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69日目:函館ロマンス(中編)

※後編となる予定でしたが、長くなったので続きます。

 たくさん並んでいる赤レンガの倉庫を見て、歴史を感じていると先輩が写真を撮り始めた。


 観光客が随分と多い。聞こえてくる言葉も、日本語だったり海外のものだったりと多種多様だ。


「歴史のある景観って素敵だねぇ」

「修学旅行先の京都とかも楽しかったですか?」

「ボクは結構楽しかったけど、みんなはあんまり神社仏閣には興味なさそうだったよぉ」

「やっぱりそんな感じになりますよね」


 あれは未成年の頃には価値がわからないものよ、とお母さんも言っていた。思うに、高校の修学旅行で見るには尚早な概念なのだろう。

 そんなことを言っても、私も今年見に行く予定なんだけどね。


 一通り写真を撮り終えたらしい先輩に手を握られ、綺麗な石畳の上を歩き始める。


 橋のようなところに着いて、流れる川を見る。川じゃなくて海かもしれないけど。運河ってやつなのかもしれないけど。

 知識が無くても、なんとなくで楽しむのが旅行の秘訣だと思う。


 沢山のベンチが並んでいて、水の上には船が何艘か浮かんでいる。


「あそこドラッグストアなんだねぇ。見た目は赤レンガ倉庫なのに」

「外観はそのままで、中は違うみたいですね」

「他のお店もそんな感じみたいだねぇ」

「あ、なんか撮影用の看板みたいなのがありますよ」


 顔出しパネルとはまた違う、『Welcome to HAKODATE!』という文字とご当地キャラの描かれた看板が地面に立ててある。

 それとレンガで出来ている、半分に欠けた塀のようなものに鐘がついているものがセットで撮影スポットになっている。言語化するの難しいな。


「じゃあ、そこに立ってぇ」

「一緒に並んで写りたいな」

「えっ……あ、そこのお姉さん! 写真撮ってぇ!」

「あ、良いですよ〜。はい、ポーズ」


 通りすがりのお姉さんが、先輩のカメラで写真を撮ってくださった。スマホで自撮りをすることが多い昨今では珍しいことかもしれない。


「はい、うまく撮れたかわからないけど〜」

「ありがとうございました」

「ありがとぉ、お姉さん」


 お姉さんは先輩にカメラを返して、笑顔で去っていった。


「すみません、わがままを言って」

「いいんだよぉ。どんどん言ってねぇ」


 そこからまた少し歩くと、大きなピエロの看板が目立つ緑色のお店が現れた。

 先輩の言っていた、ハッピーピエロだ。


「ここにもあったんですね」

「ここで食べよっか」


 店内は、昼前にも関わらず賑わっている。入ってすぐのところにピエロの置物がある。ハッピーくんって名前らしい。


 入口付近に貼ってある紙を見ると、先にレジで注文をしてから、お好きな席へどうぞと書かれている。


 列の後ろに並んで、貼ってあるメニューを眺める。ハンバーガーショップというよりはファミレスのような品揃えだ。ハンバーガーは勿論、焼きそばやオムライス、カレーライスなんかもある。


「この、チャイニーズチキンっていう唐揚げのようなものが名物みたいですね」

「ハンバーガーだけじゃなくて、色んなものにセットでついてくるみたいだねぇ」

「取り敢えず、一番人気のチャイニーズチキンバーガーにします」

「ボクもそうしよっかなぁ。あとオムライスとフライドポテト」

「流石、いっぱい食べますね」


 いっぱい食べる先輩のこと、好きだけど。

 もし先輩が突然ダイエットとか言い出して食事制限とか始めたら、ショックで寝込むかもしれない。なんて。


 レジが複数あるので、案外早くに私たちの順番が来た。

 さっき話していたものと、追加でハッピーエッグバーガーも頼む先輩。食事制限なんて始めるはずも無さそうなその勢いに安心した。


 奥の方の席に座り、店内を見回す。カラフルというかインパクトが凄いというか、まるでテーマパークのようだ。


「あ、水取ってきますね」

「ありがとぉ」


 セルフサービスの水を二つのコップに注ぎ、席に戻る。


「この席、海が見えて良いですね」

「そうだねぇ。不行には海がないもんね」


 やっぱり、さっきのは川じゃなくて海だったみたいだ。海が身近じゃないせいで変な誤解をしていた。


「食べ終わったら、五稜郭に行きましょう」

「うん。バスとかで行けるかなぁ」

「ここから歩いて行くには遠いのかな」

「かなり遠いねぇ。タクシーとかで行ってみる?」

「私は、節約した方が良いと思うけど」

「行きのタクシー代が浮いたわけだしさぁ」

「一人千円くらいか……ちょっと贅沢だけど、そうしましょうか」

「あ、敬語に戻ったぁ」

「えっ、あー……先輩、気づいても指摘しないで?」

「ふぇっ、あっ、わかったよぉ!」


 自分がタメ語で喋っている自覚すら無かった。同級生ごっこの時から境目がわからなくなっているのかも。

 敬語を遣わずに会話するのはかなり先のことになると思っていたのに、意外と近い未来だったみたい。


「お待たせしました、チャイニーズチキンバーガー二つとハッピーエッグバーガー、チャイニーズチキンオムライスとハピポテです」


 注文通りなのかわからないくらいのカタカナの数に圧倒されつつ、店員さんに頭を下げる。


 食べる前に、誰に見せるわけでもないけどスマホで写真を撮る。

 ハピポテことフライドポテトは、マグカップに入っていて大量にチーズがかかっている。


「それじゃ、いただきまぁす」

「いただきます」


 がぶり、とハンバーガーを齧る。チャイニーズチキンの正体は甘塩っぱい唐揚げだったのか。ジューシーでハンバーガーとの相性は抜群だ。流石は一番人気。


 ポテトも、チーズが濃厚で美味しい。


「オムライスもおいしぃよぉ。ほら、君も食べてみて」

「あーん」


 アーンを促される前に口を開けてしまった。

 うん、少し油を感じるチキンライスと卵がバッチリだ。自分で作るオムライスに良い意味で近い気がする。


 私はハンバーガーを一つ頼んだだけだったので、そんなに時間はかからなかった。ので、先輩が全てを食べ終えるまでの時間を、ゆっくり眺めることに使える。


 やっぱり、何かを食べる先輩を見るのは楽しい。ハンバーガー、オムライス、ポテト、チキン……まるで食べ放題のパーティー会場の一角だ。


「なぁに、そんなに見つめてぇ。まだ食べたいの?」

「い、いえ。そういうわけでは」

「ごめんねぇ、待たせちゃって」

「いえいえ。先輩が食べてるのを見るの、好きですから」

「愛の告白」

「ではないです」


 先輩のお腹と心を私が満たしたい、まで言ったら愛の告白だろうか。


 照れくさいのを誤魔化すために、目線を先輩から窓の外の海に向ける。


 海より青いな、私。

次回こそ函館デート完結です。次はもっと早く更新します。

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