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第二十七話 異世界の楽しみ方 冒険者ギルド編

「あっ、冒険者ギルドだ!」


 さっきの武器屋から十分に離れたところで一息ついて、息を整えるように歩いていると、一際大きな建物が目に入った。

 僕が声を上げたように、看板には『冒険者ギルドカシマ支部』といわかりやすい看板が掲げられている。

 冒険者ギルド。これもロマンだよね。

 僕はココの方を振り向いて提案した。


「ねえ入ってみない?」

「ミューって結構こういうの好きだよね」

「ココは嫌い?」

「うーん。特に好きでも嫌いでもないけど、ミューが危ない目に遭いそうでハラハラするかな」


 そんなことないよと言いたかったけど、既に武器屋の騒動を考えると何も言えない。

 でも、こっちは今後の生活を考えるとちょっと調べておきたい気はするのだ。

 僕らはアイドル活動を目指す教団ではあるけど、その活動の一環で冒険者を名乗った方がいいこともあるかもしれないし。

 そういうことでココに説得しようとしたのだが。


「別にダメなことはないよ。ミューは私が絶対守るから行きたいところに行けばいいと思うよ」


 なんてことを言って、冒険者ギルドに一緒に行ってくれるようである。

 本当にココちゃん男前。


「なんかごめんね。そのうち僕もきっと強くなるから」

「いいよー。ミューはそのままで」


 そんなことを言いながら僕らは冒険者ギルド内に入っていった。

 建物の内部は、外から見た通り結構広い。

 まず目につくのは、受付のカウンターに何人かの職員。

 そして、受付前のホールには据え付けられた長椅子に、冒険者なのだろう、鎧を着たヒトが数人会話している。

 見るからに強そうな人もいるけど、普段着っぽい軽装の普通の人もいたりして、思ったより怖い雰囲気ではなさそうだ。


「思ったよりも普通だね」

「えぅ? どんなのだと思ったの?」

「いやー、筋肉マッチョな柄の悪いのがたむろしていて、入ってくるなり『おうおうお前ら新入りかい? 俺に何か言うことがあるんじゃないかい?』とか言ってくるイメージ」

「そんな人いたら普通にジャマだと思うよ」

「ですよね」


 もしそんな人がいたら、僕なんかチート持ち異世界転生者みたいに軽くひねることなんてできないから、回れ右してすごすご帰るしかできなかったしね。

 一安心したところで僕は受付の一番優しそうな女性のところに向かうことにする。


「すいません」

「はいはい。あらあら。今日はどうしたのかなー?」

「……これでも一応成人です。冒険者ギルドについて教えてほしいんですけど」


 いきなりの子ども扱いにムッとするが、僕の見た目だと間違えるのも仕方ないと、ぐっと我慢して言う。

 受付のお姉さんはちょっと驚いたようしつつも。


「あら、ごめんなさいね。字が読めるのならここに説明書があるから。わからなかったら聞いてちょうだい」


 そう言いながら小冊子を僕に手渡し、視線を僕から外して自分の作業に戻ってしまった。

 こんな見た目だからあまり期待もされていないのか、日本レベルのサービスを期待する方が間違っているのか。

 ちょっと寂しいけど文字で読むほうが面倒も無くていいと気を取り直す。


「ふむふむ。ギルドに登録するとギルドからの仕事を受けられる。登録した冒険者は達成した実績に応じてAからFまでランク付けされて、受けられる仕事もランクによって制限がある、と。見事に予想通りだね。人間の考えることは世界が変わっても一緒ってことかな」

「世界が変わっても?」

「こっちの話」


 一通り説明を読み終わると、僕とココは一応冒険者登録をしておくことにした。

 登録手数料が多少かかるだけで特に試験があるわけでもないし、デメリットもないみたいだからいいだろうという判断だ。

 むしろ悪いことでもしない限り、冒険者ギルドの身分は様々な場面で役に立つ。

 デメリットとしては、ランクが上がると仕事の指名や召集があって、危険な目に遭う可能性があることだけど、当然ながらFランクからスタートする僕らには関係ない。

 商人ギルドや傭兵ギルドとかもあるけど、そちらの方に入る気はないし、それらに比べると冒険者ギルドが一番緩そうだ。

 もし僕にすごい力があれば、凄い実績や力を見せつけたりして何段階かランクをすっ飛ばして、「なんなんだあの新人は!?」みたいな展開があったのかもしれないが、残念ながらそこらへんは人並み以下の僕である。

