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ときどき、はれ。  作者: あぐりの
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真ん中の広場の丘みたいな場所に、人がいるのが見えた。どうやらくーは、その人に向かって走って行ってるようだった。

「ヤバっ!」

俺はそう思って、全力でくーを追いかけた。セイジも同じことを思ったのか、加速して追いかけた。小さくて足もちょこちょこっと動くくせに、走ると想像以上の速さだった。橋を渡ってる時の、疲れたー歩きたくないーって様子は演技だったのか…そんな余力があったのかよ!と思いながらも、とにかく運動不足気味の体に鞭を打って、全力疾走した。

結局、くーに追い付けず、くーは丘の上にいた人の足に、キャンキャン!と吠えながらまとわりついてしまっていた。

「すみませんっ‼︎」

俺達は焦って、謝りながら駆け寄った。ちょっとした丘だけど、全力疾走したラストにはキツイ丘だった。


登って、びっくりした。

ミニチュアダックスフントが飼い主に抱かれながら暴れているからか、飼い主は腰をつき、倒れそうになるのを必死で左手で支えていた。その左から、くーがまとわりついて、顔というか、耳を舐め回していた。ダックスは、ゔぅー!っと唸りながら、くーから逃げようと、飼い主の肩に登ろうとジタバタしていた。

笑ってはいけない状況なのに笑いそうになってしまった。見ると、セイジも同じだった。

「あはは!舐めないで!くすぐったい!」

ダックスの飼い主は女の人だった。片手にダックス、片手は体を支えているため、くーにされるがまま状態だった。

俺は我に返って、

「す、すみません!こら!くー!」

と言って、くーを抱きかかえた。

くーが離れてしばらくすると、ダックスも大人しくなった。でもまだくーに、ゔぅー!と唸っていた。

「はぁ〜びっくりしたねぇ〜」

俺とセイジもびっくりした。この状況には似合わない、なんともおっとりとした口調だった。

「もう大丈夫だよ〜」

と言いながらダックスを撫でて落ち着かせて、ダックスを抱えながら立ち上がった。飼い主は、パーカーのトレーナーにデニムのスカート、タイツにスニーカーと言うラフなスタイルで、俺らよりちょっと年下に見えた。

「大丈夫ですか?本当にすみません!」

俺が謝ると、飼い主の子はふふっと笑って、

「大丈夫です。」

とちょっと恥ずかしそうに言った。そしてくーを見て、

「あれ?くーちゃん?今日はお母さんとじゃないんだね。」

と言って、俺が抱いていたくーを撫でた。くーは嬉しそうな顔をして撫でられていた。

「じゃあまたね。」

と、飼い主の子は、俺達にペコリと頭を下げて浜へと続く道の方へ歩いて行った。


しばらく彼女のほんわかムードにのまれていた俺達は、くーがワンっ!と吠えたのをきっかけに我に返った。

「…っ!あははは!」

顔を見合わせた俺達は笑い合った。

「びびったー!」

「何あれ!」

「俺今ワールドから抜け出せなかったわ!」

「セイジがなんて、すげーな、あの子!」

セイジは女と見ればすぐ話かけて仲良くなり、だいたいの場合、口説きに入ったり口説かれたりしている、いわゆるチャラ男なのだ。

飼い主の子は、美人と言うよりは可愛らしい子で、どちらかと言うとセイジの好みでは無いのかもしれないが、それでも話かけれないくらい空気に飲み込まれてしまうなんて、セイジにはまず珍しい事だった。

「いやー、惜しい事したなぁ〜」

セイジは残念がった。

「ん?セイジの好みだっけ?」

俺が聞くと、

「違うけど、気になる。ってか、ジュンはそうでしょ?」

と、ニヤっと笑って言った。

バレてたか。

実はそうだった。俺は美人系より可愛い系が好みだった。さらに言えば、黒髪ふわふわのミディアムヘアなのも、どストライクだ。清純派可愛い系アイドルがタイプなのだ。

セイジの様にモテまくる訳ではない、ごく一般的な俺だが、告られた経験がない訳でもないし、高校時代には彼女がいた時期もあった。今だって、バイト先の後輩から好意を持ってもらえているのを人伝てに聞いてるし、実は自覚もしていた。

ミサに、

「なんで彼女作らないの?」

って聞かれたが、俺だって彼女は欲しいと思ってる。ただ、自分が付き合うとか考えれない以上、セイジみたいに軽くは付き合えないってだけだった。


「浜の方に行ったよな。どうする?追いかける?」

セイジが聞いてきた。

俺はちょっと悩んで、いや、本当はすごく追いかけたかったのだが、

「いや、くーも歩かなそうだし、今日は帰るよ。」

と言った。正直、びびっていた。追いかけたらナンパっぽく思われてしまう気がしたのだ。ナンパから始まる恋愛は続かないと、セイジから学んでいた。俺は、この出会いをそんな軽い感じに終わらせたくなかったのだ。

「えーそうなの?」

セイジはそう残念がったが、

「ま、ジュンの母ちゃんも待ってるし、帰りますか。」

と言った。


帰り道、橋の真ん中辺りから浜を見渡して彼女を探してみた。

「なんだよ、ジュン。やっぱ気になってるんじゃん。」

セイジは俺を見ながら笑いながら言った。俺が、まーな。と言うと、

「なんだよ。今度はめっちゃ素直じゃん。」

と、セイジは肩を組んで来た。

「ん〜?あ、いたいた。」

俺らは浜辺を歩く彼女を見つけた。

彼女が先を歩き、ダックスがちょろちょろ後ろを歩いていた。と思ったら、ダックスは横に逸れて何やらクンクン嗅ぎ回っている。しばらく気付かずに歩いていた彼女が気付いて近寄ると、ダックスが尻尾を振って彼女に駆け寄った。

「今のって、どう見てもダックスが、悪いことしてないよ!って感じだったよな。」

俺がセイジに言うと、

「俺もそう思った!」

とセイジも言って、2人で笑い合った。


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