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6日目(朝):朝の広場と悪役令嬢

 早朝の清涼な空気。

 青色と橙色の混じったような朝日の中で、フウカはぼんやりと村の広場のベンチに腰掛けていた。


 フウカに駆け寄って、ミヤコはそっと声をかける。


「フウカちゃん」


 フウカの膝には丸くなったウミがすよすよと寝息を立てている。

 あの美しい神獣めいた見た目はとうに脱ぎ捨てて、ミヤコと契約したときのもふもふのペルシャ猫の姿である。こうして見ると、本当にただの猫みたいなのに。

 ……っていうか。寝るんだ、精霊。


「ミヤコ。もうシャンリィさんは落ち着きましたの?」

「うん、なんとかね」


 ふふ、とミヤコは苦笑する。


 月光草の薬効は覿面(てきめん)で、フウカが暗記していた薬学書通りに調合した薬で一気にシャンリィの娘の病状は改善した。

 体内で瘴気が発生してしまう、という致命的な局面さえ乗り切ってしまえば、あとは水精霊の加護を受けた白魔術治癒光(ヒール)をかけて、状況終了である。


 意識不明の重体から、途端にはっきりと喋れるようになった娘の姿にシャンリィは大号泣していたのだ。

 とりわけ、シャンリィはフウカの調薬の腕にいたく感動していて、フウカが部屋にいる限りはマシンガントークによる賛美をやめてくれそうになかったため、ミヤコがひとりシャンリィのもとに残っていたのである。


「娘さんも、もう大丈夫そうですわね」

「うん。フウカちゃんのおかげだよ。落ち着いたら、ぜひお礼の宴会を開かせてほしいって、シャンリィさんが。大陸流のおもてなしって言ってたよ」

「そんな、わたくしにお礼なんて……」


 言いながら、笑みを抑えられないフウカ。

 愛おしいその姿にミヤコの方も嬉しくなってしまう。


「あの、ミヤコ」

「なあに?」

「わたくし、シャンリィさんの役に立てたのですわよね……」

「うん、もちろんだよ!」

「喜んで、いましたわね」

「うん、すっごく喜んでた。もうフウカちゃんに大感謝してたよ! 命の恩人だって」

「感謝……命の、恩人……っ」


 ぽう、と胸が熱くなって、心臓がとくとくと跳ねるのをフウカは感じた。


 いままで、努力をし続けてきた。

 誰よりも優秀であるように。

 誰よりも美しくあるように。


 でもそれはフウカにとっては当然の義務でしかなくて。

 同じように父も、妹たちも、誰もが、フウカの努力と優秀さを「当たり前」だと捉えていた。


 誰も褒めてなんてくれなかった。

 誰も、感謝なんてしてくれなかった。


 フウカの努力を唯一「すごい」と言ってくれたのは、名門貴族の婚約者を取り合うライバルだったはずのミヤコだけだった。

 ライバルから褒められたのを素直に受け入れるなんていうことは、ハミルトン家の長女としてできるはずもなかった。


 だから。

 誰かに、感謝されることなんて。

 認めてもらうことなんて。

 ――フウカの人生で、初めてかもしれない。


 誰かに「ありがとう」と言われることは、こんなにもーー。


「感謝される、というのは、すごく温かくて。嬉しくて……」


 ぽつり、とフウカは言う。

 そう、それはとても。


「しあ……………」

「っ!!!」


 期待してキラキラと目を輝かせるミヤコの表情に、はっとする。

 フウカの脳裏にあの約束がよぎった。


『この2週間でフウカに幸せだと言わせることができたら――実家に帰らずに、ずっとミヤコと暮らしてあげる』


 という、この逃避行の初日に交わした約束が。


「フウカちゃん!! なになに、『しあ』っ!?」

「〜〜〜っ、し、し、あ、しぁっ、っ、しわ寄せがっ!!! 徹夜で薬草を探すようなしわ寄せがっ、わたくしに来てしまうというのも、まあ、やぶさかではないですわっ!!」


 赤面。

 そして、ミヤコにずびしと人差し指を突きつける。

 フウカのそんなリアクションに、ミヤコは一瞬キョトンとして、そしてすぐに破顔した。


「ご、強引っ!? でも、そんなところも好きだよフウカちゃんっ!!」

「きゃ、きゃあっ! ミヤコ、抱きつくのはやめるのですわっ!」

「大丈夫、誰も見てないよ〜っ!」



 朝日の照らす広場に、きゃっきゃっと響く二人の声。

 晴れやかな顔で笑う悪役令嬢の膝で、もふもふの水精霊(ウンディーネ)が『にゃふぅ〜っ』と大きくあくびをした。



 

お読みいただき、ありがとうございます。ミヤコとフウカの14日間の逃避行も前半戦が終了。ここからさらに楽しい日々とちょっとした事件が……? 面白い、もっと読みたいとおもっていただけましたら、感想やブクマをいただくととても励みになります。

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