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66日目:ステイ・ウィズ・ミー(後編)

寝る前のアレコレ。

「本当にお湯溢れなかったねぇ」

「ピッタリ過ぎて逆に怖かったです」


 お母さんに体重把握されていることに驚きつつ、無事にお風呂を済ませることができた。


 いつでもすぐに寝られるように、先に歯を磨いて、先輩はコンタクトレンズをつけずに部屋に戻ってきた。


 窓は朝から開けてあるけど、扇風機を回して更に涼を得よう。


「あとは寝るだけだねぇ」

「まだ寝るには早いですけどね」

「じゃあ、アレ見たい」

「アレ、とは」

「君がやってるネトゲ。見てみたいなぁ」

「別に良いけど、楽しくないと思いますよ。先輩、コンタクトつけてないし」

「モニターくらいの近さなら見えるから大丈夫ぅ」


 最近だとゲーム実況とか流行ってるし、そういう感覚なのだろうか。

 私がやっているゲームは、見てもそんなに楽しいものではないと思うけど。


 パソコンの電源を入れて、ゲームのアイコンをクリックする。すぐに起動され、宇宙空間を船が行き来するオープニングが流れ出す。勿論スキップするけど。


「宇宙が舞台なのぉ?」

「一応そうですね。一応」


 スターでウォーズ的な感じのゲームではないから、一応とだけ言っておく。

 色々な惑星を船で行き来して、その星の原生生物と戦ったり、宇宙全体で悪いことをしている敵を倒したり、なんて説明しても楽しくないだろうし。


 ログインが完了し、今日のログインボーナス取得画面が表示された。


「ボクが来る前に、ログインは済ませてると思ってたよ」

「連続ログインしても別に何が変わるわけでもありませんし。それに、クエストとか誘われたら面倒でしたから」

「ふーん」


 ログボ取得画面が終わると、マイキャラはマイルームに立っていた。

 ここでログアウトしていたのか。忘れていた。


「可愛いお部屋だねぇ」

「マイキャラの見た目やマイルームの調整に時間をかける人も少なくないくらい、このゲームは細かくできますからね」

「こだわりのお部屋かぁ」


 現実の部屋とあまりにも違う、ゴシックで甘めのマイルームを見られるのは少し恥ずかしい。


 というか、マイキャラを見られるのも恥ずかしい。ネトゲって、どんな人がやっているかわからないから趣味全開でお送りできるというか、私のことを知っている先輩に見られるのはどうも恥ずかしい。


 マイルームから出て、船の拠点に戻る。ここは多くのプレイヤーがクエスト受注前に過ごす空間で、アイテムの整理やミッションを受けたり、雑談したりパーティーメンバーを募集したりする空間だ。


『あ、サドサローさんだ。こんばんは!』

「なんか話しかけられたよぉ?」

「フレンドです。こんばんは……っと」

「タイピング速いねぇ」

「長年やっているので、自然と身につきました」

『クエスト行きませんか?』

『すみません、今先輩が遊びに来ているので』

『あー、例の先輩さん?』

「例のぉ?」

「なっんでもないですよ、はい!」


 また今度誘ってください、と高速で返事をしてログアウトする。

 先輩的にはクエストに行くところとか見たかったかもしれないけど、ちょっとそんな余裕は無い。というか無くなった。


「さ、さて先輩。そろそろ寝ましょうか」

「えー、もっと見たかったなぁ。あと、例の先輩って」

「わー! なんのことですかね。いやぁ不思議なこともあるものですね」

「ボクの話、ネトゲでしてるんだねぇ」

「おっ……怒ってます?」

「なんでぇ?」

「いや、えっと……」

「君のことだからぁ、悪口ではないんでしょ?」

「当たり前じゃないですか」

「だよねぇ。だから、別に気にしないよぉ」


 にへら、と笑って先輩はベッドに倒れ込んだ。

 同時に、甘い匂いがふわりと香る。同じシャンプーとボディーソープを使ったはずなのに、何処からその匂いはするのだろう。パジャマの柔軟剤の匂いなのか、それとも。


 シャットダウンして、先輩の横に倒れ込む。まだ日付けが変わる前だけど、本当に寝てしまいそうだ。


「先輩」

「なぁに?」

「キス、しても良いですか」

「どうしたのぉ、珍しいねぇ」

「い、いいじゃないですか。嫌ならしないで寝ます」

「イヤなんて言うわけないじゃん。舌入れてもいい?」

「えっ……事前に訊かれると困るんですけど」


 いつもは、なんとなく長めに唇を重ねていると自然にディープになるというかそんな感じだし。


 窓から入ってくる夜風も、頑張って空気を循環させている扇風機もそこまで暑さを緩和できていない。


 しかし、そんなことを気にする暇はない。暑さなんてお構い無しで、先輩は私を抱きしめてキスをした。

 私からしようと思ったのに。


「んっ……れろ」

「ちゅぷ……んむ……」


 宣言通り、先輩は舌を入れてきた。別に最近だと珍しいことではないけど。


 歯を磨いた後なのに、先輩の味がする。上手く説明も明文化もできないけれど、先輩の味。

 まぁ、他の人とキスなんてしたことないから、先輩だけがこの味なのかとかはわからないけども。


 もし私が他の人とキスをしたりなんてしたら、先輩はどんな反応をするんだろう。怒るのかな、泣くのかな。それとも、その場では笑って済ませたりするのかな。確かめるつもりは微塵も無いけど。


「ぷはっ。それじゃあ、寝よっか」

「はい。……あの、くっついたままだと暑くて寝れないのでは」

「ボクは平気ぃ」

「あ、扇風機のタイマーセットするんで一度離してください」

「はぁい」


 先輩ホールドが解かれ、ベッドを下りて扇風機のタイマーをセットする。つまみをカチカチ回して、三時間くらいで止める。


 ベッドに戻って、電気の紐を引っ張る。暗くなった部屋の中で、先輩の呼吸音と扇風機の回る音だけが聞こえる。


「あとは寝るだけですね」

「むぎゅー。ねぇ、明日はどこに行くぅ?」


 再び先輩ホールドに包まれながら、少しだけ考える。北海道に行く前だし、そんなに遠出をしたり特別なログボである必要は薄いかな。


「Ventiでお昼でも食べます?」

「そうしよっかぁ。君はバイトお休みしますって改めて言わないとねぇ」

「ふふっ、そうですね」

「それじゃ……そういうことでぇ……うん……」

「おやすみなさい、先輩」

「おやすみぃ……」


 好きな人に抱きしめられて、すぐに寝れるわけがない。先輩は、私にドキドキしたりしないのかな。


 なんて、自意識が過剰すぎるか。私も早く寝よう。

次回、ちょっとだけデート。

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