表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/236

11日目:ラブ・アフター・トゥモロー

ちょっと踏み込んだ次の日。とは言え、これといって何もない内容となっております。

 いつもより少し踏み込んだキスをしたからといって、別に世界が変わるわけではない。いつも通り太陽は東から昇り、いつもと同じ時間に目覚まし時計は鳴って、外の景色も何もかもが普段通りだった。


 それでも、先輩の残した赤い跡が、昨日のことは夢ではないと私に思い知らせる。


「どんな顔で先輩に会おう……」


 私がどれだけの経験をしても、世界はいつも通りなので、学校には行かないといけない。ログインボーナスだって継続しているわけだし、取り敢えずキスはしないといけない。


 いや、義務感でするのもどうかと思うが、先輩に変な気を遣わせるのも申し訳ない。


 取り敢えず体を起こし、スマホを握りしめて、一階に降りる。


「おはよう。シーツは洗濯に出しておきなさい」

「おはよ……え?」


 私が寝た後に帰ってきたらしいお母さんが、とんでもなく鋭いことを言い出した。いやいや、今日はとても晴天だし、深い意味なんて無いだろう。動揺するな。


「え、じゃないわよ。大好きな先輩を部屋に呼んだのだから、汚れているでしょ」

「いや、汚れるようなことはしてない……って、待って待って待って、監視カメラでもあるの?」

「匂いでわかるわよ。先輩って女の子だったのね」


 血は争えないわね、とお母さんは呟き、赤飯を机の上に置いた。一度引いた血の気が、一気に顔面に戻る。


「あ、あのね。いわゆる本番のようなことはしていないからね。確かに昨日、先輩を部屋に招いて……その、色々あったけど」

「別に一線を越えようと越えまいと、相手が男でも女でも、清くても(ただ)れていても、そんなことはどーでも良いのよ」

「……じゃあ、その、えっと」

「楽しかった?」

「……はい」

「じゃあ何も問題は無いわ。ほら、早く食べなさい。絆創膏は使う?」


 さすがは女の先輩、人生の先輩。全てお見通しで、何もかも理解されている。というか匂いって、部屋の戸を閉めていてもわかるものなのか。確かに先輩は甘くていい匂いがするけど。


「お母さんは、私が女の人とお付き合いしても平気?」

「あら、あんたの人生って私のものだったの?」

「私の人生だけど……」

「じゃあ良いでしょ。別に孫の顔を拝みたくてあんたを産んだわけじゃないし」

「まぁ、まだ付き合っているわけじゃないんだけどね」

「付き合っていないのに、そういうことをしたのね」

「そう言われると弱いんだけど……。というか、本当に変なことはしてないからね?」

「別に責めてるわけじゃないわよ。何をしていても構わないし」


 私は恥ずかしさと嬉しさの中間のような感情の中で、意味深な赤飯を完食した。いつも通り、支度をして学校に向かおう。


 先輩も、私みたいな気持ちになってくれているだろうか。ほんの少しでも、昨日のことを意識してくれていたら嬉しい。


―――――――――――――――――――――


「おはようございます」

「おはよぉ」


 先に第二理科準備室で待っていた先輩に挨拶をすると、先輩は小さく欠伸をして、眠そうに目をこすった。


「寝不足ですか」

「いやぁ、お恥ずかしい話なんだけどねぇ?」

「はい?」

「君としたことを思い出しながら、何回も1人で盛り上がっちゃって。おかげで全然寝てなくて」

「そ、そうですか」

「君はぁ?」

「そういうのはありませんが、ドキドキして大変でしたよ。お母さんにも見抜かれていましたし」

「えっ」


 先輩の驚いた顔なんて珍しい。というか初めて見たかもしれない。

 ベッドの上で、デート着のままキスをしただけなので、別段後ろめたいことはない。


「シーツを洗濯に出しておいてね、とか。先輩って女性だったのね、とか言われましたよ」

「どうしよう、まだご挨拶もしてないのに。うちの娘に狼藉(ろうぜき)した不埒者って思われてるよねぇ……」

「大丈夫だと思いますよ。なんというか、うちのお母さんは私と全く違う生き物なので」

「それはそれで怖いなぁ……。でも、今度ちゃんとご挨拶するね」

「付き合ってはいないんですけどね」


 そういえばそうだったね、と先輩は微笑み、私と唇を重ねた。会話の途中で、自然にログインボーナスを取得されてしまった。


 昨日のキスを思い出して、狼狽(ろうばい)する自分を想像していたのだが、案外そんなことはなかった。相変わらずドキドキはするけれど。


「そろそろ教室に行こっか」

「そうですね。では、また昼休みに」

「うん、昼休みねぇ」


 今日は先輩がバイトの日なので、昼休みに会ったら、今日は終わりだ。しばらく、これといったイベントも無いし、明日からも普通にログインするだけの日常になりそうだ。


 第二理科準備室を出て、施錠を終えた先輩が私の手を握った。


「どうしたんですか?」

「……ねぇ、ドキドキしてる?」

「してます、けど」

「良かった、ボクだけじゃなくて」


 そう言うと、先輩は手を離して、3年生の教室へと歩き出した。良かった、先輩も昨日のことを意識してくれていたんだ。

しばらくこんな感じになりそうなので、まとめて書いちゃうと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング→参加しています。気が向いたらポチッとお願いします。 喫と煙はあたたかいところが好き→スピンオフのようなものです。良かったら一緒に応援お願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりどこでもお母さんは強い(確信) あと尊い…(尊死)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