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74日目:サマープール・ダイバー(前編)

いざ、総勢9名でプールへ。

『今日は8月20日、火曜日。絶好のお出かけ日和ですね!』


 素敵な笑顔で話すアナウンサーのお姉さんを見ながら、夏休みの終わりも見えてきたなぁとしみじみ感じる。そんな朝。


 日曜日は先輩がニケさんとアラさんと遊びに行ったので会っていない。昨日はお互いバイトだったから会えず。


 そうこうしてるうちに、夏休みが残り1週間を切ってしまった。今日を含めたら、残りは6日。


 しかし、そんな感傷に浸っている暇は無い。

 何故なら今日は、待ちに待ったプールの日だからだ。


 時計をチラチラ確認していると、家の前に車が停まる音が聞こえた。インターホンが鳴る前に、玄関に向かってドアを開ける。


 外に半歩出た瞬間に、車を降りたヒアさんと目が合った。


「お待たせ、サドちゃん」

「お迎えありがとうございます、ヒアさん」


 お姉さんの言う通り、今日はお出かけ日和だ。


 8月の終わりが近づいているのを感じさせない、そんな陽射し。まだ朝の8時なのに、既にコンクリートは熱くなっている。


 車のドアを開けて、後部座席に乗り込むと先輩が座っていた。助手席にはキツちゃんが座っている。


「おはようございます、先輩とキツちゃん」

「おはよぉ」

「おはようございます。クグルさん、今日は誘ってくれてありがとう」

「いえいえ。こちらこそ、来てくれて良かったです」


 挨拶もそこそこに、私がシートベルトを着けたのを確認したヒアさんが、ゆっくりとアクセルを踏み込む。


「ニケとアラは、マスターが車で送ってくれるってさぁ」

「ココさんとアキラ先輩は、電車で来るそうです」

「一度にこんなに人が出てきたら、誰が喋っているのかわからなくなりそうだよねぇ」

「誰に対する、どういう心配ですかそれ」


 台本のように、台詞の前に名前を書かないとダメだろうか。いや、自分でも何を言っているかわからなくなってきた。


 今日は、総勢9名でプールで遊ぶ。


 自分史上、同時に遊ぶ人数としては最多となる。


 ネトゲのクエストは同時参加可能人数が12人だから、それよりは少ないと考えよう。比較対象として間違っている感は否めないけど。


「そろそろ着くよ」

「私、市民プール以外のプールって初めてです」

「ボクも行ったことないんだよねぇ、不行スパランド」


 不行スパランド。


 温泉とプールの両方が楽しめる完全室内型の施設で、プールにはウォータースライダーもある。

 レストランやお土産屋さんもあり、不行市屈指のレジャー施設となっている。


「ヒアちゃん、温泉も入るの?」

「私はプールの後に入ろうかな」


 温泉か。前に先輩と一緒に行って、まーちゃんに会ったことを思い出す。


 先輩以外の人と一緒にお風呂とか、普通に緊張する。

 変に意識することでもないんだけど、裸を見られるのってなんとなく恥ずかしい。自意識過剰ってわけではなくて。


 信号を右に曲がると、不行市内ではかなり珍しい大きな建物が見えた。不行スパランドだ。


 スムーズに駐車場に入り、バックで停まった。ヒアさんは、頭から入れるのが好きではないらしい。


 車を降りると、入口横にある自動販売機の近くに見覚えのある3人が見えた。


 マスターとニケさんとアラさんだ。


「おはようございます。結構待ってました?」

「おっす、後輩ちゃん。いいや、あたし達も今来たところ」

「私も……参加して良いんですか……?」

「はい。マスターさえ良ければ、ですけど」

「どうせ店は休みにしてきたんでしょ。たまには若い子と遊ぶのも良いと思うケド」


 と、ヒアさんはニヤニヤしながらマスターに言った。お二人とも若いと思うけど。


「そうだよ、ですよお姉ちゃん。こういう時は、皆で楽しむのが一番」

「そうっすよ、お義姉さん」

「……誰がお義姉さんですか…………ニケさん?」

「すっ、すみません。クワエさん」


 あれ、マスター公認のカップルじゃなかったのか。お二人のご両親は知っていたりするのだろうか。どうなんだろう。


 私のお母さんは賛成派だから良いけど、親に反対されることはそんなに珍しいことではないと思う。


 性別云々を抜きにしても、自分の子どもが選んだ恋人ってそんなに認められないものなんだろうか。子どもの私にはわからない。


 好きになってしまったら、誰に何を言われても自分の恋心を否定することなんて無理だと思うけど。


「クグルちゃーん。私たちで最後?」


 右手側の歩道から、ココさんとアキラ先輩がやって来た。


 アキラ先輩は久しぶりに見たけど、やっぱり大きい。そして鋭い目つきも、刈り上げられた短髪も変わらない。


「ココさん。はい、これで全員です」

「男は俺だけか」

「変な人が寄ってこなくなりそうで助かるよぉ」

「カサは美人だもんな」

「褒めても何も出ないよぉ?」


 先輩とアキラ先輩は同級生。だから、親しく会話するのは何もおかしなことではない。


 私より先に先輩に出会っているのかもしれないし、付き合っているわけでもないのに口出しなんてできない。


 そんな私の様子に気がついたのか、ココさんがアキラ先輩に小声で話しかける。


「ダメだよお兄ちゃん、クグルちゃんの前で先輩と親しげに話したら」

「……すまん」

「今日の私たちは、あの2人のおまけなんだから。サブキャラに徹してよ」

「わかった、任せろ」


 心做しか、アキラ先輩がさっきより小さくなった気がする。


 ココさんの中では、あくまで私と先輩が主人公なのだろう。それもなんだか不思議な話だけど。


「それじゃ、みんな揃ったし入ろっかぁ」


 先輩のゆるい声を合図に、九人で自動ドアを抜ける。


 まず、靴を脱いで鍵付きの靴箱にしまう。その後に券売機で必要なものを購入し、まとめて支払うシステムのようだ。


「まずは高校生チームからお金払って。私とカロときーちゃんは別だから」

「高校生チームはボクがまとめて買うよぉ。高校生が6人っと。タオルとかは持ってきてるよね?」


 全員静かに頷く。念の為、お風呂道具も持ってきてるし大丈夫だ。


 続いて、ヒアさんが大人2人と小学生1人分の券を購入する。それを見たマスターは、静かに財布を鞄に戻した。


「後で……払うね」

「いらない」

「じゃあ……珈琲を一杯タダにする……」

「ん」


 お二人も十分若い、とさっきは思ったけど、いや勿論若いんだけど、大人の余裕というか距離感というか、それがとてもかっこいい。


 成人した先輩と自分を妄想する。

 その時、先輩の隣に居られていると良いな。


 全員分の支払いが終わり、私は先輩と、ニケさんはアラさんと、ヒアさんはキツちゃんとマスターと、ココさんはアキラ先輩と隣合ってプールへ向かう。……あれ、複数人で集まっても一緒に行動する人は変わらないな。


 こうして、先輩と私の希望で計画された夏のプール遊びが始まろうとしていた。

沢山人が出てきて、誰が喋っているかわかりにくかったらすみません。次話もこんな感じです。

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