10日目:十日目で先輩と上手にする方法(中編)
好きな人と一緒に、美味しい食べ物を食べるのって幸せですよね。※後輩の誕生日を、5/12から5/27に変更しました。
「簡単なルールを考えたんだけど」
「なんでしょうか」
「自分がした質問に、自分も答えるのはどうかな」
「例えば、私が猫派か犬派かを訊いたら、まず最初に私は猫派です、と答えるわけですね」
「理解が早いねぇ。因みにボクは犬派だよぉ」
「そうなんですね」
将来、どちらを飼うかで喧嘩するのは避けたい。お互い、好きな方を飼うのは駄目だろうか。しかし、先輩が犬が良いと言うなら、犬でも構わない。私は猫派だが、犬も嫌いではない。柴犬とかは好きなくらいだ。
「それじゃあ、ボクから質問するね。第一問、趣味はなんですか。ボクはコスプレ」
「お見合いみたいな質問ですね……って、コスプレイヤーだったんですか」
「いやぁ、別にそんなイベントに出たりとかはしないけどね。本当に個人的な趣味って感じだよぉ」
「私は、やはりネトゲですかね。最近は少しプレイ時間が短くなってきていますが」
「へぇ、どうして?」
「えー……と。先輩と遊ぶ方が楽しいからですかね」
「君は本当に、突然すごいことを言い出すよねぇ」
照れ笑いのような表情を浮かべる先輩。なんだか最近、先輩相手に本音がすんなり出るようになってしまった。これは良い変化なのだろうか。先輩は喜んでいるようだし、取り敢えずは良いことにしておこう。
「それでは、私も質問しますね。第二問、お誕生日はいつですか。私は5月27日です」
「えっ、来週じゃん」
「別にアピールをしたかったわけではありませんよ?」
「そっかぁ、覚えておくね」
「ありがとうございます。……あの、先輩の誕生日は?」
「クリスマス・イブだよぉ」
「へぇ。クリスマスプレゼントと一緒にされやすいと聞きますが、実際はどうなんですか?」
「親からプレゼントなんて貰ったことないよぉ。友だちからは貰ったことあるけど」
忘れていた。先輩に家庭の話は地雷だった。薄々、不仲なのではないかと思っていたが、やはりそうなのか。
プレゼントを貰ったことがない、となると、不仲どころではない気もするけど。幼少期にも貰ったことがないのだろうか。
「あの、すみません」
「謝ることじゃないよぉ。君がそうやって踏み込んできてくれるの、すっごく嬉しいからさ」
「そう、ですか」
うん、と頷き、先輩は笑顔で私を見つめる。私に気を遣っているわけではなく、本気でそう思っているのだろう。その優しさ、私に対する好意に、何か少しでも返すことができるだろうか。……できれば、過激なこと以外で。
「それじゃ、第三問いくよぉ。初めて出会った日のこと、覚えてる? ボクは覚えてるよ」
「実はその、はっきりと覚えていないんです。先輩のバイト先で、なんか先輩が気さくに話しかけてきて、なんだかんだで連絡先を交換した……みたいな感じでしたっけ」
「そっかぁ。君にとっては、あれが初対面なのか」
「それより前に会ってました?」
「覚えてないなら、それはそれで」
「いやいや、気になるじゃないですか。教えてくださいよ」
「ランチセット、お待たせしました……」
「あ、ありがとうございます」
質問タイムの途中で、さっきの店員さんがランチセットを持ってきた。木のプレートに、珈琲とサラダと、少し大きめのアップルパイが乗っている。珈琲の湯気とアップルパイの甘い香りが、鼻腔をくすぐる。
会話は一旦中断し、ナイフとフォークでアップルパイを切る。ザクザクっと小気味よい音が鳴る。林檎がしっとりとナイフに吸い付く。これは絶対に美味しいやつだ。
切り終えたアップルパイにフォークを刺し、口に運ぶ。焼き立ての香ばしさが、口いっぱいに広がる。林檎は酸味をほとんど感じさせない甘さで、バターの加減がかなり好みだ。
「先輩、これすっごく美味しいですね」
「そうだねぇ、アップルパイ食べるならここって感じだねぇ」
「珈琲も美味しいです。ブラックなのに飲みやすいというか」
「いいお店だねぇ」
先輩は満足そうに微笑み、残りのアップルパイを頬張る。なんだか私まで笑みがこぼれてしまう。好きな人と一緒に美味しいものを食べられることは、やはり幸せだ。
「食べ終わったら、次はどこに行きます?」
「やらしぃことができるところ」
「忘れてはいませんでしたか」
「それが今日のログインボーナスだからねぇ」
「あ……あの。今日、うちの親が不在でして。良ければ私の家に来ませんか……?」
「え、いいのぉ?」
「先輩さえ良ければ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
今日一番の笑顔を私に向け、先輩は残りのアップルパイとサラダをあっという間に平らげ、珈琲をゆっくりと飲み干した。
付き合い始めたわけでもないのに、家に誘ってしまった。部屋は片付いていただろうか、玄関やリビングは整っていただろうか。いや、普通に友だちだって家に招くか。
「あの、先輩。さっきの話が途中でしたが」
「なんだっけ?」
「ほら、初対面の時の話ですよ。私の記憶が先輩と違うみたいだったので」
「だからぁ、それはボクだけ知っていればいいんだよぉ」
「なんだか釈然としませんが……」
二人で席を立ち、会計をするためにレジに向かう。カウンターのすぐ横だったので、先程の店員さんが慌ててやって来た。別にそんなに急がなくても良いのだが。
「1200円、です……」
「はーい」
「先輩、自分の分は自分で払いますよ」
「いいよぉ、ここはボクの奢りで」
「では、次回は私が払います」
「あはぁ。さりげなく次のデートの約束までしちゃったね」
店員さんに、心の中で『会計中にいつまでイチャイチャしてるんだよ』と思われていないか、少し不安になった。
次回、後輩の家へお宅訪問。




