第十七話 ようこそマイホームへ
そこはひとつの完成された空間だった。
「これが、ヨミ様の神の座……?」
まず、目に入るのは空間の中央に鎮座する背の低い机。
その机には柔らかく厚みのある布地が天板に挟まれ、その内部を覆い隠している。
それが覆うのは、内部の暖気であろう。
そして、その机の上には口内に唾液を湧き立たせるオレンジ色の果実が積まれ、豊穣の象徴とも言わんばかりだ。
その横には、箱状の物体。
表面は水晶のように輝いており、この世界のどこの絵師よりも精緻な風景がはめ込まれている。
だが、その精緻な風景は刻一刻と姿を変え、まるで世界を切り取ったかのような錯覚を起こさせる。
それを見たココが目を白黒させるのも当然であろう。
机を挟んで、先ほどの箱の反対側には、見たこともないような磨き抜かれた銀色の机が置かれている。
腰のあたりまであるその銀色の机は、不思議なことに中央の天板の部分が大きく窪んでおり、その窪みには澄み切った水がたたえられ、これまた村ではついぞ見たことのない雪のように白い、芸術品のような器が無造作に積み上げられている。
その空間の奥におわすは、最初の位置関係のまま変わらず佇むヨミ様。
その空間の端に据え付けられた、やたら存在感のある天蓋付きのベッドに腰掛けながらこちらを見ている。
そのベッドも空気を形にしたような、軽く、それでいて包み込むような柔らかさを提供してることは見るだけで分かる。
空間を照らし出すのは、まるで小さな太陽のような、天井に据え付けられた灯火。
ただしその明かりは、火に依存するものではなく、魔道具の明かりをも超える力強さで、それでいて熱を感じさせない涼やかな光を放っている。
「ようこそ人の子よ。ここに人が来るのはいつ以来かのう」
楽しげにそう言うヨミ様。
うん。ヨミ様は神様で、ここは神の座だろうけど、言葉を飾るのは辞めよう。
どう見たってここは六畳間のアパートの一室だ。
狭い空間にこたつとベッドが場所をとり、ベッドとこたつからみられる位置にテレビ。
なんで六畳間ってわかるかって?
だって目に見える範囲で畳が6枚敷いてあるんだから紛うことなき六畳間だろうさ。
なんだこの親近感しかわかない空間は。
「どうした? あまりにもすごい部屋で言葉も出ないか?」
「えーっと……」
なんて言ったらいいか、コメントがしにくい。
なんか予想とかけ離れすぎなのだ。
大体、人を招くのならもう少し片付けといてほしい。
部屋の隅には、着物がハンガーにかけた状態で吊るしっぱなしだし。
流しには水張って皿が突っ込んであるし、コタツの上にはみかんの皮が放置だし。
もっと言うと、コタツまわりの物の配置が、寝転がって手が届く範囲に置いてあるとしか思えないのだ。
完璧なコタツムリ生活だよこれは。
「すごいすごい!」
そんな部屋でも素直に驚いたのはココ。
目をキラキラさせながら部屋の中をうろうろし始める。
どうでもいいけど、部屋が真っ黒だった時に動くなと言われたのは、あちこちぶつけるからではなかったのだろうか。
「この箱の中に小さな人が入ってる!」
「それはテレビじゃ。小さな人が入っているんじゃなくて、地上や天界の番組が映っておるんじゃ」
「この台、この管みたいなところから水が無限に出てくる!」
「それは水道じゃ。もったいないからあまり水を出すでない」
「このオレンジ色の実はなあに?」
「それはミカンじゃな。甘酸っぱくておいしいぞ」
「この机の中あったか~い!」
「それはこたつじゃ。とりあえずそこに入って話すとしようかの。ほれ。ミューハルトも入ってよいぞ」
「あっ、はい」
ココの流れるようなテンプレ反応に、ヨミ様は満足したようだった。
