1日目:ログインボーナスの確認
百合です。ガールズラブです。
シリアスミステリアスなんて全くなし、駆け引きなんてやってられない勢いだけのお話。
でも青春ってそんなもんじゃないです?
「ボクの人生に足りないのは、ログインボーナスだと思うんだよねぇ」
程よい雑音に包まれたファミレスで、先輩はアルバイトの時給2時間分の値段のチョコレートパフェを頬張りながら、突然私には理解できないことを言い出した。
見るからに、夕飯前に食べて良いサイズではない。恐らく、先輩はこういう栄養分が胸に行くから良いのだろう。ダイエット中の人が見たら、それだけで絶句しそうだ。
「ログインボーナス……って、ゲームとかで貰えるやつですか」
「うん。ゲームってすごいよねぇ、今日も遊んでくれてありがとーってなんかくれるんだよぉ。人生には無いよね」
「それはまぁ、自分の人生ですからね。今日も遊んでくれてありがとーって誰も言ってくれないじゃないですか」
私は、時給の半額ほどで飲める珈琲を飲みながら、先輩の言葉の真意を考える。
要するに、朝起きられて偉いね、とか。今日も登校して偉いね、というような、そういった付加価値が日常には不可欠だという意味だろう。
確かに先輩の言うことは一理ある。もっとログインボーナスのような優しさが、人生にあると良いとは思う。
それを目当てに生きるのはなんだか変というか、過程と目的が反転してしまっているというか、そういう違和感が無いこともないが、とにかくあって困るものでもないだろう。
「誰も言ってくれない。けど、君ならボクにログインボーナスをくれるんじゃないかなぁって」
「飴で良いですか? 鞄に沢山入っているので」
「大阪のおばちゃんみたいだねぇ」
思わぬ指摘に、吹き出しそうになった。言い得て妙というか。
どんどんパフェを食べ進める先輩に、一応の弁明をする。
「喉に気を遣っているんですよ。喋ってばかりなので」
「ボイスチャットしながらゲームしてるんだっけ」
「はい。海外の人なんかも最近は参加していて、楽しいですよ」
「いいなぁ、ボクも一緒に遊びたいなぁ」
「先輩は、武器入手のために同じクエストを何度も走ったり、期間限定のイベントを必死に間に合わせようとしたり、そういうことを楽しみながらできますか?」
「うーん。君となら、どんなことでも楽しめると思うよぉ。やったことはないけどね」
気が付くと、先輩のパフェはもう残り僅かになっていた。食べる量もさることながら、早さも桁違いだ。
私の珈琲もほとんど残っていない。おかわりをしようかと思ったが、今日は手持ちが少ない。しかしこの量では、先輩との会話が終わるまでは持たないだろう。
取り敢えずメニューを見ようと手を伸ばすと、先輩に止められた。すぐに終わるから、とでも言いたげな目だ。
「さて、話を戻すよぉ。ボクの毎日に、ログインボーナスをくれないかなぁ」
「飴じゃないなら、何が欲しいんですか」
先輩の欲しいもの。皆目検討もつかない。
週に4日アルバイトをしている先輩は、お金にはそこまで困っていないはずだ。
趣味にそこそこ使っているとはよく言っているけど、大きなパフェを食べている時点で、余裕があることが伺い知れる。
というか、先輩は頻繁に外食をしている。
私に余裕が無いのは、ゲームをするのに忙しくて、そこまでシフトを入れていないというだけなのだが。
しかし、機材を購入したりゲームに課金するためにも、少しは働かないといけない。
「キス、してほしいんだよねぇ」
「……は?」
「ログインボーナスってぇ、通算何日~とかになると豪華になるから、最終的にはもっと先に進みたいなーとか」
「いやいやいや、何を言ってるんですか」
「ボクは本気だよぉ。君に、毎日キスをしてもらいたい」
ダメかなぁ、と上目遣いで私の顔を見る先輩。
長い睫毛に、綺麗な瞳。肩にかかる長さの黒髪から、ふわりと香るシャンプーの匂い。
私と違って、本当にこの人は可愛い。こんな風にお願いされたら、同性相手とはいえ、少し揺らぎそうになってしまう。
「先輩って、そっちなんですか」
「ボクはねぇ、どっちも好きだよぉ」
「なら、私じゃなくても良いんじゃないですか」
「ボクのこと、嫌いなの?」
「それは、ズルい、です」
本当にズルい。反則だ。私が男だったら落ちてる。もしくは、先輩が男でも落ちてる。
その両方は前提としてありえないので、落ちることはないけども。
「じゃあ、ログインボーナスくれる?」
「……通算何日で豪華になるなら、まずはほっぺにチューくらいからで良いですか」
「何日目から豪華になるのぉ?」
「先輩の卒業式の日に口にする、とかどうですかね」
「炎上するよぉ、そんな先の遠いゲーム」
そう言って先輩は、私と唇を重ねた。
パフェの甘みと、珈琲の苦味がほんのりと混ざり合う。他人の唇って、こんなに柔らかいんだ。私の唇はどうだろう、ささくれだっていないか心配になる。
というか、私は別に先輩のことをそういう風に好きなわけではないし、そもそも女同士だし、こんなことをいきなりされたら、流石の私も怒らざるをえない。
「ちゃ……ちゃんと! 毎日ログインしてから! して! ください!」
「怒るのそこなんだぁ」
冷静に指摘する、ご満悦そうな顔の先輩。
案外、嫌ではなかったのが不思議だ。そして恥ずかしい。恐らく先輩とは真逆に、私の顔は真っ赤になっているだろう。
「あ……明日はほっぺからスタートですからね」
「はぁい」
あ、ここのお会計はボクが払うよ、とこれまた惚れかねないことを言い出したので、仕返しに私もパフェを頼むことにした。先輩の食べていたパフェより小さい、値段も半分のものだ。
意地悪い女だと思われたかな、と先輩の顔を窺うと、全てお見通しと言わんばかりの笑顔がそこにはあった。
もしかすると、手持ちが少ないことが見抜かれていたのだろうか。
目の前に運ばれたパフェを見て思い出したが、パフェの語源は、パーフェクト。つまり完璧から来ているらしい。
ログインボーナスで、先輩も私も、少しでも完璧な人生に近づけるだろうか。お互いに足りていない何かを、満たし合えるだろうか。
パフェのクリームを頬張りながら、帰りにリップクリームを買おう、と思った。
長くあたたかい目で、2人を見守っていただけると嬉しいです。