシャルってやつ?」

「いえ、多分違います。その、今は気になる人がいまして。ドキドキしたりはするのですが……」

「それが恋かどうかはわからないってことか。お、電車もうすぐ来るじゃん」


 駅に入り、電光掲示板を見る。戸毬(とまり)を通過する電車は、あと10分ほどで到着する。


「ニケさんは、どうやって自分の気持ちが恋だと確信しました?」

「案外ぐいぐい来るなぁ。心を許してくれたみたいで嬉しいよ」

「あっ、あの。無理に答えていただかなくても大丈夫ですので」

「そうだなぁ。自分で言うのもなんだけど、あたしは沢山の人に告白されたことがある。けど、心が動いたことは一度もなかった」


 階段を降り、ホームで電車を待つ。同じ制服の人達が、まばらに立っている。

 ニケさんを見て、色めいた声を出す人もいる。まるでアイドルか何かだ。


「では、アラさんは何が違ったんですか」

「例えば、あたし達の後ろにいる2年生の女の子。さっきからこっちを見て喜んでるだろ?」

「そうですね」

「でも、あたしのことを『あたし』として見てないんだ。アラちゃんは、あたしのことを見てくれている。だから好き」

「……先輩も、似たようなことを仰っていました」


 先輩は、よく言われることではなく、フラットな視点で自分を見てくれるから、私のことが好きだと言っていた。


 上っ面ではなく、皆は本当の自分のことを理解してもらいたいのか。他人に深入りしない私にとって、理解をされたいという感情は、対極に位置しているといっても過言ではない。


「自分のことを好きになってくれる人が好き、とかあるじゃん。あれに近いのかな」

「それって、相手からすれば、自分のことを好きになる保証なんてないのに、それでも好きになったってことですよね」

「そうだな。あたしなら怖くて無理かも」


 自分から一方的に好意を抱くというのは、私には無縁の行為だけど、それは相当の勇気が必要だと思う。


 先輩は、よりにもよって、恋をしたことが無い私なんかを好きになって下さった。全てを知っても、未だに好きでいてくれることは、本当はとてつもなく凄いことなのではないだろうか。


 いつまでも、このままではいられない。


「電車、来ましたね」

「んじゃ、戸毬(とまり)まで行こうか」

「はい。……あの、貴重なお話、ありがとうございました」

「大したことは話してないぜ」


 友だちだしな、と呟き、ニケさんはウィンクをして、電車に乗り込んだ。


 私も、ニケさんのファンになってしまった。

さりげなく、ニケの一人称が変わっていますが、気にしないで下さい。元々、脳内ではこういうイメージだったのです。

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