僕としても、ココが僕の前世の世界に来たら同じ反応なんだろうと思って、少しほっこりした気分だった。
僕たち3人、いや2人と1柱はいそいそとコタツに入る。
このあったかさ。久々の感覚に少し感動してしまった。
「そんなに感動したか。愛いやつめ。さあ飲み物もあるぞ」
「ミュー! この黒い飲み物、すっごいしゅわしゅわするよ!」
「コーラはみかんと合わないよ……」
僕とヨミ様は無言で、ココは一口ごとにきゃいきゃい騒ぎながら、しばらくミカンとコーラを満喫した。
そして一息。
「さて、落ち着いたのはよいが、何から話そうかのう。というか、こたつに入ったらもうどうでもよくなってきたのう。契約もできたし、今日のところはもうここら辺で帰るか?」
そんなことを緩み切った表情で言いだすヨミ様。
いや。そんな投げやりっぽく言われても困る。こっちは何も分かっていないのに。
とりあえず、この機会に思いついたことを片っ端から聞かないと。
「そう言えばヨミ様って夢神様だったんですか? でも、夢神様の名前ってたしか授業で聞いた時は、コミチ・カガリ……」
「そいつの名前を口にするでない」
緩み切った表情が一転、ギロリと音がしそうなくらいの剣呑な眼で見られてしまった。
父さまから色々な神様の名前を教えてもらったが、今思い返すと、ヨミ様の名前はなかった気がする。
さらに、神様が司るものは基本的に一柱一つと決まっていて、例外はなくはないが、同じ称号を持つ神は基本的にいなかったはずだ。
一体どういうことだろう?
しばらくこちらを睨みつけていたヨミ様だったが、ため息を一つ付くと。
「もうお主らは我が子も同然じゃったな。仕方ない。今後のこともあるし説明しておこうかの」
そう言うと、テレビの電源を落とし、背筋を伸ばして説明モードに入ったのだった。
ちなみにテレビはリモコンではなくダイヤル式で、それなのにカラーで画面が4Kレベルで鮮明なのがちぐはぐだ。
「お主らはこの部屋を見てどう思った。怒らんから素直に言ってみい」
「散らかってて、昭和っぽくて、一人暮らし感がすご――」
「そう。神の座というにはあまりにも狭いじゃろ?」
人の話を聞く気はないようだ。
「我も最初からこんな部屋にいたわけではない。一時は城に住んでたこともあった」
「それがなんで六畳間に?」
「神の力やその居場所は、そのまま信仰心に直結しておる。つまりこの部屋の大きさは、我がもはやほとんど信仰されていないことを表しておるんじゃ」
ヨミ様はそう言って自嘲気味に笑った。
「実を言うと、お主ら2人が信者になるまで電気も止まっててのう」
「あの真っ黒具合って電気付けられなかったせいなの!?」
「あと数百年も信仰がなかったら、水道もとめられるところじゃった」
「なにその世知辛すぎる神様生活……」
ライフラインの止められ方がリアルすぎて悲しくなる。
ココは意味がわかっていないのか、もはや聞いている様子もなく、こたつで溶けつつある。
そのまま寝ると喉がカラカラになって起きることになるよココ。
「城に住んでいたことがあるということは、昔は信者がたくさんいたの?」
「その様子だと歴史にも残っておらんのか。これでも数千年前は大陸一つが我が信者で、お主らの世界の最大宗派だったこともあったんじゃ。その頃は、我は夢神として名を馳せておったんじゃがの。願いごとをするなら誰もが我の名を唱えていたものじゃ」
「それがなんでまたこんな生活に」
「こんな言うな。これはこれで快適じゃ」
胸を張るココ様。
たしかに住み心地はいいかもしれないが、この生活をあまり誇らないでほしい。
こんな暮らしを見せつけられて、こちらは信仰心が揺らぎそうなのだから。
もし、明かりがついていて、この部屋を見ながら契約を迫られていたら、かなり厳しかったと思う。
