122日目:決戦の前の前の金曜日(前編)
11月になりました。
「明日から三連休だねー」
「そうですね」
「先輩と、どっか行ったりするのー?」
「そのことなんですけど」
昼休み、教室。
気が付いたら、教室でココさんとご飯を食べるのが普通になってきている。そしてその横には、セイナさんと左々木さんが居ることも。
勿論、先輩との約束があればそっちが優先だけど。
「三連休の最終日、つまり月曜日にバイトを休みたくてですね」
「良いよー。私は元々出るつもりだし」
「でも月曜は振替休日ですし、混むと思うんですよ」
「そうだねー」
「だから、ココさんにはご迷惑をおかけしてしま」
「大丈夫だよ、ココはスペック高いし」
言い切る前に、セイナさんは板チョコをパキッと噛み砕きながらそう言った。
「そういう話をしてるんじゃないでしょ。茶戸さんだってスペック高いし」
「えっ、シオリってクグのこと結構認めてるんだね!?」
「……え、何その感じ。ウチって、そんなに茶戸さんに対して冷たく見える?」
「そんなことありませんよ。左々木さんはいつも優しいです」
「……何それ」
軽く頬を赤らめて、左々木さんは反対側を向いてしまった。
褒めたりフォローのつもりでは無かったけど、左々木さんってこういうのに弱いんだよね。
「あ、シオリ照れてるー!」
「照れてない」
その顔で、照れてないっていうのは無理がある。
なんて、口が裂けても天が避けても、大地が割れても言えないけど。
「あ、あの。とにかく、バイトお願いします」
「任せといてー。バイトなんて、今しかできないしねー」
「……高校を卒業したら、就職するんですか?」
「進学はしない予定ー。その他は内緒」
「また内緒ですか」
自分の性格を思えば、ココさんのことを深く知ろうとする方が変な話なんだけど。
でも、自分だけ読まれるのはちょっと癪だな。
「茶戸さん、嫌なら嫌って言っても良いんだよ」
「……と、言うと?」
「ウチは、ココに読むの禁止って言ってあるから」
「そうだったんですか。でも、私は大丈夫ですよ」
「ならいいけど」
「やっぱり左々木さんは優しいですね」
「……」
流石に、2回も言うのはやり過ぎだったか。
いつも先輩と喋る時にやっちゃうけど、他の人との距離感は間違えないように気をつけないと。
「シオリ、本気で照れてるじゃん」
「うるさい」
軽く赤くなっている頬は、怒り由来ではないらしい。一安心。
パーフェクトなコミニュケーションが出来たのかは微妙だけど、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったので、ここでおしまい。
「ねーシオリー、板チョコ余ったんだけど食べる?」
「直でかじってたでしょ。要らない」
「間接キスとか気にしてるの?」
「うるさい」
板チョコの行く末を軽く見届けつつ、次の授業の準備をする。早く放課後にならないかな。
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「人気があるかわからなくても、キャラが増えたらとりあえず掘り下げちゃうよねぇ」
「どうしたんですか、急に」
全私が、待ちに待って待ち焦がれた放課後。
明日から三連休、その前日の放課後ともなれば開放感は桁違いだ。
明後日は先輩のおばあちゃんの誕生日なので、絶対に先輩を守るという使命感はある。
それを加味しても、3日間も先輩と過ごせるのは幸せと言うより他ない。
「別にぃ。なんとなく思っただけだよぉ」
「大丈夫ですよ。仮に人気投票とかがあったとしたら、先輩が断トツで1位に決まってます」
「なんの話ぃ?」
「わかりません。自分でも何がなんだか」
舞い上がり過ぎて、変なことを喋ってしまっている。
「あの、先輩」
「んぅ?」
浮ついた気持ちを一旦リセットして、本題に入る。
聞こえない程度の深呼吸をして、言葉を続ける。
「明日から三連休じゃないですか。で、明後日のことも考えると、今日はお泊まりをした方が良いと思うんですよ」
「いいのぉ!?」
子どものように純新無垢で、水晶のように透き通って輝く瞳。
そんな美しい目が、歓喜に満ちた笑顔と共にこちらに向けられる。眩しすぎて、思わず目をつぶりそうになった。
「はい。なんなら、3日間とも一緒に過ごしたいなぁと」
「好きぃ……。愛してるぅ」
「私も愛してますよ」
いつぶりかも、何度目かもわからない愛の告白を終え、手を繋いだまま駅を目指す。
三連休を控えた金曜日ということもあってか、道行く人々が心做しか浮かれているように見える。
その中でも、私は断トツで浮かれている自信があるけれど。浮かれすぎて、ちょっと地面から離れてる気さえする。
「夕方になると、流石にちょっと寒いねぇ」
「11月になりましたからね」
「……つまり、今年も残り60日!?」
「そ、そうですね。今年の終わりも見えてきたというか」
突然気がついたのか、やや大袈裟に驚く先輩。
今年の終わりの前に、先輩の誕生日というビッグイベントも控えている。そう思えば、確かに時の流れの早さに驚かされる。
早ければ、今月末にでも雪が降るかもしれないし。
「そっかぁ。もうすぐ今年も終わりかぁ」
「それは流石に言い過ぎですけどね。その前に、今月は後期中間テストもありますから」
「そうだったねぇ。勉強してる?」
「あまりしてません。明後日を乗り切ってから頑張ります」
「あはぁ。ボクもそんな感じぃ」
そんな話をしていると、駅に着いた。
学校終わりに仕事終わり、若干だけど観光客らしい人まで居る。三連休ってそんなに凄いんだな。
「あ、電車来ましたよ」
「座れなさそうだねぇ」
この混雑では仕方が無い。都会だともっと大変なんだろうな。
手を離して、既に席がほとんど埋まっている電車に乗り込む。
言葉を交わさなくても、なんとなく場所を決めて並び立つ。もちろん、ここでも手は繋がない。
「ボクは、帰って準備してから莎楼の家に行くね」
「わかりました。先に家で待ってますね」
「おばあちゃんの家に行く荷物も、まとめて持っていくねぇ」
「はい。是非そうしてください」
電車の揺れに身を任せながら、今日の夕飯を考える。
先輩と一緒に作れるものが良いな。
次回、久々?にお料理します!




