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130日目:嘘吐き後輩と問われた皆さん

テスト前日。

「そういえば昨日、キスしてないよね」

「ごめんなさい」


 広くて静かな理科室に、私の謝罪が軽く響いた。


「あはぁ。別に謝ることじゃないけど。むしろ、ボクの方こそごめんね?」

「何がですか?」

「センパイがさ、なんか怖かったでしょ。今度怒っておくからね!」

「いえ、それこそ謝ることじゃないですよ」


 先輩のことを大事に想っている人が、私以外にも居ることの証拠でもあるし。


 というか、ヒアさんのことを叱る先輩を想像できない。逆ならいくらでも想像できるけど。


「さて。今日キスしたら、しばらくはログボお休みですね」

「そうだねぇ」


 そう。明日から3日間に渡り、中間テストが行われる。去年は4日間だったけど、どうして変わったのだろう。働き方改革とかなのかな。


 因みに、正確には中間テストではなく中間考査だけど、誰もそうは呼ばない。


 口蓋垂(こうがいすい)って名前は知っていても、伝わらない可能性を考慮してのどちんこって言うのと同じようなものだ。多分。


「火水木ってテストだけどぉ、木曜日の放課後は会える?」

「バイトまでの時間だったら、大丈夫ですよ」

「ボクもバイトだから、それで大丈夫だよぉ」

「では、木曜日までしばしの別れですね」

「うん。……えっキスは!?」

「あっごめんなさい。するね」

「ん」


 先輩は目をつぶり、唇を尖らせた。可愛い。今日も可愛くてありがとう。


 どうしてこんなに可愛いんだろう。長い睫毛が、いつもよりも長く感じる。何度も重ねてきた唇が、今日も変わらず魅力的に輝いている。


 あ、勿論実際に光を放っているわけではなく、あくまで比喩表現だということを断っておく。誰に?


「……ねぇ、焦らしてるのぉ?」

「あっごめんなさい。するね」

「デジャブ?」

「ちゅっ」


 あまり焦らすのも悪いし、もう少し可愛さを堪能したかったけどキスをした。


「んちゅっ……んむっ、んじゅる」

「んぐっ!?」


 キスしてる時に出て良い擬音じゃなかったよ、今の。


 瑞々しい果実にかぶりついた時とかのやつだよ。


「ぷはぁ」

「はぁっ、はぁっ……。激しすぎでは……」

「焦らしたからじゃない?」

「責任は全て、私にあるってわけですね……」

「あはぁ。ちゃんと責任はとるよ?」

「噛み合ってませんよ、いや噛み合ってる……?」


 息が絶え絶えすぎて、訳がわからなくなってきた。脳に酸素が届いていない。


「しばらくログボが休みになるからさ、ちょっとくらい激しくてもいいでしょ?」

「火曜と水曜だけですけどね」

「ボクには十分すぎるほど長いの!」

「ふふっ。大丈夫ですよ、私だってそう思ってます」

「ほんとぉ?」

「ええ。だって私、正直者ですから」

「なんかウソっぽいなぁ」


 ジト目で、ようやく呼吸の落ち着いた私の頬をつつく先輩。


 正直者なのは嘘だけど、先輩に対して正直者でありたいということは嘘ではない。


「嘘か本当かは、これから先の長い人生で確かめてください」

「お、おぉ……なんかいいねぇ、それ」

「そうですか?」

「うん。長生きしてみようって思った」

「言われなくてもしてください」


 話しながら制服を整えて、理科室を後にする。


「それでは、また」

「うん。またねぇ」


 手を振って、明明後日の再会を誓う。


 なんだか歴戦の兵士みたいでカッコイイかも。


 階段を上って、自分の教室に入る。少し理科室に長居してしまったから、もうほとんど全員揃っている。具体的に言うと、ココさん以外は全員居る。


「おはよー、クグ」

「おはよう」

「おはようございます。セイナさんと左々木さん、もう体調は大丈夫ですか?」

「えっ、うん」

「なるほど、仮病だったんですか」


 だから、ココさんは大丈夫だと思うよって言ってたんだ。


 私も先輩と一緒にズル休みしたことがあるので、それに対して特に思うところは無い。


「い、いやーそんなことはないよ」

「セイナ、嘘が下手すぎるからもう喋らないで」

「怒らないで!」

「怒ってない。別に茶戸さんに隠す必要は無いでしょ」

「そういうこと?」

「うん。面倒だったから、一緒にそこら辺で適当にサボってただけだし」

「左々木さんにも、そういう日があるんですね」

「あるよ。許されるなら、毎日サボりたいくらい」


 左々木さんは授業中によく寝てるので、割と嘘では無さそうだ。


 セイナさんとどういう関係なのか、結局よくわかってないけど。そこに踏み込むのは、多分私の役目じゃない。


「お前ら、席に着け」


 ココさんより先に、糧近先生が教室に入ってきた。これはまさかの遅刻パターンか。


「先生、ココがまだ来てません」

「じゃあ遅刻だ」

「セーフ!!」


 そう叫びながら、ココさんが教室に入ってきた。確かにチャイムはまだ鳴っていなかったし、セーフといえばセーフかもしれない。


「……一応、限りなくアウトに近いセーフの理由を訊いてやろう」

「おばあちゃんが困っていたのでー、助けてましたー」


 この令和の世で、というか現実世界でその言い訳を使う人って本当に居るのか。


「それじゃあ仕方ないな」


 しかも許すんだ。


 正直者を自称した私も、風邪を引いたと言っていたセイナさんと左々木さんも、おばあちゃんを助けていたというココさんも、全員怪しすぎて笑ってしまう。


 誰が嘘を吐いていて、誰が本当のことを言っていたのか。


 それは、きっと本人たちにしかわからない。なるべく正直に生きたいけどな、私は。

無事、5周年を迎えることができました!5年あってもまだ冬にすらなっていませんが、一応進んではいます。ここまで来れたのは、今この部分を読んでいるあなた!あなたのおかげですよ!ありがとうございます。

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