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第十五話 友達との別れ再び

「牛が鳴き俺達は歌う いつまでも続く草原は神様の贈り物

 仔馬が駆け俺たちも駆け出す 蒼穹の大地を楽しもう♪」


 伸びあがるようなおじさんたちのバリトンボイスが朗々と空と大地に吸い込まれていく。

 かき鳴らすギターとバンジョー。吹き鳴らされるハーモニカ。

 正式な名前はわからないが、そんな感じの見た目の楽器が軽快な音楽を奏でている。

 歓迎の場でも聴いた音楽と思っていたが、今は奏者全員が素面(しらふ)かつフルメンバーでやっているせいか、音の厚みが段違いだ。


 今は農業神に仕える楽団がアルスミサの演奏中である。

 昨日あれだけドンチャン騒ぎをしていたにも関わらず、いざアルスミサが開始されるとこうしてきちんと演奏できるのだから立派なものだ。

 村の男衆の中には、頭に響くとか罰当たりなことを言って、自宅のベッドの潜り込む者もいるというのに。

 その点で言えば、村長なんかは若干青い顔をしつつも楽団のステージの真正面で音楽を受け止めているのだからまだましとも言える。

 ちなみに父さまは、夜中に母さまに荷車に乗せて運ばれるぐらいグロッキーだったのにも関わらず、今は涼しい顔をしている。

 内心がどうなっているかわからないけど、きちんと仕事をしている時の父さまは素敵だと思うよ。


 僕はというと、昨日の宴会場の片付けも一段落ついて、こうして楽団の音楽を集会所の中から覗き見ているような状態だ。

 アルスミサは村の中心部である集会所の前の野外の広場で行われている。

 もう昼の時間帯ではあるが、朝方から燃え続けているキャンプファイヤーのような大きな炎を中心に、楽団は半円状に広がって、時々休みを挟みつつもずっと音楽を奏で続けている。

 僕も教会で楽器を弾いていたから分かるけど、すごい集中力と体力だなと思う。


「いい音色だねえ」


 そう言いながら箒を持って近づいてきたのはボーイのお母さん。


「昨日あんなに馬鹿騒ぎした連中が奏でている音楽とは思えないね。その上、これが農業神様のアルスミサっていうんだからもっと驚きさね」

「あははは……」


 まさしく神をも恐れぬおばちゃんの物言いに、僕は曖昧に頷きながら楽団の方向に向き直った。


「それにしても、楽団の周りからキラキラとした光が飛び出して行って綺麗だなー。これが農業神様の御力ってやつなのかな?」


 僕は空を見上げながらそうつぶやく。

 目を凝らして見ると、演奏を行っている楽団からは、薄く揺らめく綺麗な光が空へと飛び出し、そして、空へと間欠泉のように吹き上がった光は放射状に広がり、粉雪のようにゆっくりはらはらと村中に舞い散っていることがわかる。

 僕が舞い散る光の粒の一つに手を伸ばしてみるが、光は僕の手のひらを通り抜けて地面へと吸い込まれていった。

 きっと村中の大地へ降り注いでいるのだろう。効果は来年のお楽しみといったところか。

 まるで雪のような降り方だが、不思議とその光景は温かみを感じるものであった。


「お。ココだ」


 僕が何気なく楽団の演奏風景を眺めていると、舞台の端から大量の薪を運んでは舞台中央の炎にくべるフードを被った姿がひとつ。

 それは昨日友達になったばかりのココだった。

 朝から燃え続けている炎であったが、ああやってココがせっせと薪を運んでいたのだろう。

 演奏の邪魔にならないようにあまり大きくない体をさらに縮こまらせる姿は、その古ぼけたフードも相まって黒子のようだった。

 獣人はアルスミサも使えないと言われているようだけどココは歌が好きみたいなんだよね。

 あんなに昨日僕の歌を楽しそうに聞いていたのに、あんな雑用しかやらせてもらえていない様子には少し不憫に感じてしまう。

 そう思いながら見ていると、舞台脇に戻ろうとするココと偶然目が合った。

 折角だから僕は仕事の邪魔にならない程度に手をひらひらと振っておくことにした。

 すると、ココは一瞬体をぴたりと止めたかと思うと、ものすごいスピードで舞台脇に突っ込んでいってしまった。

 あれ? 僕なんかしたかな?

