10日目:十日目で先輩と上手にする方法(前編)
10日目はデートからスタート。3日目を読んでからお読みになっていただけると、よりわかりやすいかなって感じです。
『女の子同士の付き合い方』を検索して、3時間が経過した辺りから記憶が無い。
どうやら寝落ちしたらしい。部屋の電気はついたままで、スマホは背中の下敷きになっていた。一応、充電は切れていない。
「……寝た気がしない」
時刻は朝の10時。少し寝すぎた気もするが、寝落ちをすると爽快感が無いのは何故なのだろう。
今日は大事な日なのだから、しっかりと寝ておくべきだった。いや、それはそれで緊張して寝れなかったかもしれない。寝落ちできただけでも良しとしよう。
階段を降りて、お母さんに朝の挨拶をしようと口を開いたところで、お母さんが居ないことに気がついた。明日の朝まで帰らない旨の書き置きがテーブルの上に置かれている。もしや本当に再婚でもするのだろうか。それとも、お母さんが2人になったりするのだろうか。
ラップのかかっている皿に、おにぎりが2個乗っている。これを食べてね、ということだろう。
一つ目を頬張り、鮭フレークの塩味を感じながら、先輩にメールを送る。お昼くらいに待ち合わせで良いだろうか。それとも、今日はうちに誰もいないので……とか、お決まりのフレーズで招いてみようか。
二行ほど書き進めたところで、先輩から電話がかかってきた。こちらから連絡すると言ったのに、全くせっかちな先輩だ。そういうところも好きだけど。
「はい、もしもし。今、メールを送るところでした」
『それはごめんねぇ。もう10時だしさ、寝てたらどうしようって思って』
「それはすみません、さっきまで寝ていました」
『あはぁ、そっか。それじゃあお昼くらいに駅で待ち合わせにする?』
「そうしましょう」
『はぁい、それじゃまた後で』
通話が終わったので、おにぎりの残りを手に取り、再び食べ始める。
お昼はどこに食べに行こうか。その前に、服はどうしようか。本当にやらしいことをするなら、どこでするのが良いだろうか。
世の中の人達は、こういったことを特に悩まずに決めてデートしているのだろうか。その場のフィーリングで、なんとなくいい感じにしているのだろうか。
おにぎりを食べ終え、洗面所へ向かう。
鏡に映る自分の顔は、軟体生物でもゴリラでもない顔をしていた。ピアノの発表会を控える子どもか、大学受験に挑む高校生か。そんなところだろうか。経験ないけど。
恋をせず、他人に踏み込まず。そんな私にとっては、今まで経験してきたどの場面よりも、緊張する一日が始まる。
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「あれぇ、奇遇だねぇ」
「まさか、先輩もだとは思いませんでした」
悩んだ末、土曜日にデートした時の服を着てきたのだが、先輩もその時と同じ服を着ていた。まるで、あの日の続きのようだ。
「ふふふ」
「え、どうしたんですか先輩」
「いやぁ、同じこと考えていて良かったなぁって」
「そうですね、これしかデートに着ていける服が無いと思われなくて良かったです」
「あはぁ。もしそうだとしても、ボク的には制服でもオッケーだよ」
「その時は、先輩も制服でお願いします」
「うん」
先輩は、微笑みながら私の手を取った。周囲から付き合っているように見えていたとしても、別に構わないと思い始めている自分がいる。
「まずは、お昼ご飯にしましょうか」
「さんせーい。この前いいお店を見つけたんだけど、そこに行ってもいい?」
「それは構いませんが、なんのお店ですか?」
先輩はパフェや焼肉、ステーキ等を好むので、あらかじめ訊いておかないと心構えができない。何が来ても、断るつもりは無いけれども。
「喫茶店。珈琲がねぇ、すっごく美味しいんだよぉ」
「この街にあったんですね、喫茶店」
「最近オープンしたみたいだよぉ。見た目は古い建物だったけど」
「良いですね、そこにしましょう」
手を繋いだまま、いつもの街並みを先輩と歩く。これだけで結構楽しい。意味もなく散歩とかしてみたい。それか、将来的には犬を飼って、一緒に散歩するとか。
付き合ったり結婚したりしてから、ペットを飼ってみたいという漠然とした願望はあるが、先輩は動物は平気だろうか。
「ねぇ」
「は、はい?」
「こうやって黙ってる時ってぇ、何を考えてるのぉ?」
「それはまぁ、黙ってるってことは口にはできないようなことですよ」
「やらしぃことかなぁ」
「違います。断じて違います。そういう先輩こそ、今みたいに黙ってる時は何を考えているんですか?」
「手ぇやわらかいなーとか」
「えっ可愛い」
「どうせ変なこと考えてるって思ったんでしょ」
「いやいや、そんなことはありませんよ」
「まぁ、たまに考えてるから否定はしないよぉ」
「考えてるじゃないですか」
「あ、着いたよぉ」
前回遊んだゲームセンターから、10分ほど歩いたところに、その喫茶店はあった。確かに外観は古い。過去に何かの店として使っていただろうか。記憶を辿ってみたが、思い出せない。
先輩が、入口のドアを押して開けた。チリン、とベルが鳴る。
「……いらっしゃいませ。2名様ですか…………?」
「はい」
「カウンター…………どうぞ」
先輩と一緒に、カウンターの端に座る。なんだか物静かというか、随分と三点リーダーを多用する店員さんだ。いや、もしかすると店長さんだろうか。
「あの人さぁ、可愛いよねぇ。出会った頃の君にそっくり」
「私、あんなに三点リーダー使ってました?」
「使ってたよぉ。流石は他人に深入りしない女の子って感じだったね」
「そうですか。コミュニケーション能力の低さが露呈していたようですね」
「話すようになったら面白いタイプだよねぇ」
なんて話していたら、先程の店員さんが戻ってきた。
「あの……ご注文は…………?」
「ランチセットをー」
先輩がちらっと私の顔を見る。
「2つで」
「かしこまりました……」
ぺこり、と頭を下げて、店員さんは、カウンターの向こうの、奥にある厨房へ消えていった。
「さて。ご飯が来るまで、なんかゲームでもしよっか」
「ゲーム、ですか」
「うん。交互に質問をし合うゲーム」
「なるほど、良いですね」
案外、私は先輩のことを知らないので、こういうゲームは大賛成だ。もう一歩、踏み込んでみよう。
どうやら、デートは長く書いてしまう癖があるようです。