「まあ。あまり愉快な話じゃないから簡単に言うぞ。教団内部での内輪揉めと、それを機に乗り込んできた他の宗派との戦争で壊滅したといったところじゃ。全く、本当に人間は愚かじゃな。――そして、それを収めきれなかった我も同じじゃ」
「ヨミ様……」
そう言いながら寂しげに言うヨミ様の顔は、たくさんの悲しみと諦観を噛みしめてきたものだ。
皺のない幼い容貌のはずだが、一瞬だけ人生に疲れ切った大人のような陰りが見えた気がした。
しかし、その陰りは一瞬で消えると、次には憤怒の表情に豹変して、コタツ机をバンバン叩きだした。
「そしてその戦後のどさくさで夢神の座をかっさらっていったのがコミチ・カガリ・リンリン・ハナフブキの脳みそアッパッパーなお花畑女神じゃ! あやつは安眠くらいしか取り柄がないくせによくも夢の神を名乗れたものじゃ!」
「えぅっ!? ごめんなさい! 寝てません!」
あーあ、ココが起きちゃった。
ともかく、大体のことはわかった。
このヨミ様は元夢神で、今は信者もなく、うらぶれる日々だった。
そして、そこで目を付けられたのが、自分の好みの音楽を奏でる僕らだったというわけだ。
魔道具のチアリュートでの演奏だったし、夢というテーマで作った曲だったからヨミ様好みだったに違いない。
「そういえば、獣人ってアルスミサできないんじゃなかったんですか?」
「ん? 誰が言ったんじゃそんなこと。歌に貴賤はない。獣人だろうがヒトだろうがエルフだろうが歌ったら我ら神には届くぞ。我の全盛期の信徒には、獣人もたくさんおったわ」
その言葉にココが驚いた様子で言う。
「で、でも、団長が獣人はアルスミサができないって」
「どうせ、ろくなエクストラがないヒトが不公平に思って、勝手に言いだしたことじゃろ」
「それじゃ私の悩みって一体……」
「まあ、神によって種族差別しとるやつがおるのは事実じゃ。その点、我の懐はかなり広いぞ。獣人だろうがなんだろうがオールオッケーじゃ」
たしかにその点は偉い。これで獣人だから駄目とか言いだしていたら、僕の方から三行半を突き付けているところだ。
僕がヨミ様の頭を「偉い偉い」と撫でてみると、「もっと褒めるがよい」と嬉しそうに胸を張った。
失礼なことをしたかなと思ったけど、全く気にしていないようだ。
見た目相応なのか、大人びているのかよく分からない子だ。少なくとも遥かに長く生きているのは事実なんだろうけど。
「信者がいなくなって数千年間ずっとマエストールがいなかったんですか?」
「うむ。我が教団が潰れてから長いこと我が宗派は邪教認定されてしまっての。その認定が風化した後も、なかなか我好みの歌を歌うものがおらんかったのじゃ。最近の人間は、どいつもこいつも自分の仕える神に捧げる歌ばかりで、一国一宗教を打ち立てようとする気概のあるやつがおらん。おかげでこうやって時間がかかってしもうた」
「僕も一宗教打ち立てようという気概があって新しい歌を生み出したわけではないんですけど……」
「謙遜せんでよい。こんなに楽しい気分なのは数千年ぶりじゃ! 退屈な天空神のジジイの見習いから、こんなにはっちゃけた歌が生まれるとは愉快極まりない! 音の方向的にはマイナスからのスタートと言ってもよいのにな!」
機嫌良さそうなヨミ様の言葉で、僕は一番の関心事をぶつける決意を固めた。
横をチラリと見ると、さっき起きていたココが、またすやすやと眠りにつき始めている。
隠さないといけないこともないだろうけど、なんとなく積極的に知られたいわけではないので丁度いいタイミングだろう。
「もう一個聞いてもいいですか?」
「なんじゃ?」
「僕を転生させたのはヨミ様ですか? それにこの部屋。僕の前世となんか関係あったりするんですか?」
