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3日目(夕):一方その頃、王都では……?

すみません、他作品の書籍化作業で更新が滞りましたっ。

またぽちぽち書いていきます!!


幸せ暮らしのミヤコとフウカ。しかし、王都では不穏な動きが……?

「ミヤコ・フローレンスが失踪しました」


 クラウス・ラインハルトは耳にした報告に白目を剥いた。

 ラインハルト家に仕える隠密は、未来の当主にひざまずいている。


「では、なんだ。ミヤコは、婚約破棄されたその夜にこの王都オーデから姿を消した、と……!?」

「は、さようでございます」

「なんと……なんということだ……!」


 クラウスは、その身を震わせた。

 歓喜のためだ。


 ミヤコ・フローレンス。

 あの女は、この上流貴族かつ大金持ちで人生是モテ期なりという完全無欠な人生を歩んでいたはずのクラウス・ラインハルトの婚約者だった。

 しかし!

 不敬にもあの田舎貴族は、婚約の申し出に喜ばないばかりか、遠い目をして、


『あ、まじすか。うっす……、はっ!? 失礼いたしました、嬉しいですわ!! 本当です、ほんと!!』

『…………ぅぅ、穏便になかったことになんねぇかな』


 とボソボソと独り言をいうなどしていた。

 失礼かよ、とクラウスは思っていたが、ミヤコの才気や美しさ、賢さの前に「さっきのは幻聴、さっきのは幻聴……」と己に言い聞かせて婚約者としての生活を続けていたのだ。


 ミヤコに指定された時間に彼女に会いに行くたびに、何故か頭上から鳥の糞が落ちてきたりとか。

 ミヤコが指定した待ち合わせ場所に行くたびに、なぜか巨大な馬糞をふんづけたりとか。

 あげくのはてには、誰が掘ったかも分からない落とし穴に落下したりだとか。


 そんな目に会い続けても、数ヶ月は耐えたのだ。

 それが、それが。

 ついに耐えかねて婚約破棄を言い渡した途端に、王都から逃げるように去って行くなんて……っ。


「ミヤコ……、まさか今までのアレがすべて照れ隠しだったとはな!!!!!!」

「……は? クラウス様、いまなんと」

「ミヤコは逃げるように王都から姿を消したのだろう!? このクラウスから婚約破棄を言い渡され、悲しみと恥ずかしさに居ても立っても居られなくなったに違いない! そうか。いままでの俺への仕打ちや態度、おかしいとは思っていたがまさか照れ隠しっ、ツンデレ、試し行為というやつだったとはなっ!! はっはっはっは!!!」


 隠密は、『あー、仕事やめてえ』という気持ちを胸に秘めて、


「斬新な解釈、恐れ入ります」


 と、さらに頭を下げた。

 高笑いするクラウス。今日の夕飯のことを考える隠密。


「こうしてはおられん、隠密!」

「……ハンバーグ」

「ん?」

「はっ! 失礼いたしました、なんでございましょう。クラウス様!」

「うむ。ミヤコの現在の居場所を即刻突き止めてきてくれ」

「は、といいますと……? あの、わたくし、もう退勤の時間なのですが……」

「ああ。残業だ」

「そ、そんな……」


 眉一つ動かさずに、美味しいハンバーグを食べる未来を隠密から奪ったクラウス。

 隠密は誓う。

 「ぜっったい転職してやる」、と。


 そんな部下の思いにはまったくもって無頓着に、クラウスは窓の外を眺めてうっとりと呟く。


「ミヤコ……待っていてくれ。必ず、見つけ出してあげよう」


 顔の造形だけはいっちょ前なので、そこそこに絵になるのが、隠密の胃をむしばんだ。




***



 ぞくぞく、と背筋に寒気が走る。


「へっぷち!」

「きゃっ、大丈夫ですの。ミヤコ!?」


 温泉からの帰り道、おおきなくしゃみ。

 なんだ今のは。

 なにか、こう、王都方面から、とても嫌な感じの気を感じたぞ。


「うう。ごめんね、フウカちゃん」

「さすがに、肌寒いですわね。これが毎晩だと、風邪を引いてもおかしくありませんわ」


 露天温泉は最高に気持ちが良いけれど、たしかに帰宅するまでに湯冷めしてしまう。


「まったく、あの小屋にシャワーの一つもついていないのがいけませんわ!」

「うーん、もともとは長期滞在用じゃないからね」


 内風呂かあ、とミヤコは考えを巡らせる。

 アレがあれば……自作できるかも?


「まあ、でも」


 土の匂いや風の匂いを胸一杯に吸い込んで、少し前を歩くフウカの背中を追いかける。


「この帰り道、けっこう幸せなんだけどね」

「わたくしは、幸せじゃ、ないですわ!」

「ふふ、はいはい」


 明日もきっと、良い日になりそうだ。

 ……たぶん。



お読みいただきありがとうございます!!

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