 あんなに逃げられるようにされるとちょっとショックかも。

 でも、仕事の邪魔だったら悪いことしたのかな。

 そんなことを思って自分を納得させようとしていると、次の瞬間、集会所の扉が勢いよく開け放たれた。


「手を振ってもらったけど、すぐにお返しできなくてごめんね! でもでも、別に手を振りたくなかったとかそういうのじゃなかったの! 本当はその場で手を振り返して、友達らしく挨拶したかったんだけど。だからこうやって謝りたくて。あっ、こんにちは! ミュー」

「こんにちは。あと、落ち着つこう? ココ」

「え、えぅ。わかった、ミュー。……ミュー。えへへ」


 そう。そこにいたのは先ほどまで舞台脇にいたはずのココ。

 舞台と集会所はすぐ近くにあるとはいえ、驚くほどのスピードである。まるで瞬間移動だ。

 扉を開け放つなり一瞬で僕の元まで距離を詰める姿は、文字通り、獲物を見つけた肉食獣のような迫力だった。


「この子は……楽団の子かい?」


 ボーイのお母さんがびっくりしたように言う。

 僕は目線だけでコクコクとうなずいておくことにした。

 突如として現れたフード姿の怪しい人物に、一緒に掃除していた大人たちは何事かとこちらを注視していて、ちょっと居づらい。

 僕はボーイのお母さんに「ちょっと休憩します」とだけ言って、なんか嬉しそうに身をくねらせているココの手をひいて集会所の裏手に移動することにしたのだった。


「一体どうしたの? なんかちょっと様子が変というか」


 仕事を投げ出して猛スピードで来るぐらいだから何かあったのかと思って質問してみた。

 しかし、ココはキョトンとした表情をした後、困ったように返事をする。


「変? ごめんね。私友達いなくて。友達にどんな態度をとったらいいのかわからなくて」


 なるほど。

 つまりは前世で友達ができたばかりの状態の僕と同じということか。

 これが美少女だから驚くぐらいで済むけど、根暗なクラスメートだった僕を重ねるとなかなか怖いなこれ。

 でもまあ、そう思えば僕としては親近感も湧くというもの。


「そうなんだ。あんまり深く考えなくていいよ。普通にやってくれればいいって、普通で」

「普通っていうと、やっぱりミューハルト様って呼ばないといけない?」

「ココの普通ってそういう感じなの?」


 なんか涙が出そう。

 あの突撃っぷりと、距離感がおかしいコミュニケーションは、普段のココの置かれている状況も相まってということか。

 僕以上に偏った人間関係をしていそうだね。

 昨日の会話から考えるかぎり、あくまで雑用であり、奴隷というわけではないみたいだけど。

 ともあれ、こうやって友達になったからには、できるだけ仲良くしたいと思った。


「お互いにお仕事中だから、いつまでもお話はしてられないよね。そうだ。村にいる間は夜になったら昨日の礼拝室で一緒に遊ぼうよ」

「遊ぶ? ……うん! これが友達との約束なんだね。 1つ夢が叶ったよ!」

「うんうん。よかったね」


 ココはぴょんぴょんと飛び跳ねながら全身で喜びを表現した。

 この子の喜ぶ姿はとても無邪気で、こっちまで嬉しくなる。

 すると、遠くの方で楽団の人がココを呼ぶ声が聞こえる。

 ココはそちらの方を見ると慌てて。


「私そろそろ行かないと」

「うん。じゃあまた今夜」

「うん、うん。また今夜だね!」


 そう言いながら、来た時と同じように、ココはまた駆け出して行ったのだった。