「転生? それにこの部屋とは、どういうことじゃ?」
聞いておきたいことは、僕の前世に関わることだ。
なんとなく流してしまっていたが、転生するなんて超常の存在が関わっていると考えるのが妥当だろう。
それに昭和感あふれるこの六畳間のアパートの一室感あふれる神の座は、前世の日本にあまりにも近すぎる。
もし、連れてこられたのならそれでもいいが、使命とかあるなら先に言っておいてほしいと思ったのだ。
特に準備もしていないのに後になって魔王を倒せとか言われても困るしね。
よくわからないという表情をしているヨミ様に、僕は前世を含めた身の上話をすることにした。
ううっ。前世の僕の話は、話していて恥ずかしい。
だが、ヨミ様は神妙な顔をして茶化すこともなく、適度に相槌をうちつつ、僕の話を最後まで聞いてくれたので、なんとか最後まで話し終えることが出来た。
神様らしく傍若無人かと思いきや、聞き役としてはとても素直だった。
「ふーむ。お主も大変だったんじゃな。だが残念ながら、我はお主の転生には関わっておらん。そういったことは我にはできん。そもそも、お主らに目を付けたのは、お主が数日前に初めてチアリュートで、そのアニメソング?を弾いた時じゃしな」
「そうですか」
「この部屋のものも、他の神が作ったものを買ってきただけじゃ。比較的新しいものではあるがの。気になるなら調べてやろうか?」
「いえ、特に不満があるわけではないので、なんか特別な事情がないならいいです」
「特別な事情とな?」
「例えば魔王を倒せとか、未来を救うためにある道具を発明しろとか、世界の人口を適度に減らせとか」
「そんなもん必要ならその世界の民にやらせればよかろう。わざわざ他の世界から引っ張ってくるとか、そんな他力本願を一神のおやじが聞いとったら怒られるぞ。お主の発想は異世界の知識のせいか変わっとるの」
「そんなもんですか」
「そんなもんじゃ」
そう言いながら頷くヨミ様。
そうか。まあヨミ様が考えすぎというならそうなのだろう。
晴れてこの約15年間ぼんやりと考えていた不安がなくなってすっきりした。
僕は自由に思うがままに、第二の人生を楽しんでいいということなのだから。
「晴れ晴れとした表情になったところで、とっととアパスルライツを決めて解散としようかの」
「アパスルライツ……。神様との契約のことですよね? さっきの歌に契約してくれるんですか?」
「そうじゃ。なんといっても我を呼んだ歌じゃからな。未完成みたいじゃがそれはおいおいでいいわ」
アパスルライツという名の契約を結んだら、さっきの歌をアルスミサとして歌った時に魔法みたいなことが起こるということだったはず。
そうか。僕もついに魔法みたいなことができるんだ。
しかも僕が考えた歌で!
僕がわくわくしていると、ヨミ様はごろんと寝っ転がって、ベッドの下に手を延ばす。
しばらくごそごそとまさぐっていたが、「あったあった」と言いながら引き抜いた手に握られていたのは一枚の紙とペン。
紙は色々な文様が描かれた羊皮紙のような材質。
ペンは先端に親指の先ほどの宝石がはめ込まれた美しい逸品だ。
重要そうなものだけど、なんでベッドの下から出てきたとか、やっぱりこたつから手が届く範囲内にあるのかよ、とは言わないでおく。
「これが契約書じゃな。さてさっきの歌にどんな効果が欲しい? 久々のアパスルライツじゃから、希望はできる限り聞くぞ」
一方的に決められると思っていたけど希望を聞いてもらえるのか。
そういわれると困るな。
そもそもアパスルライツが自分で選べるなんて思ってもいなかったし。
攻撃系とか?
でも、今のところ使う必要性を感じていないし。
回復魔法は?
