2
俺の家は、大学から30分ほど電車で南に下った駅から、歩いて15分くらいの場所にある。近くに人工浜が出来た為、夏になると特急が止まったりして、一気に賑やかになる。今はまだ春先だから、浜に散歩に来る人くらいしかいなくて落ち着いていた。
「本当にジュンちは良い場所にあるよなー」
セイジはうちに来る時、毎回の様に言う。
「あんな良い浜に徒歩圏内だし、くーちゃんの散歩にめっちゃくちゃ良いじゃん。」
「まぁ、たまには散歩に行ってるみたいだけど、だいたいは家の周りだよ。」
「えー、散歩まだだったら、行ってみようぜ、浜。」
セイジの提案に、俺は、面倒くさっ!と言った。が、聞き入れられる事は無かった。
家に着くと、母さんが散歩に丁度出ようとした時だった。
「あらーセイジくん!」
可愛い好きの母さんは、見た目可愛くて人懐っこいセイジを気に入っていた。
「今から散歩ですか?俺に行かせて下さい!」
セイジはラッキー!とばかりに言った。
「あら、そう?じゃあご飯の準備をしてようかしら。食べてくでしょ?」
母さんもその辺りは良くわきまえていた。その上、
「カレイの煮付けとかどう?」
と、セイジが肉より魚派と言うのもしっかり把握していた。
「めちゃくちゃ嬉しい‼︎」
セイジが喜んで言うと、
「本当にセイジくんは上手いわね。」
と母さんは皮肉りながらも楽しそうに言った。ただの可愛いって男じゃない事も、しっかり把握しているようだ。
そんな感じで、俺らはくーの散歩に行く事になった。俺は近所にしようと言ったが、セイジが断固として、浜に行く。と言い張り、仕方なく浜まで向かうことになった。
くーはと言うと、セイジを警戒しているようだった。まだ2回目くらいだから、まぁそうだよな。セイジは実家で犬を飼っているだけあって、無理に構ったりせず一定の距離を保って接していた。
「俺らの足だと直ぐに着くけど、くーちゃんは大変だなぁ」
短くちょこちょこ動くくーを見て、セイジはしみじみ言った。まだ一歳前のくーは、ちゃんと言う事聞いて歩く様になってきたばかりで、まだまだあちこちに歩きたがる。だから余計に時間がかかるのだった。
浜へ向かう橋を渡っていると、
「あー、やっぱり結構犬を散歩させてる人いるじゃん。」
とセイジが言った。橋から浜が見渡せて、確かに犬の散歩をしている人が結構いるのが見て取れた。
浜は、橋を挟んで南側が海水浴場になっていて、北側は芝生広場が3個ほどあった。犬の散歩をしている人が多く見えたのは、海水浴場の方だった。
俺らは、人の少なそうな北側に行く事にした。橋に1番近い広場は、芝とクローバーが敷かれていて、ミニイベントが開かれたりするステージもあった。真ん中の広場は、所々丘みたいになっている。1番奥は、散歩道がある広場だった。
橋を渡っている途中から疲れ始めたくーを抱いていた俺は、クローバーが敷かれてある広場にくーを降ろした。
「お、くーちゃん元気取り戻したじゃん?」
セイジは、リードをぐんぐん引っ張るくーを見て、笑って言った。さっきまで、もう歩きたくない〜って感じでいたくせに、広場に来た途端、嘘の様に元気になった。
「やっぱり広い所が好きなんだよ!」
セイジはくーと一緒にはしゃぎ出した。
「ジュン、人全然いないから、くーちゃん離してボール投げしようよー!」
母さんには、多分離しても大丈夫。と言われていたが、慣れてない俺はどうしようか悩んだ。周りを見渡したが、真ん中の広場に人がチラッと見えるだけで人が居なかったし、何よりくーがボールを見てやる気満々になってしまい、リードを繋いだままだと、俺も走り回る羽目になるのが嫌で、
「分かったよ。」
と言って、くーのリードを離してやった。
俺の心配をよそに、くーは意外にも賢くボールを取りに行っては、ちゃんと咥えて戻って来た。
いつまでやるんだ?と、20歳の俺らの肩が疲れを見せ始めた頃だった。
くーがボールを咥えて戻って来るかと思ったら、途中でボールを離し、横にワンワン‼︎と言って走り出した。
俺らは焦ってくーを追いかけた。