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第九話 友達と将来

 クーガ村というのがこの村の名前だ。

 人口は2,000人程度の、そこそこの規模の農村である。

 どこぞの王国の地方領土に所属する村の一つということらしいが、村から出る機会はないため、それこそ余所のできごとは遠いおとぎ話のようだ。

 父さまからは、外には恐ろしい魔物が出るぞと言われてはいたが、今のところ、狼や熊っぽいやつ位しか見たことはない。

 それも村に常駐する兵士や狩人の人が追っ払ったりするので、異世界に来たという実感がほとんどわかない。

 今のところ一番異世界っぽいのは両親の見た目と教会の楽器だけなのだから寂しい話だ。


 買い物かごをぶら下げて村の中のパン屋に向かって歩く。

 季節は冬にあたる時期なので村一面に広がる畑は何も植えられておらず、粗く耕された跡があるばかりだ。

 何もない道をただただ歩く。

 自転車ほしいなー、でも作り方わからないなー、とか思っていると、道の脇で話していた何人かの子供たちがこちらに気づいて手を振ってきた。


「おーいミュー!」

「やっほーハルにジェロにボーイ」


 そう返事して手を振りかえす。

 この平和な村で十年近くを共に過ごしてきた3人だ。

 他に友達がいないわけではないが、やはりこの世界での友達といえばこの3人が真っ先に挙がるくらいには親友だと思っている。

 そんな3人は僕に近づいてくると口々に話しかけてきた。


「今日もちっちゃいなー。そんなちっちゃくて寒くないの?」

「寒いけど小さいの関係ないじゃん! ほっといてよ」


 そう返すと、嬉しそうに笑顔を見せる赤毛の女の子がハル。

 14歳になって、体にも女性らしい凹凸が出つつあったが、子供の頃から変わらない強気な性格と表情から、ボーイッシュなイメージから全く変わっていない。

 村の駐在兵士がやってくれている剣の練習でも、あっという間に僕を追い抜いて行き、今では村有数の使い手に成長している。

 スラリと長い手足にはしっかりとした筋肉がついており、体の軸がしっかりしているので、何でもない立ち姿もきれいである。

 今は男子に交じって遊ぶお転婆娘といった雰囲気があるが、あと数年したらきりっとした美人さんになりそうな気がする。

 昔から僕の身長が小さいことを挨拶代わりにいじってくるのだが、他のやつが僕をからかったりすると、代わりに喧嘩をしかけにいく男気あふれるガキ大将タイプである。

 実際、村の子供達からは同い年であろうと姉御と呼ばれている。

 僕が姉御と呼ぶと怒るので、名前で呼んでいるけど。


「今日も朝から手伝いか?」


 ぼそっとつぶやくように言う大男はジェロ。

 昔から大きかったけど、同じ14歳の今、身長は既に2mオーバーとなっている。

 実家の大工仕事を手伝って思い建材を運ぶせいか、縦だけでなく、筋肉で横にも大きい。

 黙っていると威圧感が溢れ出る風貌だが、性格は昔と変わらず朴訥で、あと意外と手先も器用だ。

 子供の頃のように「うが」しか言わないということはなくなったが、今でも言葉数が少ない。でも、その言葉はいつも優しい。

 僕もこれほどとは言わないまでも、こんな風に身長と筋肉がほしかったなあ。


「一緒に遊ばねえ?」


 人なつっこい笑顔で話しかけてくる男がボーイ。

 こちらもジェロほどじゃないにしろのびのびと成長して結構な高身長となったのだが、こっちはジェロと違ってヒョロヒョロと線は細い。あと、目も細い。

 気さくでいい奴なのだがそそっかしく、いつも家の手伝いをせずにぶらぶらしているからあまり筋肉がついていないのだろう。

 しかし、頭がよいのか遊びに関してはコツをつかむのがうまく、あっという間になんでも僕よりうまくなる要領のよさがある。

 あと、ジェロ以上に手先が器用だ。

 ちなみに、今頃うちの父にしめられている酪農家のおじさんの三男坊である。


「おはよう、みんな。今買い物中だから後でね」

「えー真面目だねえ」

「姉御、邪魔はよくない」

「おいらまたヤキュウやりたい!」


 そう言いながら一緒に付いてくる3人。

 前世と違って、自然と友達が寄ってくる状況は嬉しいといえば嬉しいのだが、村でも悪名高き問題児トリオであるこの三人と一緒にいると、あまりいい目で見られないのは困ったものなんだよね。