 むしろ、ギルドの職員からは「本当に冒険者になるの?」という疑問の目を向けられる始末。

 そしてそれを見返すことができないのが悲しいところ。

 それでも、必要事項の記入を済ませると、あっという間に冒険者の身分証となるカードが出来上がった。

 一応は魔道具らしいが、特に面白いことができるわけでもない最低限のことだけ書かれたカード。

 でも、遂に異世界で冒険者の端くれになれたのかと思うと感慨深い。

 剣すら装備できないから特に魔物退治もするつもりはないけど。

 僕はできたばかりのカードをしまうと、ギルド内を見渡した。


「あっちに掲げてあるボードに貼ってある紙が依頼書だよね。受ける気はないけど見て行こうかな」


 するとココは別方向を指さして言った。


「二階もあるよ」

「二階は魔石買取所とアイテムショップって書いてるね」

「魔石って買い取ってもらえるんだね」


 ココはちょっと驚いているようだ。

 魔石は魔道具の燃料になる生活必需品だが、鉱物として産出されるもの以外にも魔物からも採れるので、冒険者ギルド内に買取所が設置しているのは当然なのだろう。

 魔物産の魔石は、鉱脈から採れるものに比べると質や量が安定しないけど、魔物を狩る仕事ではついでに手に入るし、需要は高いから手軽な収入源らしい。

 クーガ村にいた時は、チアリュート用の魔石は定期的にくる商人から買うのがメインだったが、猟師のおじさんも時々弱い魔物を捕まえた時に手に入ったものを寄付してくれていた。

 ちなみに、魔物と接触しないようにしてきた僕の手持ちに売却用の魔石はない。

 ココは二階を見上げると、ふと何か思いついたようにこちらに向き直って言った。


「ちょっと私二階行ってくるね」

「僕は依頼ボード見てるから行ってていいよ」

「わかった! そこで待っててね」


 そう言いながらココはパタパタと階段を駆け上がって行った。

 アイテムショップの方になんか用でもあるのかな。

 ココにもお金渡しているし、欲しいものがあったら買うだろうと思って僕はボードに視線を向けた。

 張り出された仕事には冒険者のランクと対応するランクが割り振られていて、自分のランクを上げないと受けることもできない仕組みになっているようだ。


「Fランクは街中の雑用ばっかり。バイトの求人みたい。バイト……嫌な記憶が甦るなあ。B以上の仕事って貼ってないね。ゴブリン退治はDランクって意外と高いなあ」

「誰でもすぐになれるFランクに、いくら弱くても死ぬ危険のある魔物退治は依頼しないわよ。それに信用もないしね」


 声に振り返ると、そこには先ほどまで別の作業をしていた受付のおねえさん。

 どうやらピカピカの駆け出し冒険者がさっそく仕事を受けようとしていると思って、説明に来たようだ。

 当然ながらすぐに仕事を受ける気はないのだが、折角なので色々聞いておこう。


「ランクってギルドの仕事で実績を重ねたら上がるんですか?」

「まあ基本はそうね。でも、特別な功労や武芸大会で優勝したとかどこかの戦争で活躍したっていう実績があれば飛び級はできるけど。あなたたちも実はなんかあった?」

「いえ、全く」


 むしろ貧弱さにかけては定評がある。


「最近だとすごい功績をあげてあっというまにCランクまであがった冒険者がいたけど、そんなに例があることじゃないから気にする必要はないわ。冒険者の多くは地道にコツコツと日銭を稼いでDランクでおしまいって人も多いわよ」

「へえ。じゃあCランクってすごいんですね」

「すごいわよ。Bランクなんてここらじゃまずめったに見ないし、Aランクに至っては国に5組しかいないくらいね。Cランクは地方の支部の最高戦力と言っていいわ」


 それはすごい。

 それにしても、個人的には全体のランクを一つずつ上げて、Aランクの5組にはSランクにしてほしいな。

 規格外、EX、S。呼び方は色々あるけど憧れる。

 異世界転生したら大体そういったランクになるのが定番だろうけど、僕の細腕じゃ戦い向きじゃないし無理だろうが。

 マエストールになっただけで十分異世界チートだ。

 戦いに向かなくっても平和にいこう。ラブ&ピース。

 ちなみに、冒険者ギルドには僕がマエストールであるということは言う気はない。

 今のところ何ができるわけでもないし、逆に期待されても困るからね。


「それにしてもゴブリンがDランクって意外に強いんですね」

「悪知恵の働く凶暴な子供ぐらいはあるんだから意外でもないと思うわよ。群れで襲われたら、一体を一撃で倒すつもりでもないとあっという間に囲まれて、熟練の冒険者でも怪しいんだから」

「うーん。僕はタイマンでも怪しいなぁ」

「うふふ。Fランクでもできる討伐任務もあるわよ。このクロビカリ虫っていう早いだけが厄介な害虫の駆除作業とか」

「お断りします!」


 それからしばらく僕はギルドに関する有意義なお話を聞くことが出来たのだった。

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