便利そうだけど、今のところ健康だし。
地味なお願いとして、身長を伸ばしたいというのはあるけど、アパスルライツで叶えることかと言われると微妙。
かと言ってあんまり変なことも憚られるし。
こうなってみると、案外魔法でしたいことって思いつかないな。
魔法自体は使ってみたいけど、使い方を間違ったら大怪我するのは怖いし。
「うーん。悩むなあ。ところでヨミ様は何ができるんですか?」
「色々できるぞ。我の力は結構幅広いんじゃ。だから夢神なんて広い概念の神がやれとったわけじゃし」
「そう言われるともっと悩みますよ。ねぇ、ココ起きて。何かやりたいことない?」
僕がココを揺すると、ココは目をこすりながら起き上る。
僕の説明をぼんやりと聞いていたが、またこたつにぼすんと潜り込みながら一言。
「ミューと一緒に演奏した時みたいにキラキラしたいー……。むにゃむにゃ」
「と言ってますけど」
「キラキラ……のう」
ココの抽象的な要望に手を顎に当てて考え込むヨミ様。
ココの言うキラキラってチアリュートの光のことかな。たしかに、きれいではあったけどね。
しばらくうんうんと唸っていたヨミ様は、顔を上げて。
「まあよいか」
その一言を言うと、契約書にサラサラと書き込み始めた。
「なにがいいんですか? なんか不安なんですけど」
「まあ文字通りキラキラさせるだけじゃ。とびきり派手にいこう。手足から精霊光をまき散らして、金粉を降らせまくって。あとレーザービームとスモークは必須じゃな」
「ヨミ様が登場した時もその演出でしたよね」
「あれはよいものだ。あと、演奏中にかわいいお主らに手を延ばす輩がおっても困るし、バイーンと跳ね返す小規模な結界も付けてやろうかの。おさわり禁止じゃ」
僕は男だけど、男に手を伸ばされるのも嫌だし、まあいいだろう。
今はココもいるしね。
ヨミ様はそこまで書いたところところで、ペンの先端で頭をかりかりと掻く。
「うーん。効果がかなり重くなってしもうた。空を飛んだり虹をかけたりしたかったが、これ以上はきついのう。というか、この時点でかなりのアルスミサがないと発動もせんぞ」
「アパスルライツの効果ってコスト的なのがあるんですか?」
「もちろん。神は強大だが限りはある。神自身の力に、信仰されて集まる力に、アルスミサでの力。それらを勘案してアパスルライツは効果を決めんといかんのじゃ。我は神の中でも特上じゃが、いかんせん長年信仰されておらんから貯金がほぼ空じゃ。これ以上効果の方を重くすると数年先まで使用できなくなるの」
なるほど。
神の力×信仰量×アルスミサがアパスルライツでできることの総量という感じか。
色々係数がありそうだからそのままという比例するわけではないんだろうけど。
天空神や農業神は、信仰の総量という点では段違いに多いんだろうね。
その一方で、父さまみたいな、普通のプレイヤーのアルスミサでは力が限定されてしまうので、アパスルライツの効果量が小さいというわけだ。
ヨミ様は契約書を書き終えると、自分の親指の先端を噛んだ。
そして、赤い血が指先にぷくりと膨らむと、それを契約書の末尾にぺたりと押す。
その途端、契約書が燃え上がり、金色の炎から舞い散る火の子は、真っ直ぐに僕の額へ吸い込まれるように消えて行った。
きっと、マエストールを示す印に吸い込まれていったのだろう。
「ひとまずはこれでお仕舞じゃな。それじゃあそろそろ帰すとしようかの」
「わかりました。……ほらココ。帰るよ」
「えぅ~。もうちょっとだけ――」
「これ以上いると帰れなくなるよ! こたつの魔力は人をだめにするんだから!」
ぐずるココを無理やりこたつから引っ張り出して、なんとか立ち上がらせる。
これを続けていると、目の前の神様みたいに堕落した生活に陥るに違いない。
恐るべしこたつ。
「なんか失礼なことを考えとらんか?」
「いえ全然。それじゃあお邪魔しました」
「しました~」
「うむうむ。それじゃこれからよろしく頼むぞ」
ヨミ様が手を差し出す。
僕とココは顔を見合わせると、その小さな手を二人で握る。
ヨミ様は僕らを見てニッと笑うと高らかに宣言した。
「ミューハルトは手始めにココをアイドルデビューさせて教団を立ちあげよ」
「はい!」
「ココはよくミューハルトを支え、アイドルとして精いっぱい歌え! そしていつか故郷に錦を飾るがよい」
「うん!」
「そして我は、手始めに脳みそアッパッパーなお花畑女神の教団を潰して夢神の座を奪い返す。それでいずれは世界を席巻するのじゃ!」
「「えっ!?」」
なんか聞き捨てならないセリフを放つヨミ様に、僕とココは驚きの声を上げた。
しかし、そのセリフについて言及するよりも早く、ここに来た時と同じように僕らの視界は急速に狭まっていったのだった。
もしかしたらまた早まったのかも……。
僕は薄れゆく意識の中で、そんなことをぼんやりと考えるのだった。