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作者の想像世界

探し屋

作者: パーミテンション

今回はいつもより文量が多いです

小さな紙に書かれている住所の所に行った。


そこにあるのはちょっと古臭い建物で、探し屋、と看板が立てかけられていた。


無くしたものを探してくれるという店らしいが、本当だろうか。友達の紹介できたのだが。


料金は探すものの難易度によると言っていた。


高校生である手前、あまりお金は使いたくないのだが、まあ仕方あるまい。所持金全てを払う覚悟くらいはある。


そう意を決して扉を開け、中に入った。


「いらっしゃいませ」


そこにいたのは、僕とあまり年齢の変わらない女の人だった。



名前は教えてくれなかった。そのかわり僕にも名乗らなくていいと言った。別に僕としては構わないのだけど、仕事柄、名前を知られると面倒なことがあるんだとか。


「ほら、こういう仕事だからさ、たまーに警察が人探し手伝ってって言ってくるのよ。迷子の子供だとか、脱獄犯とかマフィアとか。名前知られちゃったら、そこから足がついちゃうでしょ」


どうってことないように言ったけどそれは随分とすごいことではないだろうか。警察にも頼られるということは、信頼は確かなようだ。


「で、君は何を探して欲しいの?」


胸ポケットにしまってあったメモ帳とボールペンを取り出しながら言った。


「母親、です」


「…………」


「え、えーっと……何か」


メモ帳から僕に向けたその顔はぽかーんと口を開けていた。


「どうした、少年」


「歳同じじゃないですか?」


「私はこう見えて二十歳よ。高校卒業してすぐにこのお店を立ち上げたわ」


そんなことより、と彼女は話を戻す。


「母親っていうのはその、家出した母親か、誘拐された母親か、どっちの母親?」


「前者の方ですね」


「何年前?」


「3年前です」


そう言うと、彼女はうーんと唸った。


「電話とかしないの?」


「番号変えたらしくて、繋がらないんです」


「悪いけどさ、場合によっては探せないかも」


「え?」


「私が探せる距離はこのあたりを中心にせいぜい半径10キロ。頑張れば20キロまでいけると思うけど、その範囲にいなかったら諦めて」


淡々と告げられることに、僕の理解は追いつかなかった。


「探してもらえないんですか?」


そうは言ってないでしょ、と彼女は言う。


「人を探すにしろ物を探すにしろ、まずはね、姿かたちを知るところから始めるの。これくらいはわかるでしょ」


僕はこくりと頷く。


「そこから、その人のいろいろな情報を追加していく。年齢、身長、よくいる場所とか」


それでね、と彼女は続ける。


「人探しとかが主な生業の人たちは、見た目がそこまで重要じゃないの。髪型や色が変わってても、自身の持つ情報網を頼りに見つけられる。だけど私はそうはいかないの」


それはつまり、彼女は頼りになる情報網を持ってないということか?


「まあそうね。ほら、名前知られちゃうし」


多分作者が名前を考えるのが面倒なだけじゃないのか。


「そういうわけでさ、見た目が変わるとありえないくらいに面倒なの。想像しにくいでしょ」


「……まあ、なんとなくわかりましたが、じゃあ距離の問題は何なんですか?」


単純よ、と彼女は言う。


「私の耳はそこまでよくないからよ」


「はい?」


「行動範囲が狭いってこと。いつもは探し物がどこにあるかあらかた予想のつくとこまで運んでもらって、そこからやってるの。もしもどこにいるのか予想がついてるならいいけど」


ついてるの、と聞いた彼女に、僕は何となく、と返した。


母親が家出した後に行きそうな場所は大雑把だが予想はできる。ならばなぜ1人で探さないのかと問われれば、時間がないからだ。1人でしらみつぶしするよりもプロに頼んだ方がいい。


