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7日目:ロング・キス・ミッドナイト(前編)

ログインボーナス1週間記念!

「ごめん、おまたせぇ」

「いえ、全然待ってませんよ。待ち遠しくはありましたが」


 バイト終わりの先輩が、息を切らして走ってきた。胸が弾みに弾んでいる。


 朝は電車の遅延があり、第二理科準備室に行く余裕がなくて会えなかった。昼休みは先輩が他の人とご飯を食べていたので、また会えず。しかし、バイト終わりに会う約束をしていたので、忠犬の如く待つことができた。


 時間は、夜の9時を回っている。月が綺麗だ。


「今日は1回も会えてなかったもんねぇ。ボクも待ち遠しかったよぉ」

「先輩、どうして今日は誘ってくださったんですか?」


 バイトがある日は、終わってからも遊ぶことは基本的には無い。時間が遅いというのもあるし、先輩も疲れているからだろう。


「あれぇ、気づいてないのぉ?」

「と、言いますと?」

「今日で1週間だよぉ、ログインボーナス実装から」


 そうか、もう1週間か。濃厚すぎて、1ヶ月くらいはあったように感じる。たったの1週間で、私の人生は大きく変わった。


「失念していました。あっという間でしたね」

「もー、記念日を忘れちゃだめだよぉ?」

「運営として、以後気をつけます」


 1週間目のログインボーナスが豪華かどうかはゲームによるけども、一応区切りとしてはわかりやすくて良いと思う。


 飽きずにログインを続けてもらうことは案外難しい。いや、運営の気持ちはわからないけど、プレイヤー側からすれば、1週間遊べるならそこから先も遊べる。一種の分岐点だ。


「というわけでぇ、1週間目のログボくーださい」

「なんですかその口調、めちゃくちゃ可愛いんですけど」

「ほらぁ、早く早くぅ」


 いつもの気だるそうな感じとは少し違う、子どものようにウキウキしている先輩。この人はどういう風に振る舞っても可愛いんだなぁ。


「……では。1週間記念に、お好きなキャラが確定で引けるガチャのようなものを」

「と言うとぉ?」

「ログボの内容を、先輩が決めてください」

「えっ、いいのぉ?」


 先輩の目が、大袈裟ではなく、きらりと光った。ように見えた。


 欲しいおもちゃが手に入った子どものような、獲物を捕らえた獣のような、お宝を手に入れた海賊のような、そんな目だ。


 軽率すぎたか、と少し身構えたが、いくら先輩とはいえ、そんなに突拍子もないような無理難題は言わないだろう。


「私に実現可能な範囲でなら、なんでもいいですよ」

「じゃあ、まずはボクの家かホテルに行こっかぁ」

「はい?」

「さすがのボクにも恥じらいはあるからねぇ、外ではちょっと」

「何をする気ですか……?」

「あはっ」

「なんですかその笑いは!?」


 まずい。先輩を侮っていた。


 昨日、あんなにやらしいこととか言っていたのを忘れていた。キスでは済まないかもしれない。


「なんでもって言ったこと、後悔しないでよぉ」

「既に後悔しています」

「ふふ、そんなに怖い顔しないでよぉ。笑って笑って」

「私が笑うのが苦手なの、知っているじゃないですか」

「んー。じゃあ、今日のログインボーナスはぁ」

「はい」

「好きって言って」

「……好き、ですか?」

「最近はさぁ、可愛いとか沢山言ってくれるようになったでしょ。すっごく嬉しくてねぇ」

「光栄です」

「でも、好きとは言ってないよねぇ」


 まぁ、別に好きではないんだろうけどね、と先輩は俯きながら呟いた。


 お付き合いしたいという意味での『好き』かどうかを、私は未だに決められていない。確信が持てないから。


 ログインボーナスを実装してから、私は先輩に対して随分とオープンに喋るようにはなった。可愛いとかも沢山言うようになった。けれど、好きという言葉はなんだか特別な気がして、軽率には言えなかった。


「私は、先輩のことをそういう風に見ているわけではありません」

「わかってるよぉ。デートも喜んでくれたし、今日みたいに遅い時間でも来てくれるけど、勘違いはしてないよ」


 笑顔、に見えるけど、なんだか笑っていない気がする。


 なんだか、良くない方向に話が進んでしまっているような、漠然とした不穏な空気を感じる。


「あのっ、前にも告白しましたが……私は、先輩と遊んだり、お話したり、そういう日々が楽しくて、それは」

「友だちだから、でしょ」

「……先輩?」

「1週間、ありがとう。今日でログインボーナスは終わりにしよ」

「えっ……。どうしてですか」

「付き合わせてごめんね、もう、いいから」

「どうしてですか。私が、私が先輩のことを好きって言わないからですか?」

「……君は、毎日本当に楽しそうにしてくれていて、ボクのわがままで始めたログインボーナスもしっかりしてくれて、本当に幸せだよ」


 先輩の言葉を思い出した。多くを望んでしまうのが人間の悪いところだって。


 人生にはログインボーナスが足りない、そう言った先輩は、次に人生に足りないものに気が付いてしまったのだ。


 先輩の『好き』と、私の『好き』が違うこと。そのまま今の関係を続けること。友だちだとわかっているけれど、キスをしたりデートをしたりすること。その歪さに、先輩は気が付いたのだ。

どうしてこうなった……。落ち着いて先輩……。

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