116日目:元気の源の寄り道
※更新が遅くなり申し訳ありません。エタってません。
放課後。
いや、もちろん朝に先輩とキスはしたし、授業は真面目に受けたし、掃除当番としての責務も全うしたけど、もう放課後だ。
今日は先輩と放課後デートの日。制服デートと言い換えるのも可。
「おまたせぇ。遅くなってごめんね」
「いえ、私も掃除当番でしたし」
軽く息を切らしている先輩。3年生の階は一番上なので、意外と疲れるのはわかる。
学年が上がる度に教室が遠くなるの、個人的にはやや不満。
お互いの靴箱に移動して、靴を履いて合流。手を繋いで学校を出た。
「今日は何処に行くんですか?」
「実はなんも考えてないんだぁ」
「じゃあ、目的も無くぶらぶらできるってわけですね」
「そういうの、好き?」
「前にも言いましたけど、目標を立ててその通りに行動するのが苦手なので、ぶっちゃけ好きです」
先輩と一緒に歩くだけで楽しいし、会話の中身が他愛なくても最高だし。
これがきっと恋なんだと思う。
そんな少し恥ずかしいことを考えながら、学校を出たばかりなのに、もう手を繋いで歩き始めている。
「すっかり日が暮れるのが早くなったねぇ」
「そうですね。まだ明るいけど、気がついたら真っ暗になってますよね」
「なんだか秋って、基本的には明るいのに、たまにシリアスになるお話に似てるねぇ」
確かにあるけども。
普段が明るい分、シリアス展開のギャップがえげつない作品とかあるけども。
でも私は、最終的にハッピーエンドになるならそれでも良いと思う。私たちも、そうであってほしい。
普段歩かない道を歩いていると、工事中の看板が視界に入った。
「あ、先輩。見てください、ここにケーキ屋さんができるみたいですよ」
「いいねぇ。ここら辺にあんまりケーキ屋さんってないし」
「12月にオープンするって書いてますよ」
クリスマスケーキの話をしそうになって、思わず口をつぐむ。先輩の誕生日ケーキの話に発展してしまうと困る。
具体的にはまだ何も考えていないけど、サプライズ的なお祝いをしたい。先輩が、私の誕生日の時にしてくれたみたいに。
「12月といえばさ、クリスマスって空いてる?」
「えっ、あっ、勿論空いてますよ。いや、逆に埋まってますけど」
「落ち着いてぇ?」
「はい。……えっと、先輩と過ごしたいなって思ってました」
「あはぁ、うぇへへへ。うふっ、んふふ」
「落ち着いて?」
落ち着きを失った私たちは、ケーキ屋さん予定地を眺めながら会話を続ける。
「因みにぃ、ボクはどっちとも空いてるけど莎楼は? 家族と過ごしたりとか、他の友だちと遊んだりとかする?」
「現時点では空いてますが、一応お母さんに話をしておきますね」
「はーい。あ、茶戸家のパーティーに呼んでくれてもいいよぉ?」
「それはそれでありですね」
先輩の誕生日でもあるイブの日はデートをして、翌日は私の家でパーティー。
私とお母さんしか居ないけど、そこに先輩が居ると嬉しい。きっとお母さんも喜ぶし。
「まぁ、まだ先のことだしゆっくり考えよっかぁ」
「そうですね。でも、イブは絶対に空けといてくださいね」
「うん!」
そうだ。先輩の誕生日の前に、まずはおばあちゃんの誕生日がある。
あまり先のことばかり話しても仕方ない。一歩一歩、確実に歩んでいくしかないのだから。
手を繋ぎ直して、ケーキ屋さん予定地を離れる。次にここを訪れる時には、きっと素敵なケーキ屋さんが建っていることだろう。
「適当に歩いて来ましたけど、本当に見慣れないところまで来ちゃいましたね」
「そろそろ引き返すぅ?」
「そうしますか。お店とかも無さそうですし」
駅まで戻って、知ってる町とかお店に行く方が確実かもしれない。
知らないマップを探索するのもワクワクするけど、既知のマップ周回もそれはそれで楽しいから。
学校が見える辺りまで引き返してくると、疎らに高校生の姿が見えた。部活帰りだろうか、スポーツバッグが揺れるのが遠目に見える。
「そういえば、ニケさんってまだ陸上部に居るんですか?」
「運動部は、基本的に夏の大会の後に引退してるはずだよぉ。ニケも多分そうだと思うけど」
「多分……?」
「えっ。だって明確に引退したぜ! って報告は受けてないし……」
「親友なのに、そこはふわふわしてるんですね。私以外にも少しは興味を持った方が良いですよ」
「すごいセリフぅ!」
流石に言い過ぎたかな。そこまで自意識過剰になったつもりは無かったんだけど。
「補足しますと、私は先輩以外にはあまり関心が無いです」
「ボク以外にも関心を持った方がいいと思うよ……?」
「無くはないですよ、皆無ってわけじゃないから」
「うーん、それならまぁ……」
「ボク以外の人なんてどうでもいいでしょ、くらい言っても良いんですよ?」
「言わないよ!?」
それぐらい独占欲が強くても平気だけど、先輩がそんなこと言うはずが無いのはわかっている。
そんなキャラ崩壊一歩手前な会話を繰り広げていると、駅に到着していた。
歩く速度は先輩に合わせていたつもりだったけど、思ったよりも早く着いてしまった。
「あとは電車を待つだけですね」
「そうだねぇ。……ねぇ莎楼」
ほんの少しの緊張と、試すような熱を帯びた甘い声。
ここで理性が崩壊したらどうなるか、わからないなんてことは無いだろう。先輩と繋がっていない右手を、ギュッと握りしめる。
「な、なんですか」
「チューしたい」
「そこそこ人が居ますよ。部活帰りの人とか」
「ボク以外の人なんて、どうでもいいでしょ……?」
「あっ!? それはズルくない!?」
「や、イヤならいいよ。大丈夫だから……」
「私が大丈夫じゃないです」
遠慮しつつも主張の強い声。ほんのりと染まった頬。
そして、握られた手から伝わる熱。これを無視できるほど、私は冷静な人間ではない。
線路を背にする形で、先輩の方を向く。私の方が少し身長が低いけど、壁としては十分だろう。
「軽く、ですよ。声出さないでね」
「うん。……んむ」
私の背中に、視線が集まっているかどうかはわからない。でも、声やシャッター音は聴こえない。
もし知ってる人に見られたら、先輩の長いまつ毛が目に入ったから、それを取っていたんだと言い訳しよう。
次回、おうちハロウィン!