「……言っとくけど、交通費はあなた負担だから」


「え」


「当たり前じゃん」


はあ、とため息をつく。バイト代を全て注ぐつもりではあったが、本当に全て注ぐことになりそうだ。


「まあ安心してよ。場所が大体わかってるなら、私は誰よりも速く見つけられるから」


「本当ですか?」


「当たり前じゃん。条件が揃えば最速の探し屋よ。だから警察に信頼されてるの」


確かに、頼られている分野は迷子の子供や脱獄犯。どちらもいかに速く見つけるか、を重要とする。


「じゃあ、見た目が変わるとダメっていうことは、指名手配犯とかはダメってことですね」


「そうね。さすがに写真が古すぎるわ。変わっていないとしても、さっき言った範囲にいないと私は探せない」


範囲がもっと広かったら懸賞金で生活ができるのに、と彼女は呟いた。


「で、どこにいるの?」


「隣の県です」


「居場所の情報それだけ?」


「とりあえずそこに行ってからです」


それもそうね、と言って立ち上がる。


「それじゃあ行こっか」



移動は電車。彼女の分の切符は僕が出した。


電車の中で、彼女に母親の写真を見せた。


「優しそうなお母さんじゃない。なんて言って家出したの?」


「買い物行ってくる、でしたね」


「定番な感じだね。変なところなかったの?」


「キャリーバッグで買い物いきました」


「気付こうよ……」


しばらく借りるね、と言って手帳に写真を挟み、胸ポケットにしまう。


「なんで3年も放っておいたのに、急に探し出そうなんて思ったの」


言いたくないならいいよ、と付け加えた。


「父が危篤なんですよね、今」


僕は言う。


「家出の原因としては夫婦喧嘩みたいな感じなんですが、それなのに今更になって母さんの名前を口に出すんです。今までそんなことなかったのに」


僕としても、父とは不仲だった。だから別に、このまま死んでしまっても大したことは思わないだろうが、せめて母親に会わせるくらいはさせてあげようと、不意に思ったのだ。


「お父さん思いね」


ありがとうございますと、適当に言っておいた。


「そうだ、見つからなかったら、私の交通費と君の交通費と、合わせて払うから」


「意外とサービス心あるんですね」


「信頼は大事よ」


それからしばらく無言の時間が過ぎ、目的地に到着した。


駅の開けたところにつくと、彼女は写真を取り出し、見た。


電車の中で見ていたのとは雰囲気が全然違う。見ることに全神経を注いでいる感じが伝わってくる。


僕はそれをただ、黙って見ていた。


「……あっちだってさ」


2、3分ほどして、彼女はそう言った。


「あっち?」


「あっち。よかったわね、範囲ギリギリの所にいたわよ。あ、10キロじゃなくて20キロの方ね」


行きましょう、と言って彼女は足を動かす。


「ちょっと待ってください。どうしてあっちってわかるんですか」


しかし彼女は答えず、一度改札をでて、スマホで彼女は僕たちの居場所を調べ、周辺を探る。そして券売機の所へ行くと、ここからさらに3駅離れた場所に行く切符を2人分購入した。


時間を確認するとあと少しで発車するところだった。


「はいこれ、あなたの分ね」


そう言って切符を渡すと、彼女は走って改札を通る。僕もそれに続いた。


そうして再び、僕たちは電車に乗ることになる。


「で、なんだっけ」


説明もなしに急に交通費を追加して、なんだっけって。


はあ、とため息をつく。


「なんであっちってわかったのかってことですよ」


「ああ、聞こえたからよ」


「聞こえた…?」


そういえば、耳がよくないからどうこうとか言ってたな。


「私は探してるモノの声を聞くことができるの。だから、ちゃんとした写真があって、範囲内にいればすぐに見つけられる。その声が聞こえるのは聴力に関係ないわ。イメージしやすいかしにくいかだけ」


にわかには信じられないことを次々と告げられたが、きっとそうなのだろう。


写真を凝視していた時の集中力はすごかった。あのときに一生懸命に声を聞こうとしていたと言われれば、僕はそのまま納得する。


そうしてまた、無言の時間が過ぎ、電車を降りて、彼女に案内されるがままに歩く。行き着いた場所は年季の入ったアパートの一室だった。


「ここにいるよ。315号室」


「……」


会いに来たはずだが、やはり少し戸惑うところはあった。


父親との喧嘩が原因なのに、来てくれるだろうか。


急に会いに来て、迷惑がらないだろうか。


「ほら、速くしなよ。時間がないんでしょう」


「……」


そうだ、僕には時間がない。


意を決して、インターホンを押した。



病室の外に出ると、彼女が待っていた。


中からは、母のすすり泣く声が聞こえる。


「残念んだったね」


「仕方ないですよ、むしろ、母が来るまでよく耐えてくれました」


嫌だと、言うと思っていた。


しかし母は、父が危篤であると知るとすぐに、その病院へ案内しろと言った。少し、嬉しかった。


「それで、僕は一体いくら払えばいいんですか?」


わざわざ病院までついてきて、待っていたのはこのためだ。無論、僕はちゃんと払うつもりだ。ちゃんと母を探してくれたのだから。


「行きは僕が出しましたけど、母のところに行くのと、ここまでくるの、全部あなたが出しちゃったから、その分を払って、後は探してもらった料金、ですか」


値段にもよるが、払えない金額ではないと思う。むしろこんなことに僕のお金が使われるなら本望だ。


「手、出して」


「え?」


「いいから」


僕は言われたとおりに手を出した。


彼女はそこに、いくらかのお金を置いた。


「今回はいいよ、払わなくて」


所持金を出してもいいつもりでいたのに、しかし彼女から出て来た言葉はそんな言葉だった。むしろお金をくれた。


「大変な時はお金が必要。お父さんが亡くなられた君はこれから大変だ。そんなときに、お金を請求するほど、私は鬼じゃないよ」


それは隣の県に行った時の私と君の電車代、と僕の手にあるお金を指差して言った。


「え、でも……」


「いいのいいの。こう見えてまあまあお金持ってるから」


「……本当ですか?」


「別に今こうして話している最中に、大家さんへ家賃を待ってもらう言い訳を考えてたりなんかしないわよ」


「……」

とにかく、と彼女は言う。


「今回お金はいいから。ほら、お母さんのとこに行ってあげなよ」


何を言っても聞きそうにないので、僕は彼女に従うことにした。


「次来た時は、ちゃんと交通費とかもらうからね」


「探しものがあるといいですね」


「それじゃあ、また探し屋で会おうね」


「ありがとうございました」


バイバイ。


そう言い残して彼女は去っていった。

読んでくれてありがとうございました。

感想等書いてくれたら泣いて喜びます。

また、よかったら別の作品も読んでみてください。

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