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78/79日目:ツーデイズ④

テストの二日間をまとめて。

78日目:水曜日


 テスト初日。

 今日は得意科目の現代文と世界史、好きでも嫌いでもない科学がある。


 苦手な数学が明日だから、少し助かる。

 一日勉強する余裕があるから。


 夏休み前に貰ったプリントもしっかり取り組んだし、今回はかなり自信がある。


 なんて意気込みながら電車を降りると、軽快な足音と共にいい匂いが背後からやってきた。


「おはよぉ」

「おはようございます。今日はテストが終わったらすぐ帰りますか?」

「そうだねぇ。一応、明日に向けて勉強しないとね」

「珍しいですね。ガチってことですか」

「あはぁ。だって、これでもしボクの順位が下がったりしたら、ゲームとして楽しくないじゃん」

「それはまぁ、確かにそうかもしれませんが」


 本気を出した先輩に敵う気がしないけど、無理ゲーほど燃えるのがゲーマーというものだ。


 手は繋がず、学校までゆっくり歩く。


 テスト前特有の、引き締まった空気感をひしひしと感じる。一応、うちの高校は市内で二番目に頭が良いと言われているから、当然と言えば当然なんだろうけど。


 学校に到着し、玄関で先輩と別れる。

 夏休み前だったら、一緒に第二理科準備室に向かっていただろうな。


「それじゃ、また後でねぇ」

「はい、また後で」


 その一言だけで、一緒に帰れることが確定する。

 ついでに、駅に着くまでの何処かでキスをすることも。


「……よし、頑張ろう」


 誰にも聞こえない大きさで呟いて、気合いを入れる。

 テストというゲームを、コンティニューせずにクリアしてみせる。


79日目:木曜日


 テスト二日目。言い方を変えれば最終日。

 今日はあまり好きではない英語と、暗記するだけの日本史、そして最も苦手な数学がある。


 昨日のテストはかなり手応えがあったので、今日を乗り切れば順位アップが期待できる。


 早めに席に着いて、最後の悪足掻きのために、ノートと夏休み前に貰ったプリントを見直す。


「おはよー、クグルちゃん」

「おはようございます、ココさん」


 すっかり朝の挨拶を交わす関係になったココさんが、私の机の上に一枚のルーズリーフを置いた。


「……これは?」

「今回のテスト、特に数学の攻略情報だよー」

「え、ココさんってテストの問題すらお見通しなんですか」

「まさかー。これはお兄ちゃん情報だよ」


 手に取って読んでみると、出題傾向やこれだけは覚えておきたい方程式……等が書かれている。


 私はチートは使わないけど、攻略サイトは見るタイプだ。だから、これは遠慮なく使わせてもらおう。


「ありがとうございます」

「勝てると良いねー、先輩に」

「……その話、ココさんにはしてないと思うんですけど」

「そうだったっけ?」


 全く、驚きすぎて最近では感覚が麻痺してきている。

 まさか盗聴なんてしてないだろうから、普通に超能力者であることをカミングアウトしてもらいたい。そっちの方が納得だ。


 斜め向かいの席に座るココさんを見つつ、そんな馬鹿な考えは止めて、すぐにルーズリーフに視線を落とす。

 数学は暗記と応用なんてよく聞くけど、私にはどうも難しい。


 テスト開始まで残り十分になったところで、今日でテストが終わりだから、放課後はバイトがあることを思い出した。数学で頭がいっぱい過ぎて忘れてた。


 スマホを見ているココさんに話しかける。


「ココさん」

「どうしたのー?」

「あの、今日バイトに行くんですけど。一緒に行きませんか」

「行く行くー。このまま行って良いの?」

「はい。特に何も用意するものはありません」

「はーい」


 今日は先輩もバイトの日だから、ログボを渡していないのに会えないということになる。


 え、それはマズイな。バイトの後に会えるかな。

 でも明日も普通に学校だし、明日の放課後にお泊まりがスタートすることを加味すれば、今日くらいは仕方がないか。


 違う。ログインボーナスというものは、今日を犠牲にして明日に全てを託すものではない。


 テストというデイリークエストとバイトというミッションをクリアしたら、ログインボーナスを渡そう。


 順序が逆だけど。


―――――――――――――――――――――


「改めて……よろしくお願いしますね、(あたり)さん…………」

