表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

歌上手のコマドリさんの決心

昔々あるところに、逆さの虹のかかる森がありました。

その森に住む歌上手のコマドリさんは、とてもとても歌うのが好きでした。

今日も朝から、良く通る声で歌います。

その歌声は、朝の静かな逆さ虹の森に流れ、森のみんなを聞きほれさせるのでした。


そんなある夏の事です。

ぴりりりりぃーーーーー、けほっ、けほっ・・・

コマドリさんは、歌っている途中で胸の奥がかゆくなり、咳をしてしまいました。

けほっ、けほっ、ごほっ!。

咳はなかなか静まりません。

「風邪でも引いたのかな?。」

コマドリさんは思いました。

でも、熱もあまりないし、明日の朝には直るだろうと、思いました。

ところが!。

次の朝になっても、咳は治まるどころか、どんどんひどくなり、胸の奥も痛いほどになってきたのです。

さらには、だんだんと胸も苦しくなってきました。

これでは、とても歌えません。

コマドリさんは、巣にうずくまって、ケホケホと病が治るのを待つ事にしたのでした。


そうして、何日か過ぎた頃。

森のみんなは、コマドリさんの歌が、何日も聞こえないので、心配になって、コマドリさんの巣にやって来ました。

「コマドリさん、コマドリさん、どうしたの?体の具合でも悪いの?、大丈夫?。」

お人好しのキツネさんが、コマドリさんの尾羽が巣から出ているのを見つけて声をかけます。

コマドリさんは、少しでも楽に息をしようと空を振り仰いで、ひゅーひゅーと苦しそうに息をしていました。

そんなコマドリさんの動きに合わせて、尾羽がゆっくりと揺れています。

そんなコマドリさんの様子に、みんなはただ事ではないと思いました。

そこで、みんなは、コマドリさんを、森の一番の知恵者で、お医者さんでもある、物知りのフクロウさんの所に連れて行ったのでした。


フクロウさんは、コマドリさんを診察して言いました。

「これは、大変だ。すぐに薬を与えないといけない。誰か薬の材料になる『ニジモリドクヤマイモ』を取って来てはくれないか?。」

「それは、どこにあるのですか?。」

キツネさんが聞きました。

「オンボロ橋の向こう側、『ドクソウの森』に生えているはずだ。毒々しい色をしたハート型の葉っぱが目印だ。その根っこの芋を出来るだけそっと掘って、持って来て欲しい。

決して、口には入れないようにな。」

「では、私が取ってきましょう。」

キツネさんが言いました。

「では、これに入れて持って来てくれ。」

フクロウさんはそう言って、大きな袋をキツネさんに渡してくれました。


今にも落ちそうなオンボロ橋をこわごわと越え、キツネさんは『ドクソウの森』を目指します。コマドリさんのために。あのすばらしい歌声を再び聴くために。

そうしてついに、キツネさんは不気味な『ドクソウの森』へと着いたのでした。

この森にいる生き物は、みんな毒があると言われています。

そんなこわい森の中で、キツネさんは必死で『ニジモリドクヤマイモ』を探しました。

あれは、葉っぱの形が違う、こっちのは色が違う、これは山芋の蔓じゃない、と、キツネさんは懸命に探します。少しでも早く、コマドリさんの病気を治してあげたくて。

そうして日が落ちかかる頃、やっとキツネさんは『ニジモリドクヤマイモ』を見つけたのでした。

キツネさんは、はやる心を抑えて、そっとそっと、それを掘ります。

そうしてやっと掘ったそれを、もらった袋に入れようとしました。

でも、口が使えれば、ちょいとくわえてポイ、と袋に放り込めば良いので簡単なのですが、口にしてはいけないと言われています。

キツネさんは、袋を地面に置いて、『ニジモリドクヤマイモ』を前足で前足でちょいちょいと押して入れようとしますが、地面に置いた袋に押し込むのは意外と大変で、結構時間がかかりました。

