表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
204/236

116日目:元気の源の寄り道

※更新が遅くなり申し訳ありません。エタってません。

 放課後。


 いや、もちろん朝に先輩とキスはしたし、授業は真面目に受けたし、掃除当番としての責務も全うしたけど、もう放課後だ。


 今日は先輩と放課後デートの日。制服デートと言い換えるのも可。


「おまたせぇ。遅くなってごめんね」

「いえ、私も掃除当番でしたし」


 軽く息を切らしている先輩。3年生の階は一番上なので、意外と疲れるのはわかる。


 学年が上がる度に教室が遠くなるの、個人的にはやや不満。


 お互いの靴箱に移動して、靴を履いて合流。手を繋いで学校を出た。


「今日は何処に行くんですか?」

「実はなんも考えてないんだぁ」

「じゃあ、目的も無くぶらぶらできるってわけですね」

「そういうの、好き?」

「前にも言いましたけど、目標を立ててその通りに行動するのが苦手なので、ぶっちゃけ好きです」


 先輩と一緒に歩くだけで楽しいし、会話の中身が他愛なくても最高だし。


 これがきっと恋なんだと思う。


 そんな少し恥ずかしいことを考えながら、学校を出たばかりなのに、もう手を繋いで歩き始めている。


「すっかり日が暮れるのが早くなったねぇ」

「そうですね。まだ明るいけど、気がついたら真っ暗になってますよね」

「なんだか秋って、基本的には明るいのに、たまにシリアスになるお話に似てるねぇ」


 確かにあるけども。


 普段が明るい分、シリアス展開のギャップがえげつない作品とかあるけども。


 でも私は、最終的にハッピーエンドになるならそれでも良いと思う。私たちも、そうであってほしい。


 普段歩かない道を歩いていると、工事中の看板が視界に入った。


「あ、先輩。見てください、ここにケーキ屋さんができるみたいですよ」

「いいねぇ。ここら辺にあんまりケーキ屋さんってないし」

「12月にオープンするって書いてますよ」


 クリスマスケーキの話をしそうになって、思わず口をつぐむ。先輩の誕生日ケーキの話に発展してしまうと困る。


 具体的にはまだ何も考えていないけど、サプライズ的なお祝いをしたい。先輩が、私の誕生日の時にしてくれたみたいに。


「12月といえばさ、クリスマスって空いてる?」

「えっ、あっ、勿論空いてますよ。いや、逆に埋まってますけど」

「落ち着いてぇ?」

「はい。……えっと、先輩と過ごしたいなって思ってました」

「あはぁ、うぇへへへ。うふっ、んふふ」

「落ち着いて?」


 落ち着きを失った私たちは、ケーキ屋さん予定地を眺めながら会話を続ける。


「因みにぃ、ボクはどっちとも空いてるけど莎楼は? 家族と過ごしたりとか、他の友だちと遊んだりとかする?」

「現時点では空いてますが、一応お母さんに話をしておきますね」

「はーい。あ、茶戸(さど)家のパーティーに呼んでくれてもいいよぉ?」

「それはそれでありですね」


 先輩の誕生日でもあるイブの日はデートをして、翌日は私の家でパーティー。


 私とお母さんしか居ないけど、そこに先輩が居ると嬉しい。きっとお母さんも喜ぶし。


「まぁ、まだ先のことだしゆっくり考えよっかぁ」

「そうですね。でも、イブは絶対に空けといてくださいね」

「うん!」


 そうだ。先輩の誕生日の前に、まずはおばあちゃんの誕生日がある。


 あまり先のことばかり話しても仕方ない。一歩一歩、確実に歩んでいくしかないのだから。


 手を繋ぎ直して、ケーキ屋さん予定地を離れる。次にここを訪れる時には、きっと素敵なケーキ屋さんが建っていることだろう。


「適当に歩いて来ましたけど、本当に見慣れないところまで来ちゃいましたね」

「そろそろ引き返すぅ?」

「そうしますか。お店とかも無さそうですし」


 駅まで戻って、知ってる町とかお店に行く方が確実かもしれない。


 知らないマップを探索するのもワクワクするけど、既知のマップ周回もそれはそれで楽しいから。


 学校が見える辺りまで引き返してくると、疎らに高校生の姿が見えた。部活帰りだろうか、スポーツバッグが揺れるのが遠目に見える。


「そういえば、ニケさんってまだ陸上部に居るんですか?」

「運動部は、基本的に夏の大会の後に引退してるはずだよぉ。ニケも多分そうだと思うけど」

「多分……?」

「えっ。だって明確に引退したぜ! って報告は受けてないし……」

「親友なのに、そこはふわふわしてるんですね。私以外にも少しは興味を持った方が良いですよ」

「すごいセリフぅ!」


 流石に言い過ぎたかな。そこまで自意識過剰になったつもりは無かったんだけど。


「補足しますと、私は先輩以外にはあまり関心が無いです」

「ボク以外にも関心を持った方がいいと思うよ……?」

「無くはないですよ、皆無ってわけじゃないから」

「うーん、それならまぁ……」

「ボク以外の人なんてどうでもいいでしょ、くらい言っても良いんですよ?」

「言わないよ!?」


 それぐらい独占欲が強くても平気だけど、先輩がそんなこと言うはずが無いのはわかっている。


 そんなキャラ崩壊一歩手前な会話を繰り広げていると、駅に到着していた。


 歩く速度は先輩に合わせていたつもりだったけど、思ったよりも早く着いてしまった。


「あとは電車を待つだけですね」

「そうだねぇ。……ねぇ莎楼」


 ほんの少しの緊張と、試すような熱を帯びた甘い声。


 ここで理性が崩壊したらどうなるか、わからないなんてことは無いだろう。先輩と繋がっていない右手を、ギュッと握りしめる。


「な、なんですか」

「チューしたい」

「そこそこ人が居ますよ。部活帰りの人とか」

「ボク以外の人なんて、どうでもいいでしょ……?」

「あっ!? それはズルくない!?」

「や、イヤならいいよ。大丈夫だから……」

「私が大丈夫じゃないです」


 遠慮しつつも主張の強い声。ほんのりと染まった頬。


 そして、握られた手から伝わる熱。これを無視できるほど、私は冷静な人間ではない。


 線路を背にする形で、先輩の方を向く。私の方が少し身長が低いけど、壁としては十分だろう。


「軽く、ですよ。声出さないでね」

「うん。……んむ」


 私の背中に、視線が集まっているかどうかはわからない。でも、声やシャッター音は聴こえない。


 もし知ってる人に見られたら、先輩の長いまつ毛が目に入ったから、それを取っていたんだと言い訳しよう。

次回、おうちハロウィン!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング→参加しています。気が向いたらポチッとお願いします。 喫と煙はあたたかいところが好き→スピンオフのようなものです。良かったら一緒に応援お願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