「こちらこそ、よろしくお願いしますー」


 無事にテストをクリアした私とココさんは、Ventiで仕事着に着替え終えたところだ。


 今日から一緒に働くことになったわけだけど、それがどんな影響を及ぼすかは未知数だ。


「シフトは……どうしますか……?」

「いつでも良いですよー。クグルちゃんと違う方が、お店的には助かりますー?」

「そうですね……。特に忙しいのは金土日なので……そこら辺に入ってもらえると嬉しいです」


 金土日。完全に私が入らない日だ。申し訳ない。


 そうなると、ココさんと一緒の日に働くということは基本的に無さそうだ。


「それじゃ、そんな感じで入りますねー」

「また詳しく決まったら……お話しますね……。今日は茶戸さんに仕事のやり方を……教わってください……」

「はーい」


 取り敢えず、一緒に皿洗いをすることにした。今はお客さんが居ないし。


「バイトを始めることにした理由、訊いても良いですか」

「良いよー。私もさ、青春してみたくなったんだよね」

「してないんですか?」

「クグルちゃんはさー、刑事ドラマを観て警察官になりたいって思うタイプ?」

「思わないタイプですけど」

「私もそう。だから、物語は見るだけで満足してたんだけどねー」

「なるほど。経験に勝るものはありませんからね」

「セイナとかシオリとか、それこそクグルちゃんと先輩とか見てたらさー、私も『そっち側』に行ってみたくなって」

「ココさんも、最初から物語の登場人物でしたよ」


 ココさんは数少ない私の世界の登場人物で、今では欠かせない存在になっている。


「それでも、二人の邪魔だけはしないから安心してね」

「誰にも邪魔なんてできませんよ」

「かっこいいねー!」

「わっ、急に大きい声を出さないでくださいよ」

「ごめんごめん」


 なんて雑談をしている内に、全ての洗い物が片付いてしまった。


 後は注文を取る時の注意とか、机を拭くこととかを説明しよう。


「次にお客さんが来たら、試しにココさんが接客してみてください」

「本当に良いのー? 次に来るのは先輩だけど」

「はい。……え?」


 チリン、と鈴が鳴って扉が開いた。


「い、いらっしゃいませ」

「あはぁ。そんなに慌てなくてもいいじゃん」


 そこに立っていたのは、本当に先輩だった。

 え、だって今日はバイトの日だしまだ働き始めてから一時間も経過してないし、どうして来たのか本当にわからない。嬉しいけども。


「どうしてここに?」

「今日はお客さんも少ないし、センパイだけで回せるから休んでいいよって店長から電話がきてさぁ」

「そうだったんですね。取り敢えず、お好きな席へ」


 カウンター席に座った先輩は、珈琲だけ注文した。それをマスターに伝えるために、ココさんが厨房に向かう。


「ねぇ莎楼。今日のログボちょーだい?」

「勿論、お渡しするつもりではありましたが。ここで、ですか?」

「うん。ボク、もう我慢できないんだよねぇ」

「注文は珈琲だけでは」

「店員さんをテイクアウトしたら怒られるぅ?」

「怒られますよ。そういうお店じゃないし」


 厨房の方をチラッと確認してみたけど、全然ココさんが戻ってくる気配が無い。

 もしかして、気を遣われているのだろうか。それか、こっそり物語として読まれているのか。


 あまり先輩を焦らしても良いことはないので、ココさんと珈琲を待たずに、キスをした。


 なんだか、とてもいけないことをしている気分だ。


「あはぁ。ありがとぉ」

「……明日の放課後、楽しみにしてますから」

「うん。ボクも楽しみぃ」

「お待たせしましたー、珈琲です」

()()()()()()()()()()()()ココ」

「なんのことですかねー。ま、ごゆっくりしてください」


 珈琲の乗っていたお盆を片手に、鼻歌混じりでココさんは厨房に消えていった。バイト初日っぽさが微塵も感じられない。


 珈琲を飲み始めた先輩に、さっきのココさんとの会話を思い出しながら話題を振ってみる。


「先輩は、青春してます?」

「してるよぉ。君は?」

「してますよ。例えば、今とか」


 珈琲が無くなるまで、他愛の無い話をしよう。

 それが、今日の私の物語になる。

また更新が遅くなりすみません。先日、久々にポイント評価をしていただけて感動しました。

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