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閑話:現在アップデート中

日付はとんで金曜日。

「クグルちゃーん、先輩の噂聞いた?」

「……噂?」


 今日は十三日の金曜日。残りの授業は二時間。


 だからといって別に何も無いんだけど、というかあの映画を観たことも無いんだけど、何故か意識してしまう。


 そんな、あと二時間で帰れるなぁとか明日から三連休だなぁとかぼんやり考えていた私の元に、ココさんが目を輝かせながら話しかけに来た。


「うん。なんと、隣のクラスの男子が先輩に告白したらしいよ」

「……へっ、へぇ。まぁ先輩は美人ですし、珍しいことではないのでは?」

「三年生の皆さんは既に玉砕済みで、誰も告白する人は居ないってお兄ちゃんから聞いてたんだけどさー、まさか私たちの同級生が告るとは思わなかったねー」

「因みに、いつ告白されたとかは……?」

「昨日の放課後らしいよー」


 昨日、木曜日か。私も先輩もバイトの日だ。


 バイトの後にでも寝る前にでも、話してくれたら良かったのに。いや、先輩的にはわざわざ私に報告するようなイベントでは無かったのかな。


 絶対に先輩の口から聞きたかった、とまでは思わないし。


「あとで先輩に訊いてみます」

「はーい。あ、言うまでもないけど速攻で断ったってさ」

「まぁ、そうでしょうけど」


 私が居るんだから断るに決まっている、というニュアンスを含む言い方をしてしまった。少し恥ずかしい。


 それか単純に、男子だから断られたのだろうか。


 大変だ。別に気になっていないハズだったのに、残りの二時間、まともに授業を受けられる気がしない。


―――――――――――――――――――――


「先輩。私に言わないといけないことってありませんか?」

「えっ。う、浮気とかしてる人が言われるやつじゃん……!」

「浮気してるの?」

「してないよぉ!?」


 放課後。

 あの後、本当に全然授業に集中できなかった。テスト前なのに。何をやってるんだか。


 そもそも付き合っていないので、仮に先輩が誰かと付き合ったり好意を寄せても浮気にはならない。


 ならない……のか。それは悲しいな。


「あっ、もしかして告白された件?」

「そうです。先輩が私の同級生に告白された件についてです」

「少し前のラノベのタイトルみたいだねぇ」


 駅に向かって、水分の無い落ち葉を踏みながら歩を進める。因みに今は手を繋いでいない。


 行き場の無いこの手を、ポケットに入れるわけにもいかないのでニギニギと動かしておく。特に意味は無い。


「……えっとねぇ。君に話さなかったのは、告白してくれた男子に悪いと思ったからなんだぁ」

「悪い、ですか」

「うん。ボクが告白されるのって、イコール振られる人がいるってことだから。ボク自身が誰かに吹聴することじゃないなぁって」

「なるほど。なんとなくわかりました」

「もしかして、話さなかったこと怒ってる……?」

「え、そんなに怖い顔してました?」

「してないけど……」

「怒るわけないじゃん。ただ、噂を聞いたから確認しようと思っただけですよ」

「そっかぁ。もしかして、嫉妬した?」


 今回のこの感情は、嫉妬でも焦燥でも無い。

 じゃあなんだろう。自分ができない告白(こと)をした、名も知らぬ同級生への賛辞……も違うか。


 もしかしたら先輩が私以外の誰かと付き合うかも、と不安になったわけでもない。自分に絶対の自信があるわけではないけれど。


「……自分でもよくわからなくて。ごめんなさい、踏み込みすぎてしまいました」

「前にも言ったけど、君が踏み込んでくれるとボクは嬉しいんだよ?」


 出会ったばかりの頃や、ログボが始まった頃に比べたらかなり踏み込めるようにはなった。


 その男子生徒と違って失敗こそしたけど、告白だってできるところまでアップデートされたんだから。


「では、もう少しだけ踏み込んでも?」

「いいよぉ。なぁに?」

(ススギ)さん以外の女の子に告白されたことってあります?」

「あるよぉ。街を歩いてる時に、大人のお姉さんに声をかけられたことも何回かあるし」

「そういう時って、どうしてるんですか?」


 コンビニの横を通って、自転車に乗っている小学生男子三人組とすれ違い、仲良く喋る女子中学生の二人組が正面から来た辺りで先輩は口を開いた。


「前までは『誰とも付き合うつもりはない』って断ってたんだけど、最近は『好きな人がいるから』って言ってるよ」

「へ、へぇ」

「大人のお姉さんたちにはねぇ、センパイの名前を出すと効果的なんだよぉ」

「それは初めて聞く話です」

不行(いかず)市で生きるなら、敵に回しちゃいけない三人の一人らしいよ」

「なんか、そういう設定のラノベを読んだことがある気がします」


 突然、話の方向性が変わりそうな話が出てきた。


 高校生の頃は陸上部だったらしいし、今は普通に大学生のハズだし、怖くて危険な人というイメージは全く無いけど。単なる噂だろうか。


「まぁ、ともかくそんな感じでお断りしてるんだぁ」

「参考にする日は来ませんが、勉強になりました」

「莎楼も、告白されたりするかもよぉ?」


 登場人物の性別を問わず、恋愛がメインテーマの作品において、よくわからないキャラが告白してきたりする展開は私はあまり好きじゃない。


 日常にそういう波が立つのって、精神衛生上あまり良くない気がするし。


 ……あ、そうか。先輩が告白されたって聞いて、わざわざ確認までした理由はそこにあるのか。


「もし私が告白されたら、先輩はどう思いますか?」

「どっ……えっ、えっ、どうしよ?」

「もしもの話なんですけど……」

「もっもし告白されたら、ボクに話してね?」

「えー? 先輩は言わなかったのにー?」

「根に持っ、いっいじわるぅ!」

「落ち着いて先輩、しどろもどろ過ぎです」


 もしもの話なのに、しかも自分が告白されても冷静なのに、私のことになると先輩はこんなにも慌てちゃうんだ。可愛いな、そういうところも好き。


 今まで生きてきて、私に告白をしてくれたのはまーちゃんだけだ。

 先輩には毎日キスしてほしいとか結婚してとか言われてるけど、告白は……あれ、それってもう告白なのかな。


 先輩が落ち着いたと思ったら、もう駅に着いていた。


「明日から三連休ですね」

「月曜日が敬老の日だもんねぇ」

「息抜きというか、一日くらい遊びませんか」

「いいよぉ。じゃあ、日曜日にしよっか」

「楽しみにしてます」


 良かった。十三日の金曜日だけど、断られたりしなくて。


 普段の連休ともなれば、お泊まりイベントが発生するけど流石に今回は仕方ない。自粛しよう。


「電車、来たよぉ」

「では、また明後日」

「うん、またねぇ」

「あ。先輩、言い忘れていたことがあります」


 電車のドアが開いて、乗り込みながら先輩の方を振り向く。私の次の言葉を待つ先輩に、ちゃんと聞こえるように大きく口を開く。


「大好きです」


 ドアが閉まり、頬を赤く染めて、大きく手を振る先輩に手を振り返す。


 告白の本番はもう少し先だけど、先輩の告白されたというデータを上書きしておいた。


 やっぱり嫉妬していたのかな、なんて。

次回、久しぶりのログボ!

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