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70日目:旅行の終わりに(前編)

北海道旅行、完結編。

 目を覚ますと、同じベッドの中で眠る先輩の寝顔が目の前にあった。


 至近距離で見ると、本当に綺麗でドキドキする。見慣れたはずなのに、どうにも慣れない。

 まぁ、遠目で見ても美人なんだけど。


 部屋の時計を見ると、朝の7時だった。夜更かしをしたのに随分と早起きだ。体内時計に文句のひとつでも言ってやりたい。


 二度寝しても良いけど、逆に先輩より寝てしまう可能性もある。ここは素直に起きておこう。

 ベッドから出て、テーブルの上に置いて充電していたスマホを確認する。


 チェックアウトは11時だから、まだ余裕はある。

 ホテルを出たら何処かに荷物を置いて買い物に行こう。コインロッカーとかで良いかな。


「んぅ……もう起きる時間……?」

「えっと、今は7時です」

「じゃあ……もう少し寝る……」

「わかりました」


 昨日の夜、散歩から戻ってきた後のことを思えば、先輩が起床できないのも無理はない。


 函館を歩き、ホテル近辺を歩き、そして寝る前には……いや、このことは振り返らないでおこう。思い出すだけで顔から火が出そうになるから。


 因みに今回は節約のために、朝食ブッフェは付けていない。ホテルの醍醐味とも言えるけど、飛行機代が軽視できないから仕方がない。


 近くにコンビニもあるし、お腹を満たすことはそんなに難しくはない。

 チェックアウトまでまだまだ時間もあるし、どうしようかな。


「やっぱり、二度寝しようかな」


 スマホを置いて、起きる前と同じように、眠っている先輩の横にお邪魔する。ぬくもりといい匂いに包まれて、すぐに私は眠りに落ちることになった。


―――――――――――――――――――――


「莎楼ぅ、起きてぇ」

「あ……おはようございます」

「おはよぉ。君も二度寝したんだね」

「はい。先輩の寝顔に誘惑されまして」

「あはぁ。そう言われると照れるなぁ」


 当初の懸念は正しかったというか、先輩の方が先に起きてしまった。まぁ、別に大したことではないけど。


 部屋の時計を見ると、チェックアウトの1時間前になっていた。え、そんなに寝てたのか。

 歯を磨いて洗顔をして、荷物をまとめて出るだけだから大丈夫かな。


「先輩も、流石にお疲れだったようですね」

「えっと……まぁ、そうだねぇ。あのさ、怒ってない……?」

「どうして私が怒るの?」

「だって君はさ、ボクが()()()()()()をするから恋人になってくれないんでしょ?」

「えっ、ずっとそう思ってたんですか?」


 私のせいで、先輩に変な誤解をさせてしまっていたようだ。関係性にこだわりは無いと前に言っていたけど、本当はやっぱり恋人になりたいんだ。ちょっと安心。


「違うのぉ……?」

「違いますよ。ただ」


 少し考えて、言葉を紡ぐ。


 会話ログなんて無くても、会話を記憶している先輩にならきっと伝わると信じて。


「ただ、『そんな顔』にならないって確信が持てていないだけだから」

「……あはぁ。学祭の時のことかぁ」

「流石、その通りです」

「じゃあ、ボクはこれからも今まで通りにするねぇ」

「はい。そうしてください」


 尊大で傲岸不遜で唯我独尊な感じで、寛大で眉目秀麗で天真爛漫な感じの、時に明るく時に素で本音を話してくれる。そんな先輩のことが私は好きなんだから。


「それじゃ、帰る準備しよっかぁ」

「はいっ」


 先輩が洗顔に向かったので、先に荷物をまとめることにした。


 窓の外に広がる、札幌の街を見下ろす。この景色ともお別れか。なんて、寂しい気持ちになったらまた先輩にツッコまれちゃうな。


―――――――――――――――――――――


 無事にチェックアウトを終えて、ホテルを出た。

 日も高くなってきたし、今日も暑い。雨よりよっぽど良いけど。


 荷物が邪魔だから、早々に何処かに置きたい。やっぱり私も、先輩みたいにキャリーバッグを買えば良かったな。


 次の旅行までには絶対に買うと決心しながら、最寄りの駅に向けて歩き出す。


 札幌駅まで行けば、駅の中とその近辺に沢山お店があるらしい。そこでお土産を買ったりとかしよう。


「先輩は、誰にお土産を買う予定ですか?」

「んー。ニケとアラでしょ、センパイとタイラちゃんに……あとはおばあちゃんとお義母さんかなぁ。莎楼は?」

「ニケさんとアラさんと、ヒアさんとキツちゃんとマスターとお母さんですかね。ココさんにも買おうかな」

「ボクとほとんど一緒だねぇ。でもバイト先かぁ、考えてもいなかったよ」

「というか先輩、案外渡す人が少ないですね」

「そうかなぁ。あ、大事な人を忘れてた」

「誰ですか?」

「く・ぐ・るっ!」

「一緒に行った人に渡すもんでしたっけ、お土産って」

「なんかさぁ、旅の思い出になりそうなものを買おうよ。ね?」

「まぁ、良いですけど。北海道らしいものとか?」

「そこにこだわらなくてもいいんじゃない?」


 そう言われてみると、加木に行った時も別に何も買わなかったな。


 食べ物はよく食べるし、服を買ったりするデートもしてきたけれど、それ以外に形に残るものって無いかもしれない。


 ログインボーナスと言いつつ、形のあるアイテムみたいなものを渡したことってほとんど無いし。


 地下にある駅に到着し、札幌駅を通過する電車を待つ。都会なだけあって、すぐに来るみたいだ。


 不行だと一本逃すとかなり厳しいからなぁ。


―――――――――――――――――――――


「これが札幌駅……」

「すごい広いねぇ」


 服屋、飲食店、コンビニ等が複数入っていて、老若男女問わず多くの人が行き交っている。


 とにかく広い。東口と西口に分かれていて複雑というか。10番線まであるみたいだし。


 取り敢えずロッカーを見つけたので、財布とスマホの入ったショルダーバッグ以外の荷物を入れることにした。

 先輩はそのまま持って歩くみたいだ。買ったものとか入れられるだろうし便利だなぁ。


 案内板を見て、駅の全貌を掴もうと必死に読む。気が遠くなるほど広いということや、様々なお店の入っている駅ビルが隣接していること等がわかった。


「一階の駅本体以外と地下一階が全て商業施設になっているみたいです。ここまでくると、駅というよりお店がメインですね」

「本当にここでなんでも解決しそうだねぇ」

「まずは何処から見ましょうか」

「南口の……駅ビルから見てみよっか。それとも別行動するぅ?」

「先輩の口から、そんな言葉聞きたくなかったな」

「ふぇっ」

「ふふっ、離しませんよ?」


 先輩の、キャリーバッグを持っていない左手を掴む。

 広くて人が沢山いるところなんだから、間違っても別行動なんてするわけがない。


 そうじゃなくても、この手のぬくもりを手放してまで見に行きたいお店とか無いんですよ。先輩もそうですよね、とは流石に言えない。


 繋いだ手から伝わったりしてくれないかな。なんてね。

本当に本当に更新遅くなってすみません。次で北海道編は完結の予定です。

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