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120日目:1年の3分の1の純情な愛情

朝の占い、皆さんは信じますか?

『今日は10月30日水曜日、初恋の日ですね』


 いつもの朝の情報番組のお姉さんが、聞き慣れない発言をした。お姉さんの思い出の日なのかな。


『1896年の今日、島崎藤村が初恋の詩を発表したそうです。それで今日は初恋の日になったんですって』

「へぇ。知らなかった」


 人それぞれ、恋をした日は違う。


 でも、今日が初恋の日なのは面白いな。役に立つかはともかく、覚えておいて損は無いだろう。


 朝食のトーストにかじりついていると、朝の占いのコーナーになっていた。


 毎朝欠かさず観てるわけではないけれど、この番組の占いは妙に当たるので、始まるとつい観てしまう。


『今日もっとも良い運勢なのは、山羊座の方です!』

「お、先輩だ」

『何をやっても上手くいきそう。後輩に優しくするとグッドです!』

「優しくしてくれるかな」


 厳しくされた覚えは無いけど。いつだって先輩は優しい。


 でも、優しくしようとして優しくされているというよりは、先輩の性格に起因した優しさだと思う。


 塩対応の先輩を見たことあるし、誰にでも優しいわけじゃないんだよね。私は初対面の頃から好感度がカンスト気味だったので、常に優しくしてもらってるけど。


『今日最も運勢が悪いのは……ごめんなさい、ふたご座の方です』

「えっ」

『今日は自分の意見があまり通らないかも。人の話をちゃんと聞くと良いかもしれません』

「割と普段からそうしてるけど……」

『でも大丈夫! そんなあなたの運勢を良くするラッキーパーソンは、自分より身長の高い先輩です!』

「えっ」


 慌てて用意する必要も、使わないものを敢えて持つ必要も無い。ただ学校に行くだけで達成できる。


 そういえば、先輩の身長って何センチなんだろう。


 私より高いのは間違いないけど、聞いたことは無い。


『それでは今日も元気にいってらっしゃい!』


 お姉さんの明るい声を最後に、画面が切り替わった。


 それを合図に、テレビの電源をオフにする。そろそろ家を出なくちゃ。


 先輩の身長、訊いてみようかな。


―――――――――――――――――――――


「ボクの身長はねぇ、164センチだよぉ」


 朝の第二理科準備室。


 試しに先輩に身長を訊いてみると、あっさり教えてくれた。


「……え、もしかして普段めっちゃ背中を丸めてくださってます?」

「別にそんなことはないよぉ。莎楼は何センチなの?」

「私は155センチですけど……」

「へぇ。9センチ差だったんだねぇ」

「確かにキスする時とか、先輩が合わせてくれてるとは思ってましたけど。結構差があったんですね」


 座ってキスすることも多いし、先輩がさりげなく合わせてくれていたのだろう。


 そして、手を繋いで歩いている時に、先輩のことを見上げすぎて首が疲れる……みたいな経験も無い。


「そこまで変わらないと思うよぉ。ほら、そんなことより今日のログボちょーだい?」

「はい」


 9センチ差の先輩を抱きしめて、キスをする。


「ぷはっ。ねぇ、今日ってなんの日かわかるぅ?」

「えっ……あっ、あれですか。今日はログボ120日目だから……だから?」

「だから、1年の3分の1が過ぎたよねって話だよぉ」


 なるほど。365日を3で割れば、大体120日だ。


 ログボが無い日もあったし、もうとっくに3分の1は過ぎてるだろうけど。


「そう考えると、結構経ちましたね」

「そうだねぇ。体感時間的には4年くらいは過ぎてる気がするけどねぇ」

「なんですか、その具体的な年数は」


 4年も経っていたら、お互いお酒が飲める歳になっている。


 でも確かに、意外と時間が経っていないことには驚く。


 ログボを渡す前からそこそこ話したりはしていたけど、それを含めて考えてもそんなに前のことではないのに。


「冗談はさておいて、今日はバイトの日だからこれでおしまいだねぇ」

「でも、120日目ってなんとなく節目っぽいですし。バイト後でも良いので、何かしませんか?」

「うーん。気持ちは嬉しいけど、今日はいいかな」

「そ、そうですか」


 自分の意見が通らない、朝の占いで言っていた通りだ。


