表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/236

14日目:フォー・ガールズ

突然ですが、登場人物を増やします。大変。

「それじゃあ、また明日ねぇ」

「はい、また明日」


 放課後。先輩も私もバイトなので、今日は玄関で別れる。


 朝、いつもの場所でキスをしたので、今日のログインボーナスは一応終わっている。とは言え、少し寂しい。昨日はバイト先に先輩が来てくれたので、まだ良いけれど。


 バイト先へ向かう電車の中で、同じ制服の人たちが恋人や友人と談笑している。それを見て、昔は感じなかった孤独感のようなものが押し寄せる。すっかり先輩に変えられてしまったな、と心の中で笑う。


 今日は木曜日だけど、仕事は昨日と同じようなものだろうか。昨日は私が来てから、陸上部のエースと先輩しか来店していなかったので、今日はお客さんが来るかどうか心配になる。


 味は確かだけど、オープンしてまだ日が浅いからなのか、外観がレトロだからなのか、あまり賑わっている様子は無い。

 とは言え、喫茶店がうるさくなるのは好ましくないので、経営難にならない程度には繁盛してもらいたい。


 『次は戸毬(とまり)です。停車時間は僅かです』


 目的の駅の名前がアナウンスされた。先輩とデートする時に、いつも聞く駅名だ。

 それから間もなく、電車は停車した。


―――――――――――――――――――――


「今日もよろしくお願いします……」

「はい、マスター」

「マスターだなんて……照れますね」


 マスターは照れ笑いを浮かべながら、厨房へと消えた。笑うと可愛らしい。年上だけど。


 お客さんが来るまでの間、机やカップを拭いて過ごす。カウンターでこうしていると、自分がマスターになったかのような錯覚を覚える。

 最後のひとつを拭き終えたところで、チリンと鈴が鳴った。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは、です」

「お好きな席へどうぞ」


 空いてるお席、と言いそうになったが、全て空席だ。


 今日初のお客さんは、床に届きそうなくらいの長い黒髪を揺らし、静かに微笑んだ。


 私と同じ高校の制服、正確に言うと先輩の同級生だ。ベタだが、タイの色で学年がわかるのだ。

 今年の1年生は黄色、2年生は青、そして3年生が赤。『信号機みたい』だと、生徒も近隣の人々も思っているのは有名な話。


「素敵なお店だね、です」

「ありがとうございます」

「ここのアップルパイが美味しいって、恋人に教えてもらったの、ですよ」

「そう……ですか」


 この店に2回客として来て、店員として働くのも2回目だが、男性客を一度も見たことがない。私が知らない時に来ているのだろうか。

 いや、そもそも女性の恋人がイコール男性というのは浅はかだ。自分だって、男性と恋愛していないのだから。


「妹の私にも教えてくれないなんて、姉には困ったものだよ、です」

「と、言うと?」

「ここのマスターは私の姉なんだ、です」

「そうなんですか」

「そうだよ、です」


 顔も喋り方もあまり似ていないけど、姉妹なんてそんなものなのだろうか。身近に兄弟姉妹がいる知人や友人がいないので、よくわからない。


 というか、随分と不思議な口調だ。取って付けたようなですます口調。


「あっ、マスターに注文を伝えてきますね」

「よろしく頼むよ、です」


「マスター、妹さんがお見えになられてますよ。アップルパイを注文しています」

「えっ……わかりました。取り敢えず……お水を持って行って下さい……」

「かしこまりました」


 コップに氷を数個と、軟水のミネラルウォーターを注ぎ、マスターの妹さんの座っている席に置く。

 と同時に、チリンと鈴が鳴り、扉が開いた。


「いらっしゃいませ」

「今日も来ちゃったぁ」

「あたしも2日連続だよ」


 先輩と、陸上部のエースが一緒に来店した。なんだか悔しい。


「あら、カサちゃんとニケちゃん。仲良しだね、です」

「えっ、あっ、アラちゃん!? 違うぜ? これはそういうのじゃなくてだな。というか来るなら誘ってくれたら良かったのにさ」

「何が違うの、ですか」

「いや、待ってくれよ。怒ってる……?」

「怒ってないよ、です」


 陸上部のエース……改め、ニケさんが動揺している。


 そういえば、ニケさんはマスターのことを知っていると言っていた。そして、アラさん(で良いのだろうか)はマスターの妹。アップルパイが美味しいと恋人に教えてもらったという発言と、この、まるで浮気を疑われているかのような動揺ぶり。


「あの、先輩。もしかして、あの2人って……」

「うん、付き合ってるよぉ。本人たちはバレてないと思ってるみたいだけどねぇ」

「それ、私たちにも言えません?」

「あれぇ、ボクたちは付き合ってないでしょ?」

「……それはそう、なんですけども」


 でも、毎日のようにキスをしたり、手を繋いでデートをしたりはしているじゃないですか。と言いたかったが、飲み込んだ。2人に聞かれるわけにはいかないし。


 アップルパイが焼き上がったことを告げる香りが漂ってきたので、厨房へ向かう。そして、先輩とニケさんの注文をマスターに伝える。2人が頼んだのは、2人とも同じアップルパイのセットだった。それがまた悔しい。


 もしこれが、私の嫉妬心を煽るための先輩の作戦なのだとすれば、悔しいけれど大成功だ。

ニケ→陸上部のエース、アラ→喫茶店のマスターの妹。そしてこの2人は先輩の同級生。よし、これで後で自分が混乱するのを防げたぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング→参加しています。気が向いたらポチッとお願いします。 喫と煙はあたたかいところが好き→スピンオフのようなものです。良かったら一緒に応援お願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