 ココがいつまでも手をぶんぶんと振りながら後ろ向きで会場へと向かっていく姿に、僕は手を振り返し続ける。

 ココのささやかな夢がいくつあるのかわからないけど、この村にいる間にできるだけ叶えてあげたいもんだ。

 僕が集会所に戻ると、出迎えたのは妙に嬉しそうなボーイのお母さん。


「あらミューちゃん。さっきの子帰ったの?」

「うん。お仕事あるから帰ってもらったよ。でも、後で遊ぶことにしたから」

「あらー。さっきの子は女の子? ミューちゃんも隅に置けないわねえ」

「違うよおばちゃん! そんなんじゃないって」

「ミューちゃんがハナちゃん以外の子と仲良くできておばさんも嬉しいわあ」


 田舎のおばちゃん特有のおせっかいな感じを漂わせつつ、ボーイのお母さんはいそいそと他の村の女性の輪に入っていく。

 あれはすぐに村中に広げる気に違いない。

 頭を押さえたくなるけど、これは下手に否定しても、みんなのおもちゃにされるのは重々わかっている。

 ここは放置が正解だと思ってぐっと耐えることにした。


 それにしても、言われてみれば僕はハル以外の同世代の女の子とあまり交流がなかったんだな。

 久しぶりの女の子との交流だったにしては緊張せずに話せてたよね、僕。自分以上にココが緊張していたせいかな。

 僕はココの笑顔を思い浮かべ、楽しい気分で残りの作業に戻るのだった。


 それからわずか数日のことであったが、僕とココは毎晩礼拝室で遊ぶ日々が続いた。

 ココは無邪気に僕の賛美歌を演奏するとうっとりと聞き惚れ、素直に称賛の言葉を言ってくれた。

 僕はまだアルスミサが使えないので何の効果もないただの演奏だったけれど、音楽を聴いている時の僕らは魔法にかかったみたいにとても楽しい気分だった。


 そして、演奏の合間には色々なおしゃべりもした。

 僕は産まれてからずっとこの村にいるので、そんなに話の幅もないかと思っていたが、ココは僕とハル達の遊びの話をすごく楽しそうに聞いてくれて、僕まで楽しい気分になったものだ。

 逆に色々なところを旅しているココは話題も豊富なのかと思ったが、本人の口から語られる出来事はあまり多いものとは言えなかった。

 話の端々から察するに、ココはあまり人に見つからないように、移動した先でもあまり行動せず、ただアルスミサの雑用をしていただけなのだろう。

 ココが悲しそうな顔で、「あまりお話しできなくてごめんね」というのも何度も慰めることになったものだ。

 それでも、楽団が演奏するアルスミサについては、たどたどしくもどこがよかったという説明を聞くと、ココは本当に歌が好きなんだなということがわかる。


 日中はアルスミサのお手伝い。

 夜はココとの遊ぶ時間。

 充実した日々ってやつだ。


 しかし、そんな楽しい日々もあっという間に最後の日を迎えてしまった。

 礼拝堂の外からは、農業神の楽団のアルスミサ終了を祝う宴会の楽しげな声がかすかに漏れ聞こえてくる。

 村長も父さまも、農業神の楽団のアルスミサが無事に完了したことについて、しっかり確認しており、間違いなく明日には楽団の人達は村を出ることになる。

 それは、当然ながらココとの別れを意味する。


 僕とココは誰もいない礼拝堂でポツリポツリと言葉を発していた。

 内容はいつもの他愛もないこと。

 ただ、ココの声は明らかに暗く沈んでおり、それに引っ張られるようにして僕の声も暗くなってしまっている。

 あーもう! この空気耐えられない!

