2日目(昼):行商人と手強い悪役令嬢
デレてくれたと思ったら……?
お昼。
ふたりでやったおかげで、すっかり畑の草むしりが落ち着いた頃。
行商人がやってきた。
***
幌馬車に乗って、パカポコパカポコ。
遠くからゆったりとこちらにやってくる行商人はミヤコとフウカの姿を認めると、嬉しそうに手を叩く。
「おやおや~っ、本当にお嬢さんがふたりもいるネ! 商人のカン、正しかったネ~!」
行商人は、小さな女の子だった。
秋の小麦畑みたいな色の髪をふたつのお団子にまとめている。によ~んと笑う顔が猫みたいだ。
「アタシは香麗。よろしくネ~!」
西の大陸のからやってきた一族のようだ。
珍しいものも売ってくれるかもしれない。
「あいやぁ~。おそろいの作業着、とっても可愛いネ!」
「えっへへ~。フウカちゃんとおそろいか……改めて言われると照れるなぁっ! ありがとう、お嬢ちゃん!!」
お嬢ちゃん。
そう言ってにっこりとほほ笑むと、商人少女香麗の表情が凍る。
え、なに。
なにかマズいこと言いました?
「はぃいぃっ!? お嬢ちゃんチガウヨ!!!? 〇×★%〇%~!!」
「え、え、ごめんなさいっ!?」
急に大陸の言葉でまくしたてられて、ミヤコはパニックになる。
全然、何言っているかわからない。
「……まったく、どきなさい。ミヤコ」
フウカの声。
「え?」と振り向くと。
「えっと、シャンリィさん。%×&〇☆~?」
「〇☆! ☆彡×%&~!!」
フウカは流暢な大陸語で話し始めた。
毎朝、来る日も来る日も勉強していたフウカの大陸語は流暢で、すぐにシャンリィの顔にによ~んとした笑顔が戻る。
フウカはミヤコを振り返って言った。
「シャンリィさん、今年で30才だそうですわ」
「はぁ、そうですk……はいっ!!!!???」
「まったく~。おネーさまにむかって、『お嬢ちゃん』とは失礼しちゃうネー」
「ですわネー」
「ちょっと何意気投合しているんです? というか、シャンリィさんどう見てもティーンエぃ……」
「ミヤコ?」
「……素敵なお姉さまです」
「よろしいネ~」
ミヤコはくらくらする頭を抱えた。
30才? まじで???
15才かそこらにしか見えませんけれど???
「お詫びとして2週間、毎日『シャンリィお姉さまの今日のおすすめパック』を売っていただくことになりましたので」
「えぇっ!!?」
いつの間にそんな交渉を!?
「フウカちゃん、そんな勝手に……」
「あー、そっちのおジョーちゃん、アタシ見たことあるネ。そういえば。フローレンスさん家の娘サンでショー?」
ぎくっ。
硬直するミヤコ。
によ~ん、と。シャンリィは猫みたいに笑う。
「昨日フローレンスさん家に行ったケド、この家のことなにも言ってなかったネ~。それどころか、『あのオテンバだったお嬢様も今や王都で婚約者がいて安心安心~☆』って聞いたヨ~」
「あ、え、それは……」
婚約破棄の話は実家には内緒だ。
まさかこんな近くにいるとは思わないだろうし、しばらくは誤魔化せるかな~なんて。
ここまで送ってくれた御者だけが知っている。口止めもばっちりした。
南国で暮らしたがっていた御者は、きのう付けでフローレンス家を退職してそのまま旅に出たはずだ。
「や、やばいやばい……」
「ん~? このシャンリィは口の堅い商人だヨ~?」
によによ~ん。
「……取引先のお客サマについては、ネ」
というわけで。
明日から、シャンリィさん定期便の購入が決まりました。
「大陸語での交渉がジョーズなフウカに免じて、オマケはたくさんしておくからネ~!」
「まぁ。嬉しいですわ、シャンリィさん!」
「フウカはいい商人になるネ~。バイバーイ!」
ふふふん、と勝ち誇ったように笑うフウカはやっぱり超めちゃくちゃ可愛いので。
ミヤコはこの状況は「あり」だと判断することにした。
***
「……っていうか、めちゃくちゃ品物がいい!?」
午後にお風呂に出かける前に腹ごしらえをしようと、シャンリィから買った『おすすめパック』の麻袋を開く。
卵。
牛乳。
チーズ。パン。
葉ものの野菜に、根菜にハーブ。
さらには、燻製にしたお肉やベーコン。
「これであの値段!? まさか良心的!?」
「ふんっ。わたくしは買い物とかはしたことがないのですが、安いのですわね」
「すごいよフウカちゃん! 値切り上手!!」
思わず抱きつくと、
「……気安く抱きつかないでくださらない?」
ゴミを見るような目で見られた。
「えぇっ」
「なにをショック受けてるんですの」
「だって、朝ごはんとか作ってくれたし、草むしりも手伝ってくれたのに……なんか冷たくない……?」
「何を勘違いしているのかしら? そうしたほうが効率的だと判断したまでですわっ」
「え~!? でもでも、『草むしり楽しそう』って言ってたじゃん!?」
「わたくしの学んでいる白魔術と薬草学は切っても切り離せないものですわ。屋敷では畑仕事などをする姿を使用人に見せるわけにはいきませんでしたが、白魔術を志す者としては畑を持つのはあこがれですわね」
「え~、じゃあ……」
「あなたに肩入れしたわけじゃありませんからねっ、ミヤコッ!」
全然、幸せとかじゃないですわよ――と。
そっぽをむくフウカに、ミヤコはぽりぽりと頭を掻く。
「………素直じゃないんだからぁ」
「何かおっしゃいました!!?」
「なんでもないでーす」
ランチは、パンとチーズと味付けしなおした今朝のスープの残りで簡単に済ませることにした。
さて。
午後はお風呂に行こう。
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