8日目(昼):聖女フウカと訪問者
11連勤から復活したので、執筆活動再開です!!(涙)
過労で異世界転生する日も近いかもしれません!!!
深夜の薬草取りの次の日から。
まだ愛娘の看病で家を離れられないシャンリィの代理の人がやってくるようになった。
昼頃になると毎日丁寧なお手紙とともに、豪華なケータリングが届く。
大きな葉っぱに包まれた蒸しご飯や柔らかく煮込まれた丸鶏のスープなどなど。めいっぱいのご馳走が送られてきていた。
これは、ありがたい。
QOLアップ!!
どれも大陸からやってきた凄腕行商人シャンリィが威信にかけて手配した料理だそうで……正直ふたりで食べるには多すぎるような気がした。というか多い。
シャンリィの家を去るときに結構な額のお礼を申し出てくれたのを、フウカが「ハミルトン家の令嬢として受け取ることはできませんわ」と頑なに断ったことも、このご馳走ぜめの原因だと思われる。
「うう~、も、もう食べられない!」
「ですわね……」
「ねえ、フウカちゃん? これ、お裾分けとかしたらどうかな」
「お裾分け? ……なんですの、それは」
フウカはこてん、と首をかしげる。
伯爵家令嬢に「お裾分け」の概念はなかった。なるほど、それはそうだ。
「食べきれない分を、分けてあげるの」
「ふぅん、たしかに理にかなっていますわね」
「スープなら振る舞えばいいし、お腹が空いてない人には蒸しご飯を持って帰ってもらったり……」
「まあ、確かにこの分だと午後もかなりの人が来るでしょうしね……」
「そうだねぇ……まさかこんなことになるとは」
ミヤコは遠い目をする。
「なんというか……人の役に立つのも楽じゃないですわね」
「そうだねぇ、フウカちゃん。でも」
「なんですの、ミヤコ?」
うふふ、とミヤコは緩んでしまう頬を両手でおさえる。
「なんだかフウカちゃん、すっごく嬉しそう!」
***
大好きなフウカちゃんと田舎でスローライフ! ……を目論んでいたミヤコだったけれど。
ここにきて、ちょっと風向きが変わってきているのであった。
というのも。
「ミヤコさまー、フウカさまー、どうぞお薬を!」
「昨日薬草をいただいた者です、息子の咳がピタリと治りましたっ」
「あなたがたが、噂に名高い聖女様っ!!」
……という具合で。
あの村で顔が広かったであろうシャンリィの愛娘に起こった『自家瘴気中毒』という悲劇。そしてそれを一夜にして解決した王都からやってきた二人の令嬢の噂はまたたくまに村に。そして近隣の町や村へと広がった。
そしてこの数日は、どうにか薬を作って欲しいと願う人が小屋へと殺到したのである。
「幸い、月光草もまだまだありますわ」
と言って、フウカは黙々と症状の聞き取りと調薬に勤しんだ。
お代はいらない。
条件はただひとつ……これ以上、ミヤコとフウカの存在を他の人には伝えないこと。
『にゃふう、わらわの加護も与えた薬とかぶっちゃけ国宝級だったりするんだけどにゃあ〜』
「まあまあ、ウミ。どうもありがとう」
『むふう、お礼は腰ぽんぽんで妥協してやるにゃあ』
「はいはい。すっかり猫ちゃんだねー」
猫カフェで触れ合った猫にやったのを思い出しながら、ミヤコはウミの腰をぽんぽんと叩いてやる。ウミは気持ちよさそうにもふもふの毛を震わせた。
『にゃふっ♡ にゃはぁあぁ〜っっ♡♡♡ そこっ、そこもっとだにゃあぁ〜っ♡♡♡』
「ちょっと……ウミ」
「こ、こほんっ」
猫である。
もっふもふの、ペルシャ猫である。
それでも、声は鈴の転がるような少女の声で悦びを表明されると大変困ります、水精霊様っ!?
