10日目:十日目で先輩と上手にする方法(後編)
やらしいことをするのか、しないのか。※この部分は、大幅な改稿をしており、投稿した当時と内容が違います。あらかじめご了承ください。
「どうぞ、あがってください」
「おじゃましまーす」
喫茶店を出て駅まで歩き、駅で少し待ってから電車に乗って、私の家に到着した。時刻は午後の2時を回ったところだ。
なんだかあっという間に着いてしまった気がする。道中、どんな会話をしたのかいまいち覚えていない。心ここに在らず、とでも言えば良いだろうか。
「私の部屋は2階です」
「なんかドキドキするなぁ」
「すみません、多分それ私の台詞です」
昼に飲んだ珈琲が、全て汗に変換された気がする。どうしよう、本当にこれから私の部屋に先輩が入って、なんか会話とかした後になんらかのなんかをして、それからそれから──。
「……ねぇ、入ってもいい?」
「へ、あっはい、どうぞ開けて入ってください」
「おじゃましまーす、ってこれ2回目だねぇ」
「片付いて……ましたね、良かった」
「いつもは散らかってるのぉ?」
「散らかしはしませんが、別に整えもしないというか」
「なるほどねぇ」
先輩は落ち着いているように見える。私だけなのだろうか、夏祭りの大太鼓のように、心臓が爆音で轟いているのは。自宅なのに落ち着かないなんて、初めての経験だ。
「あ、あの。先輩」
「やめとく?」
「えっ、あの」
「やっぱりさ、ほら。君の表情が強ばってるし」
「いやいや。確かに緊張していますが、その……」
「うん?」
「優しく……してくださいね?」
「ごめん、無理」
「へ」
先輩は、私をベッドに押し倒した。思い切りではなく、それこそ優しさを感じる押し倒し方ではある。
真剣でいて、何処か照れくささを感じさせる表情。どうしよう、自分の鼓動がうるさい。思考が上手くまとまらない。
「ふ、服を脱いだりはしないでありますからね?」
「敬語が変になってるよぉ。まぁ、そこまでは期待してないよ」
そう言うと、先輩は私のことを抱き上げて座らせた。え、力強くない?
「改めて向かい合うと……緊張しますね」
「あはぁ。君の部屋のベッドの上、ってだけなのにぃ?」
「だからこそ、と言いますか」
「そっかぁ。それじゃ、早速だけど……いい?」
「ダメって言っても、するんでしょう」
やらしいことって、なんだろう。付き合ってもいないのに、まさかそんなRが18なことはしないだろう。え、しないよね。
先輩の、熱を帯びた瞳が私を貫く。さっきまでのデートが、走馬灯のように頭の中でぐるぐる回る。
「……んっ」
「ふっ……んん……」
少し汗ばんだ私の頭を撫でながら、唇と唇を重ねる。ただの、いつもと変わりのないキス。の、はずなのに。
キスより先があるんじゃないかって、期待と不安が半々くらいで私の思考を支配する。
私から離れた唇が、次の獲物を探している。
「……あの、先輩。やらしいことって、なんなんですか」
「キスより先のこと……だけどぉ、やっぱりやめておこうかな」
「どうしてですか」
「やっぱりほら、付き合ってるわけじゃないしさぁ」
私への気遣いなのか、それとも単純に一歩引いたのか。我慢したのか、勇気が無いのか。わからないけれど、キスをしただけで先輩は満足したらしい。
私は、先輩の両手を握り、軽く体重を預ける。激しい心臓の音、服越しに伝わる体温。お互いの境界線がわからなくなる感覚。
まるで、どちらが自分なのか、わからなくなるみたい。
詳しくないので語ることはできないが、いわゆる男女の仲は肉体関係が一つのゴールだが、女同士は、それをゴールにする必要はない。
なんて、昨日の夜に寝落ちするまで読んでいたサイトの、受け売りのようなものだが。
「本当に、キスだけで良かったんですか」
「んぅ? もしかして、君もしたかったのぉ?」
「そんなわけっ……ないですよ」
「そうだよねぇ。だから、この先はお預けだねぇ」
にっこりと微笑み、私から離れる先輩。
その先輩を、風邪を引いた時みたいにぼうっとしながら見つめる。綺麗だなぁ、本当に。
「先輩……キスしても良いですか」
「あはぁ。君から言われる日が来るなんてねぇ」
「い、良いじゃないですか」
「うん、いいよぉ」
ついさっきまで重なっていた先輩の唇に、自分の唇を重ねる。柔らかく、甘く、とろけるような感触。今までのログインボーナスとは桁違いだ。
「あの、今日はこれで終わりで良いでしょうか」
「正直なところ、予想より君が乗り気だったから、ボクは満足だよぉ」
「……先輩のバカ」
「ふぇっ!? ご、ごめんねぇ?」
「これからも、やらしいことなんてしませんからね」
「はぁーい」
「さて、駅までご一緒しますよ」
「大丈夫だよぉ、一人で帰れるから。それに、そんな顔で外になんて出られないでしょ」
「……そんな顔してます?」
「うん、ちょっと他の人には見せたくない顔してる」
「そう、ですか」
先輩は、まるで何事も無かったかのような顔で立ち上がる。キスを2回したくらいでは、先輩の余裕は崩せそうにない。
「あ、そうだぁ。最後に一つ、良いかな」
「なんですか?」
先輩はイタズラに微笑み、小さく舌を出して、自身の唇を舐める。そして私を抱きしめ、鎖骨辺りにゆっくりと口を近づけ、キスをした。すぼめた口で、力強く吸われる。
それはまるで、『ボクの所有物』とでも言うような、真っ赤な跡を残すための行為。
「それじゃ、またねぇ」
「……お疲れ様でした」
階段を降りる足音を聞きながら、まだ夢の中にいるような感覚の私は、赤い跡を確認するために、姿見の前にふらふらと向かう。
鏡の中の自分を見て、先輩の言っていた言葉の意味がわかった。
確かに、この顔では外には出られない。
悩みに悩んだ結果、こんな内容となりました。よろしければ、感想なんかいただけると幸いです。