 こういう提案を断られることは滅多に無いので、ちょっとショックだ。いや、かなりショックだ。買ったばかりのタイツが伝線した時くらいショック。


「……先輩。今朝の占いで、先輩は1位だったんですけど」

「そうなんだ。なんて言ってた?」

「後輩に優しくすると良いって言ってましたよ」

「……怒ってるぅ?」

「いいえ、怒ってなんかいませんよ。因みに私は最下位で、自分の意見があまり通らないかもって言ってました」

「怒ってるよねぇ!?」

「ふふっ、まさかまさか。この温厚で、喜怒哀楽の怒だけ部屋に飾ったまま持ち歩いていない私が怒るなんて。そんなそんな」

「バイト終わったら会お? ね?」


 両腕をブンブンと上下に、このまま放っておいたら飛んでしまうんじゃないかってくらい揺らす先輩を笑顔で見つめる。


 慌てふためく先輩、なんて可愛いんだろう。


 そもそも、私が怒るはずなんて無いのに。今日のログボは終わったわけだし、それ以上を望むのは単なる私のワガママだ。


「くっ、莎楼? な、なんっ、なんか言ってよぉ」

「え、あぁ。ごめんね、可愛いなぁと思って黙って見てました」

「お、怒ってない……?」

「だから、怒ってませんってば」

「よかったぁ。じゃあ、またバイトの後にね!」

「はい。楽しみに待ってます」


 扉に手をかけた先輩の後ろに付き、第二理科準備室を後にする。


 そういえば、この部屋とも長い付き合いだ。労いの言葉の代わりに、扉の取っ手を優しく撫でておこう。


―――――――――――――――――――――


「壊れちゃうくらい愛したらぁ、どのくらい君に伝わるかな?」

「ぜ、全部……?」


 放課後どころか、気がつけばバイト終わり。


 先輩の部屋の、大きなベッドの上。


 優しい先輩が、私に覆い被さるように抱きついている。


「ほんとぉ? 空回りしない?」

「しませんよ、全部受け止めます」

「ふーん」


 制服越しに背中の辺りを触られた、と思ったらブラが外れていた。


 何を言っているかわからないと思うけど、私にもわからない。


「占いの通り、後輩には優しくしようかなぁ」

「あ、あの。えっ、しませんよ。しないよね?」

「君の意見は通りませーん」


 ログボの続きを望んだのは私だけど、このままではマズイ。壊れるほど愛されてしまう。


「せ、せんぱっ」

「ちゅー」

「ちゅ、んむぐ、んぅ……」


 濃厚で濃密なキス。目眩さえ覚える。


 外れたブラが、居心地悪そうに背中でふらついている。何故外されたのか。それは誰にもわからない。


「ぷはっ。あの、先輩。なんか手が、手の動きがなんか、変ですけど」

「そうかなぁ」

「と、止めて?」

「甘えてるのぉ? 自分でボクのホールドから抜け出して止めなよぉ」

「……!」


 この細腕の何処から、こんな力が出てくるんだろう。


 普段なら嬉しい熱烈ハグだけど、今はなんとなく危機感の方が勝っている。


「先輩……」

「あはぁ。なんてね、ビックリしたぁ?」

「えっ」

「莎楼が嫌がること、するわけないじゃん。これはねぇ、朝のお返し」

「仕返しの間違いでは……」


 年齢差、身長差、力の差。


 軽い気持ちで誘ったのに、わからされてしまった。


 先輩に勝てたことなんて、一度も無いけど。同級生ごっこの時にちょっとだけ勝てそうだったくらい。


「そうだ、先輩。明日の仮装って、本当にご主人様をやるんですか?」

「莎楼は学校でメイドさんに着替えるんだよね?」

「そうです。あまり乗り気では無いんですけど」

「どうしようかなぁ。なんだかんだで、もう明日だもんねぇ」

「先輩なら、私服でも良いと思うけど。制服でも良いし」

「ありがとぉ。明日までに考えておくね」

「わかりました」


 なんだか解散する流れっぽいので、先輩のホールドから抜け出してベッドから下りる。


 さっきまでが嘘みたいに、簡単に抜け出すことができた。


「駅まで送るねぇ」

「大丈夫ですよ」

「いいからぁ。ボクがもう少しお話したいだけだから。ね?」

「は、はい」


 朝の占いの言う通りだ。やっぱり私の意見は通らない。


 けど、これなら当たっても悪くないかな。

次回、学校でハロウィン!

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