もうあたりは夕焼けに包まれています。

キツネさんは、やっと『ニジモリドクヤマイモ』を入れた袋を大事に持って、フクロウさんの所へと急いで戻ったのでした。


「おお、待っていたよ。」

フクロウさんはそう言ってキツネさんから『ニジモリドクヤマイモ』の入った袋を受け取ると、さっそく薬を作り始めます。

すりおろして、水と混ぜ、別の粉を入れてと、・・・薬作りは徹夜で続きました。

朝日が昇るころ、薬はだいたい出来ました。

「あとは、薄く広げて朝日に当ててよく乾かして、粉薬にしなくてはいけない。」

フクロウさんは、言います。

みんなは、乾かしている薬が風で飛ばないように、薬の周りをみんなで囲んで守ります。

そうして、日が高く上る頃、やっと薬は乾きました。

フクロウさんは、カラカラに乾いた粉薬をさらに細かくすりつぶしました。

こうして、ついに薬は完成したのでした!。


フクロウさんは、出来た薬を、茶さじ1杯分量って葉っぱに乗せて、コマドリさんに渡し、言います。

「では、この粉薬を思いっきり吸い込みなさい。」

コマドリさんは苦しい息の下、言われたとおりに粉薬を吸い込みました。


夕暮れが近づく頃、コマドリさんは息が楽になっている事に気づきました。

けほんけほんと、時々咳は出るものの、胸の重苦しさは去り、スーッと息が出来るようになっていたのでした。

「どうやら、薬が効いたようだな。これからは毎日、この薬を茶さじいっぱいずつ吸い込みなさい。」

フクロウさんはそう言って、竹筒に入れた薬をコマドリさんに渡します。

でも、その声は、無事薬が効いたというのに、どこか重苦しいものだったのでした。

・・・・・


薬の効き目は劇的でした。

見る見るうちにコマドリさんの病気は良くなって行き、三日もたつ頃には、咳も治まり、今までと変わらないほど楽に息が出来るようになったのでした。

コマドリさんは、ほっとしました。

森のみんなも、ほっとしました。

病気が良くなったとなれば、もういても立ってもいられません。

コマドリさんは、歌が大好きなのです!。

コマドリさんは、大きく息を吸い込むと、また美しい声で歌を、・・・歌おうとしました。

ところが!!!

出て来た声は、美しく澄んだ声ではなく、グゲエ、ビルズルゼリ・・・という濁りかすれた声だったのでした!。

コマドリさんは、愕然としました!。

森のみんなもびっくりしました!。

そんなみんなに、フクロウさんが重苦しい声で言います。

「あの薬は、劇的な効果があるが、その代償に美しい声を奪ってしまう薬なのだ。だが、あの薬でなければ、おそらく1日と持たずにコマドリさんは命を落としていただろう。他に方法はなかったのだ。」

「ぞんな!、ではもう私は歌えないのでずが?!。」

コマドリさんがかすれた悲痛な声で聞きます。

「薬をやめれば、少しずつ元の声に戻るだろう。」

その言葉を聞いて、コマドリさんの顔に希望が戻ります。

でも、フクロウさんはさらに言うのでした。

「だが、薬をやめれば、またすぐに病気が再発してしまうだろう。

この病気は、この森に満ちる生命の息吹を体が拒んで起こる病気なのだよ。

この森の生命の息吹が眠る寒い雪の日を除いては、この薬なくしてはこの森では、もう生きてはいけないだろう。」


コマドリさんは悲しみました。

この森で自分が生きて行くには薬が必要で、薬を使う限りもう自分は歌えないのだと知って。

もう、歌う事をあきらめるしかないのでしょうか?。

何よりも歌う事が好きなのに!。

コマドリさんは、フクロウさんの言葉をかみ締めるように頭の中で繰り返して、じっと考え込みました。

そうして、ある事に気づいて、フクロウさんに尋ねました。

「ごの森を出れば、私は薬なしでも生ぎで行げるのでずが?。」

「うむ。だが、この森の命の息吹は、この森の外にも広がっている。命あふれる夏の季節には、より遠くまで。だから、夏には遠く遠くまで離れなければならないよ。この森に入れるのは、生命の息吹が眠りにつく寒い雪の日だけになるだろう。」


森のみんながコマドリさんを見つめています。

薬なしで生きるためには、歌を捨てないためには、このすばらしい森を遠く離れなければならない。

そして、それは、やさしいこの森のみんなとも離れると言う事です。

コマドリさんの危機を必死で救ってくれたこの森の仲間達と。

コマドリさんの歌を毎日楽しみに聞いてくれたみんなと。

離ればなれにならなければいけないのです!。


コマドリさんは、悩みました。

でも!。やっぱり、コマドリさんは歌う事が何よりも好きだったのです!。

一番大事だったのです。

「ごめん、みんな・・・」

コマドリさんは、すまない気持ちでみんなを見つめ返します。

森のみんなは、そんなコマドリさんの気持ちを、コマドリさんが何よりも歌う事が好きなのを良く知っていました。

だから、言いました。

「コマドリさんと離れるのはつらいよ。けど、コマドリさんがもう歌えないのはもっと悲しいよ。だから、コマドリさん、歌を、捨てないで!。」

コマドリさんは、胸がいっぱいになりました。

みんなの優しさに、大好きな歌を捨てないでと、背を押してくれる事に!。

「みんなごめんね!。」

コマドリさんはそう言って、森を出る決心を固めたのでした。


「頑張って歌ってね!。」

森のみんなは、そう言ってコマドリさんを送り出しました。

そうして、コマドリさんは、逆さ虹の森を遠く旅立って行ったのでした。



エピローグ

冬の寒い日、逆さ虹の森に雪が積もりました。

冬籠りの季節ですが、今日だけは特別です。

キツネさんが、穴にこもっているクマさんたちを起こして回ります。

遠くかすかに聞こえる澄んだ声。

そう、今日はコマドリさんが年に一度帰ってくる日なのです!。

年に1度の、コマドリさんのコンサートの日なのです!。

森の広場に、森のみんなが集まります。

そうして、コマドリさんがやって来ます!。

みんなが拍手で迎える中、広場の一番高い木に止まったコマドリさんが、ちょこんとお辞儀をして歌い始めます。

旅の中で磨かれたすばらしい歌を。

すばらしい命の歌を!。

森のみんなは、その歌声に聞きほれます。

年にたった1度の歌だからこそ、決して聞きもらすまいと。

冬のキンと澄んだ空気の中に、コマドリさんの歌声は、どこまでもどこまでも響いていくのでした。


ちゃんちゃん!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