 この前も、野球もどきを教えて一緒にやったところ、打ったボールが村長の家の植木鉢を壊してしまい、4人で正座して怒られたことは記憶に新しい。

 なぜ異世界で昭和チックな真似をしなければいけないのか。

 この3人といつも遊んでるせいで、いつの間にか僕まで何人かの大人から「問題児たちの黒幕」とか「悪ガキどものブレーン」と言われる始末。

 ・・・・・・僕の方が立場悪いような気がする。


「野球はしないよ。この前怒られたばっかりじゃん」

「ミューが涙ぐんだおかげですぐ許してもらったけどねー」

「俺のリードのせいで姉御にうたれてしまったせいだ。すまん」

「なあ、おいらこの前教わったふぉーくっていうの投げられるようになった気がするんだよね!」


 そんな益体のないことを話しながらのんびりと歩く。

 一番小さい僕と一番大きいジェロの歩幅の差はかなりあるのだが、何も言わなくても3人は僕のスピードに合わせて歩いてくれる。

 こういった細かい気遣いを何も言わなくてもしてくれる心地の良さがあるからなんやかんや言いつつもこの3人と一緒にいるのだろうなと思う。

 こんな親友と退屈ながらも平和な村で教会の仕事をして過ごすのも悪くないのかな。

 僕の夢を考えると、なんか心がもやもやはするけど。

 でも、こんな穏やかな生活ですら前世では出来なかった訳だし――。


「ところでさ、私たち3人は15歳になったら旅に出ようかと思うのだけど、ミューはどうする?」

「はい?」


 唐突に、ハルがすごい僕の悩みをぶっこわすようなことを言い出したせいで変な声が出てしまった。


「旅に出るって……近くの街に遊びに行くってこと?」

「違う違う。冒険者になるってこと」


 冒険者。

 ファンタジーではお馴染みの職業ではあるが、その意味合いはかなり幅広い。

 モンスター退治や遺跡発掘は言うに及ばず、探偵や傭兵やなんでも屋さん等をふらふらと旅しながらやっている人全般を指す。

 ザ・自由業。夢あふれるフリーター。夢追い人。

 華々しい冒険者の冒険譚は噂や物語として聞くものの、たまに村に来ていた冒険者を名乗る人は、その大半はガラが悪いかみすぼらしいかのどちらかだったので、村の大人達はいい顔をしない。

 ファンタジー世界の定番という前世の考え方がまだ残っているので、僕自身に忌避感はないのだが、3人は家業を継ぐものだと思っていたので、唐突に置いて行かれたような気分になる。


「なんで突然?」

「なんでって・・・・・・15歳になったらもう大人だしねぇ」

「姉御が冒険者になると言うから付いていく」

「面白そう! あと牛の世話はしたくないし兄貴が家は継ぐし!」


 そう、この世界では15歳で大人だ。

 と言っても大人になると出来ることは職業の正式な就業とか家督の相続が可能になるというくらいなのだが。

 それまではどこで働いても見習いという名のアルバイト程度というのがルールなのだ。

 かくいう僕も、教会ではアパスルライトを使えるように、本洗礼を受けるのは15歳だと言われていた。


 父さまの教会では、村の子供達を集めて読み書き算数理科歴史と教えているが、それも結構前に卒業済み。

 村の同年代は既に家の手伝いをやってきており、家の家業を継ぐ準備に入ったり、配偶者を捜し始めるという状況を思えば、15歳で冒険者という決断をするのは別におかしくはないのだろうけど・・・・・・。


