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2日目:チューと現実(中編)

最後までアレをどうするか悩んで投稿が遅れました。公開後に後悔しないかどうかだけが心配です。

 開かない扉の前で立ち尽くしている私たちの耳に、一時限目の予鈴が聴こえた。あと10分で授業が始まる合図だ。


 試しに私も開けようとしたが、ガタガタと数ミリ動くだけで、全く開く気配が無い。友だちに連絡して開けに来てもらおうか。


 しかし、それだと何故こんなところで先輩と一緒に居るのか、それを説明しなければいけなくなる。


 そこまで不純なことをしていたわけではないが、変な噂が立つのは間違いない。


 別に私はそれでも構わないけど、先輩が学校生活を送り難くなるのは都合が悪い。それでも、先輩ならログインボーナス目当てで登校するかもしれないけど。


「どうしましょうか」

「開き直って、しばらく遊ぼっかぁ」

「開くのも直るのも、扉だけにしてください」


 先輩が敢えて開かなくなるように細工したのでは、と一瞬疑ったが、言葉とは裏腹に表情に焦りが見えるので、その線は無くなった。


 もう恥も外聞も投げ捨てて、誰かに助けを求めるか、それとも思い切りぶつかって壊すか。そんな力は無いし、後で困ることになるだろうからやらないけど。


「あっ」

「どうしました先輩」

「……おしっこ漏れそう」

「どうしてこんなにベタな展開を畳み掛けるんですか! 一周回って最近は見ないですよこんなの!」

「大きい声出さないでぇ……」


 顔を赤らめて、小刻みに震える先輩。どうしよう可愛い。この緊急事態に、授業もトイレも間に合うかどうかの瀬戸際に、先輩には悪いけれど可愛いが過ぎる。


 いっそのこと、トイレに間に合わずに羞恥に震えて泣き出す先輩とかも見たい。


 いやいや、一体何を考えているのか。どうも昨日からおかしい。


「なんか……後ろの棚にある、細長いビーカーみたいなやつ取ってくれるぅ……?」

「諦めないでください、ちょっと見てみたいですけど」

「なんでそんなに目が輝いてるのぉ……」

「いや、いやいやそんなことはないですよ。私がなんとか開けますから」


 何度やっても少ししか動かず、授業開始まで残り五分となった。一度、外してから直すか。しかし、どの方向に力を込めても音を立てるだけで、大きく動くことはない。


 正直、授業に間に合わないことは大した問題ではないのだが、先輩がトイレに間に合わないのは結構な問題だ。


 恐る恐る先輩の方を振り向くと、唇を噛んで、強く手を握りしめている美少女の姿がそこにあった。ペットショップで売れ残っているチワワみたいで可愛い。いや、そんなことを言ってる場合ではない。目も虚ろになってきている。


 そもそも、ここに来る前にトイレは済ませておくべきだったのではないだろうか。急に限界に達するのは、電車に乗る前の子どもだけにしてほしい。


「ログインしてまだ2日だけど……リセマラするね」

「落ち着いてください先輩、人生にリセマラはありません」

「でもログインボーナスは手に入れたからねぇ、ふふ」

「そんな、この世の終わりみたいな顔で無理に笑わないでください」

「漏らしちゃっても、友だちでいてくれるぅ?」

「先輩なら、何をしても嫌いになんてなりませんよ」

「ありがとぉ」

「あっでも諦めちゃダメですよ!? そのなんかよくわからないビーカーみたいなやつ使ってもいいですから!」


 なんかいい話になりそうだったけど、漏らしてもいいわけではない。折角、細長いビーカーみたいなものがあるのだから、使わない手はないだろう。幸いにも埃は被っていないので、すぐにでも使えそうな見た目をしている。


 私からビーカーのようなものとポケットティッシュを受け取り、力なく笑う先輩。あっちを向いて、耳を塞いでいてね、と小声で囁かれて、不覚にも興奮してしまった。男子中学生でもあるまいし。


 一時限目の開始を告げるチャイムが先輩の音をかき消したのは、私にとって幸か不幸かはわからないけど、先輩にとっては幸運だっただろう。


「いやぁ、お恥ずかしいところをお見せしちゃったねぇ」

「見てませんよ。神仏に誓って」

「あはぁ。ボクは信心深くないからなぁ」

「用心深くはあってほしいものです」

「ごめんねぇ、授業間に合わなかったね」

「構いませんよ。それより、開きそうもないので、観念して一時限目が終わり次第、誰かに助けてもらいましょう」

「そうだねぇ」


 罪悪感と羞恥心からか、いつもより先輩が小さく見えた。


 尊大で傲岸不遜で唯我独尊な感じがする先輩も、一人の女の子なのだと認識すると、おかしいことにまた一段と可愛く感じられてしまう。


「授業はいいんですけど、もしこれで私が変わってしまったら責任は取っていただけるんですか」

「もちろん」


 なんのことか理解しているのか、もう少し踏み込みたかったがやめておいた。


 私もまだ本心には気がついていないし、友だち以上のこの不思議な感覚に、もう少しだけ酔っていようと思う。

読んだ方が不快な気持ちになっていないことを祈るばかりです。なんならちょっと興奮してほしい。

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