***
「ありがとうございます、聖女様っ!」
「だーかーらー、聖女じゃありませんわっ!」
そんなやり取りとともに最後の一人の患者が帰ったのは、ちょうどおやつの時間をまわったころだった。
近隣の村から馬車で数刻という距離なのに、皆早朝からこの小屋を目指してきてくれたのだろう。帰宅するころにはすっかり夜になっているはずだ。ミヤコとフウカは、シャンリィからの超豪華なケータリングからふたりでは食べきれなさそうな量の葉っぱに巻いた蒸しご飯を与えていった。
「お裾分け大成功! っていうか、もはやお弁当だね!」
「お弁当?」
こてんとフウカが首をかしげる。
うっわ可愛い!! と顔がにやけるのをミヤコは必死におさえた。
「お弁当っていうのは、出かけるときにもっていくごはんのことだよ」
「ケータリングみたいなものですの?」
「ん~~」
こういうところでお嬢様なのがわかるな、とミヤコは思う。
ナチュラルボーンお嬢様こと我らが愛しき悪役令嬢のフウカである。
「あ、じゃあさ。今度一緒にピクニックに行こうよ」
「ピクニック……誰のおもてなしですの?」
「おもてなしじゃないよ、二人のためだけに行くピクニックだよ!」
フウカにとってピクニックというのは、いわゆる貴族同士の社交界の延長なのだ。
主催する家にとっては家名に泥が塗られないように何か月も前から必死に準備する気の重いイベント、参加者にとっては政治的な権謀術数や政略結婚についての根回しの絶好の機会なのである。
そういうわけで、ピクニックというのはお抱えの料理人によって贅を凝らしたケータリングが当然だし、その目的はおもてなしなのだ。
「二人のため……」
「そう。きっと楽しいよ、フウカちゃん!」
丸鶏のスープを温めながらミヤコは歌うように言う。
ピクニックはどこに行こうか。
近くに有名な花畑があるはずだ。
お弁当は何がいいか。
サンドイッチが定番だよね。卵サンド、得意だったんだよね。
しばらく作ってないなぁ。
忙しいと、料理なんてできないから。
約束の期限まであと6日。
フウカは「幸せだ」と言ってくれるだろうか。
「……でも言ってくれなくても」
「え?」
「ううん。なんでもない」
フウカは笑う。
そう。
もし、フウカが「幸せだ」と言ってくれなくても。
この生活が続いていかなくても。
フウカが、この生活を幸せなものだったと思い出してくれるならば。
それでもいいのかもしれない。
ずっといっしょに居たいけれど。
それがかなわなくても、もしもフウカが幸せならば――。
「へんなミヤコ」
ふふ、と笑ったフウカの笑顔がやっぱりすごく大好きだと、ミヤコは思った。
と、そのときである。
「おーーーい、誰かいないかーー!!」
「んっ、誰!?」
小屋の外で声がした。
馬のいななきも聞こえる。
馬車で誰かがやってきたのだ。いままでの訪問者とは感じが違う。
窓辺で丸くなっていたウミがぴくんと、耳を震わせて立ち上がった。
慌ててドアをあけ放つ。
そこに立っていた人物の姿を見て――ミヤコは叫んだ。
「に、兄さんっ!!?」
「おお、やっぱりここにいたのかミヤコ!!」
「はっ、それは……このあいだ盗まれた馬車ではありませんことっ!?」
そこに立っていたのは。
夜間の山道で盗まれた馬車から颯爽と降りてきた、一人の男。
「って、兄さん? といいました、ミヤコ?」
「うん、俺はいかにもフローレンス家の次男で、そこにいるミヤコの兄……オディナ・フローレンス」
いやに泥だらけで疲労困憊した表情のオディナは真っ黒いクマに縁どられた目を細める。
その表情には、超過勤務の末に雇い主から無茶な出張を押し付けられた男の悲哀があった。
そして。
「クラウス・ラインハルト様の命により、我が妹を連れ戻しにき…………た…………っ、ガクリ」
ばたん、と。
「に、兄っさーーーーーーーーーんっ!!????」
オディナ・フローレンスは登場からわずか数秒で、過労により庭先に倒れた。
お読みいただきありがとうございます。突然の訪問者(過労)によって、お話が動いていきます。ミヤコはフウカに「幸せだ」と言わせることはできるのか? ピクニックに行くことはできるのか?
続きが気になる!! 面白かった!! 尊い!! ……など思っていただけましたら、ぜひブクマや評価をいただけますと嬉しいです。
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