「冒険者になってハルはどうするの?」

「とりあえず大きな街に行く」

「うん。それで?」

「歴史に名を残す冒険者になる」

「何をして?」

「何って・・・・・・まあ、都会に行けばわかるんじゃない?」


 なんとびっくりノープラン。

 とりあえず他の二人にも聞いてみよう。


「ジェロはなにしたいの?」

「姉御が心配だからついていくだけだ」


 うん。こっちも特に目的はないみたい。

 ハルが一人で行くよりかは安心できるけど。


「ボーイは・・・・・・どうせ何も考えてないでしょ?」

「ひでえな! 俺はヤキュウセンシュになりたい!」

「僕が教えたゲームだし、この村以外にやる人いないのにどうやって選手になるのさ」

「じゃあジャンセイになる!」

「ジャンセイって・・・・・・ああ、麻雀の雀聖? そんな言葉教えたっけなあ? それもこの村以外にやる人いないって」

「じゃあそこら辺をみんなに教える。大丈夫! 絶対うけるって!」


 言い方こそ馬鹿っぽいが、案外ボーイが一番現実味ありそうな気がする。

 とはいえ、三人はどう見ても、都会に行けば何かあると考えている、なんも考えていない若者そのものだった。

 それで何かできるのも若さなんだろうけど、僕としては前世の自分を見ているようで頭が痛い。

 そう思いながらこめかみを揉んでいると、ハルが気楽な様子で話を続ける。


「それでミューはどうするの?」

「どうするって・・・・・・なにが?」

「だーかーらー、ミューも一緒に行かないかって聞いてるの!」

「僕も!?」


 三人は当然と言わんばかりにうんうんと頷いている。

 遊びだけならいざ知らず、人生道連れな旅に誘ってくれるのは、正直嬉しいという気持ちはある。

 しかし、同時に不安な気持ちも大きい。

 だって旅とか冒険とかに、自分みたいのが役に立つとは思えないのだから。

 そんな不安から僕はおそるおそる言う。


「絶対僕は足手まといにしかならないよ?」


 しかし、3人はなんてことないとばかりに胸を叩き、言うのだった。


「おいら気にしない!」

「なんとかなる」

「昔言ったでしょ。ミューは私が守ってやるよって」


 なんだろう。すごく嬉しい。

 あとハルが男前すぎる。

 守ってもらうというのは情けないかぎりだけど、信頼できる友達がいるってだけで、胸が熱くなる。

 でも、だからこそ、僕はきちんと言わなければならないだろう。


「3人ともありがとう。でも僕はみんなに守られるだけの足手まといになりたくない」

「いや、ミューはいるだけで・・・・・・」


 なんかハルがごにょごにょ言ってるけど構わずに続ける。


「だから、両親と相談して考えるから、改めて答えさせて」


 それが一番の答えだと思いながら自信をもってかっこよく答えたんだけど、3人はそんな僕の答えに「えっ」って顔をしながらこっちを見ている。

 あれ? なんか変なこと言った?

 するとハルが恐る恐ると言った様子で、


「両親に言うの?」

「相談は必要でしょ?」

「必要、かな?」

「みんな自分の親に相談してないの?」


 僕の言葉に、3人は気まずそうに顔を逸らす。

 おいおい。なぜそんな人生の一大事を何も言わずにしようとしているのか。


「なんで言わないのさ。ボーイはお兄ちゃんが家継ぐなら問題ないでしょ?」

「継ぐのは兄貴だけど、手伝いはしろって言われてて」

「ジェロは?」

「うちは家業の大工を継げと言われた」

「ハルは? 家業っていってもハルのところは村駐在の兵士でしょ? 兵士は相続じゃなくて、領主様が派遣してくるから、家を継ぐとかないでしょ?」

「仕事はそうだけど、今度見合いしろって言われた」


 3人ともブスッとした表情で言う。

 こいつら揃いも揃って・・・・・・。

 こんなんだから村の悪ガキ3人組と言われるんだよ。

 そのブレーンと言われる僕は、気持ちだけは年長者として、この幼馴染たちにきちんと忠告しなくては。


「反対はされるかもしれないけど、ちゃんと親の説得はした方がいいよ」


 それをやって死んだやつがここにいるんだから――という部分は言わないけど。

 嫌そうな顔はしつつも、それでも3人は「後で捜索されるのも面倒だしね」ということで納得はしてもらえたようだ。

 そんな結論が出たところでようやく当初の目的地であったパン屋についたため解散することにした。

 話はまた後日という約束をして。

 それにしても冒険者か。

 夢とか希望に向かって行くっていうのはいいけど、今の僕にできることってなんだろう。


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