125日目:恋と報告
報告、それは信頼の証。
「ココさん。今日、昼休みご一緒できますか」
激動の三連休も終わり、今日からまた学校が始まる。
そんな火曜日。先輩にログボを渡さず、お互い自分の教室に真っ先に向かった。
交際報告をする相手と、急いで話すために。
「良いよー。セイナとシオリは居ない方が良いかな?」
「えっと……。居ても大丈夫です。多分。それと、バイトもありがとうございました」
「気にしないでよー。個人的に楽しいこともあったし」
「そうですか。それなら良かったです」
今日のココさんは、遅刻ギリギリではなくかなり余裕を持って教室に入っていた。
すぐに話せてラッキーだったけど、本当に謎が多い人だ。
「セイナもシオリも秘密は守るけどー、不安なら今日は別々にしても良いんだよ?」
不安、というかそこまでまだ親密ではないというか。
いや、でも仲良くしてくれてるし。友だちだって言ってくれたし。もし仮に他の人に言いふらしたりしても、それは仕方が無いことだと諦めよう。
「いえ。3人にまとめてお話します」
「何かなー。ハードル上がってるけど、大丈夫?」
「はい。頑張ります」
「おはよう、今日は朝からなんの話?」
「おはよ。別にセイナには関係無いでしょ、ココと茶戸さんの会話は」
セイナさんと左々木さんが、一緒に教室に入ってきた。そしてすぐに、私とココさんのところに合流。
「セイナも仲間に入りたいんだもん。クグ、内緒の話だった?」
「いえ。セイナさんと左々木さんにも、後でお話しようと思ってまして」
「へぇ。ココだけじゃなくて、ウチらにも?」
「はい。あの、別に私に興味関心なんて皆無だとは思うんですけども」
「卑屈すぎでしょ。楽しみにしておくよ」
「セイナも楽しみにしてる!」
どんどんハードルが上がっている。あれ、なんか思っていたのと違う。
普通にさらっと、極々普通の日常会話の流れで言いたかったのに。時間を昼休みに指定したことで、時限爆弾の要領で期待値が跳ね上がってしまった。
「お前ら座れ。さっさと朝のホームルーム済ませるぞ」
手を叩きながら、糧近先生が入ってきた。
全員座ったのを確認してから、面倒くさそうに話し始めた。
「後期中間まで、残り1週間になった。部活とバイトは休めよ。そして点数を少しでも稼げ。以上」
テストまであと1週間……?
嘘だ、私を騙そうとしている。
前回、先輩との対決で順位が上がったけど、今回は本当にまずいかもしれない。いや、でも期末テストではなく中間テストなんだから、そんなに大変じゃないかもしれない。
「クグルちゃん、理科室に移動だよー。一緒に行こ」
「あっ、はい。今行きますね」
ココさんに言われて、現実に戻った。
まずは授業をちゃんと受けないと。
―――――――――――――――――――――
ちゃんと授業を受け終えて、無事に昼休みを迎えた。
本当は人の少ない空き教室が良かったんだけど、普段使っているいつもの教室で食べることになってしまった。
ワクワクを隠しきれない表情のココさんとセイナさんと、いつも通りのクールな表情の左々木さんが、私の第一声を待っている。
「……あのですね。実は、先輩とお付き合いすることになりました」
「おめでとー!!」
「先輩って誰!?」
「えっ、まだ付き合ってなかったの?」
三者三様のリアクションをいただいたところで、まずココさんに返事をすることにした。
「ありがとうございます、ココさん」
「アレだよ、先輩っていうのはほら。学祭の時に、茶戸さんを連れてった人」
「あー! あの美人さんだね。おめでとう!」
「ありがとうございます。……あの。ココさんはともかく、セイナさんも左々木さんも特に驚かないんですね」
2人はキスする仲なんだし、偏見が無いのかもしれない。
それか、ココさんの居る前だから控えめとか。
「だってセイナ、男の人とも女の人とも付き合ったことあるもん」
「あ、だから前に『今は彼氏も彼女もいないけど』って言ってたんですね」
「うん。いやぁ、それにしてもめでたいね。恋バナしよ!」
「スピード感が凄い……」
付き合ったばかりなんて、普通ならそんなに話すことは無いんだろうけど、幸い私には無限に等しいエピソードがある。
そっか、今はもう惚気に分類されるのか。惚気とか彼女自慢とか、まさか私ができるようになるとは。変な笑いが出そうになる。
「ところでココさん」
「んー?」
「これでもう、私に興味は無くなりましたか?」
「まだまだ全然。完結どころか、ここからがスタートでしょ。神曲でいうなら、まだ地獄篇だよー」
「先が遠いですね……」
「先輩を導いてあげてねー」
「私がベアトリーチェなんですか。まだ地獄篇なのに」
頭に疑問符を浮かべている、セイナさんと左々木さん。それを他所にニヤニヤしているココさん。
良くも悪くも、この世界はそう簡単には変わらないらしい。
「やっぱり良いよクグルちゃん! まだまだ読ませてもらうからね」
「どうぞ、ご自由に」
「あっねぇねぇクグ」
「はい?」
「セイナは口がカッチカチだから、安心してね!」
「ふふっ。大丈夫ですよ、仮にゆっるゆるでも」
「ウチらが黙ってても、いずれバレると思うけどね。茶戸さん、ガードも認識も甘いから」
左々木さんの忠告を何度も無視している身なので、返す言葉も無い。
むしろ、今までが何事も無さすぎたというか。本当に、そう遠くない未来に全てがバレる日は来ると思う。
「もうっ、シオリって本当にイジワルだよね」
「そんなことはありませんよ。左々木さんはいつも優しいです」
「……優しいのは茶戸さんでしょ」
思い当たる節が無い。
え。まさか、2人のキスを見たけど今現在まで他言していないことだろうか。そんなのは別に、褒められることでもなんでもないと思うけど。
それは優しさではなく、常識だ。他言無用の出来事を他言しないのは、常識。道徳、モラル。
何か、嫌な経験でもしたことがあるのかな。
「と、とにかく。これで私の話は終わりです」
「高まった期待値を裏切らない話だったよ!」
「それなら良かったです」
「だから、恋バナしよ!」
「ど、どうやるんですか。恋バナって」
「この前もしたじゃん。あっ、ていうかこの前言ってた噛む人の話……あれ先輩のことだったの!?」
凄いなセイナさん。どんどんテンションと声が高くなってる。普段の音域に戻ってくれないかな。
「そうです。おかげさまで解決しました」
「ほえー。じゃあさじゃあさ、ぶっちゃけ先輩とはどこまで」
「ストップ、セイナ。声が大きい」
「ご、ごめん」
近くの席には誰も居ないし、聞き耳を立てている人も恐らくいないけど、流石に教室で大きな声で話すのは憚られる。
「じゃあ、今度違うところで話そうよ」
「はい、是非」
「……知りたがりばっかりだな」
「シオリ、何か言った?」
「別に」
恋バナに限定しなくても、セイナさんと左々木さんとはもう少し親睦を深めたい。
そんなことを思うなんて、私も随分変わったな。それはきっと、悪いことではないと思う。
3人に報告できてスッキリした私の頭の中に、今度は先輩が浮かんできた。朝会えなかったし、早くキスしたいな。
次回、先輩目線で交際報告。
 