 僕は勢いよく立ち上がって言った。


「ダメだよ! こんなんじゃ!」

「えぅ!? どうしたのミュー?」

「明日でお別れなのにこんな沈んだ感じでいいのって話だよ!」

「お別れ……ぐすっ」


 その言葉に涙ぐむココ。

 女の子の涙に慣れていない僕は慌ててココを慰める。


「泣かないでよココ。寂しい気持ちはわかるけど、こんな別れ方はダメだよ! もっと笑顔で最後まで楽しくしなきゃ」

「楽しく?」

「そう。ほら、何か僕に弾いてほしい曲とかない?」


 僕の提案にココは「えーっと、えーっと」と首をひねる。

 やっぱりココには笑顔でいてほしい。

 僕は涙を引っ込めて真剣に考えるココの姿を見つめる。

 次に会うのは十数年後か、もしかしたらもう会うことはないのかもしれない。

 この世界では当然ながら電話というものはなく、離れていたらそれっきりだ。

 手紙はあるけど、それだって旅暮らしの楽団のココに届けられる保証はない。

 この瞬間がココとの最後の想い出になるかもしれない。

 だとしたら、僕に関わったばかりに悲しい顔で別れるなんて我慢できないと思ったのだ。

 そんな僕の想いとは他所に、ココが元気よく言った。


「じゃあ。一番最初に弾いたような、あのキラキラした曲みたいなのがいい!」

「キラキラした曲? ああ……」


 ココが言っているのは、僕が初日に弾いたアニメソングのことだろう。


「あんな曲は初めて聞いたけど、ミューが作ったの?」

「そういうわけじゃないんだけど」


 ココのためならやれることはやってやりたい。

 だが僕はちょっとここで躊躇してしまう。

 実は、僕には異世界で生きていくにあたって少し思うところがあったのだ。

 それは元の世界の作品についてだ。


 それは昔、僕がチアリュートを習い始めたばかりの頃、試しに有名な童謡の「赤とんぼ」を弾いたことがあったのだ。

 その時はまだ幼い僕がいきなり知らない曲を演奏したので、父さまも母さまも驚き、そして「この子は天才だ!」と大騒ぎしたのだった。

 でも考えてみてほしい。

 元の世界で特に音楽についての勉強をしたことはなかったが、それでも僕の頭の中には前世の記憶として、数多くの名曲が入っている。

 両親の反応からすれば、もしかしたら僕は天才の名を欲しいままにし、この世界で成功をおさめることができるかもしれない。

 でも、それを僕の実力として世間に言ってもいいのだろうか。

 僕が出した答えはNoだった。

 前世の発明や料理を再現しようという行為も大差ないのだろうが、こと音楽に関しては、僕は異世界知識チートをすることを禁止することにしたのだ。

 僕みたいな凡人が次々と名曲を生み出すなんて、どこかで手痛いしっぺ返し来そうというのが一つ。

 そして、この世界では音楽は神様と深く関わるものなので、文字通り罰が当たりそうということが一つ。

 結局僕は、せっかく弾いた「赤とんぼ」も忘れたふりをして両親をごまかし、音楽に関しては実力どおりの平々凡々な生き方をしてきたわけだ。


 ココが来た日は、誰もいないと思ってつい弾いてしまったが、今改めて演奏するべきかどうか少し迷う。


「だめなの?」


 僕の迷いを見て、ココが悲しそうな顔をする。

 いけない。この顔を見たくないから僕は何か演奏するって言ったのに。

 どうしたものか。

 ココは誰にも話さないとは思うし、この場は例外ということで演奏するか。それとも――。


「そうだ!」

「どうしたの?」

「昔、自分で考えた曲があったんだ! これなら問題ないね」

「よ、よくわからないけど、やっぱりミューは作曲できるんだね。やっぱりミューってすごいよ」

「まあどこかで聞いたような感じもあるけどオリジナルはオリジナルだし。そうだ。ココも歌わない?」

「えぅ!? 私獣人だからアルスミサできないし……」

「アルスミサは関係ないよ。歌好きなんでしょ?」

「好きだけど……」

「じゃあ歌おうよ。歌は神様だけのものじゃなくて、歌いたい時に歌っていいと思うよ。それにココはかわいい声をしているから、僕の考えた曲にぴったりだよ!」


 そう言いながら、僕は礼拝室の用具入れに隠していた書きかけの楽譜を取り出した。

 まだ曲も完成していないし、歌詞も付けていなかったけど、まあ、あとはフィーリングでいいや。


「いくよ。リズムに合わせて声を出せばいいから」

「わ、わかった」


 軽くサビの部分を演奏して、「ね?」って問いかけてみると、ココは頷き、僕がチアリュートの鍵盤をたたく様子をじっと見つめてくる。

 よく考えてみると、この世界の人って歌を神聖視しているのか、あまり気楽に歌うということがない気がする。

 農作業の時に歌う鼻歌も賛美歌だし。

 ココはしばらく口の中でぶつぶつ言っていたが、笑顔をパアっと咲かせる。


「うん。ありがとうミュー。私初めてだけど一生懸命歌うね」

「じゃあいくよココ」


 僕はチアリュートを本格的に演奏する。

 礼拝堂の壁に幾条もの光が煌めき、空中に七色に光る鍵盤が浮かび上がる。

 いつ見てもこの光景はきれいだと思う。

 僕は鍵盤をたたきながら、ココに目配せを一つ。


「ラララー♪」「らー♪」


 僕の声に少し遅れてココが声をあげる。

 思ったとおり可愛い声だ。

 最初は少しずれてたタイミングも、徐々にハモるように合わさる。

 歌うのは初めてと言っていたのに、上手じゃないか。


「「ラララー♪」」


 ココは特に指示したわけではないのに、歌いながらもくるりと一回転するとポーズをビシリ。

 これは完全にはのめり込んでいるね。

 音はところどころ外れるところもあるけど、しっかりと気持ちが乗っているのが分かる。


「ラララーラララララ♪」


 この曲を作っていたのはチアリュートがちょっとうまくなってきたばかりの頃だったなあ。

 あの頃はまだ今よりも、転生したぞ、チート人生の始まりだ、と無邪気に思い込んでいて、喜々として人生設計を立てていたものだ。

 だけど今や、前世よりもずっとノビノビと生活できているけど、ままならないことも多いし、それでもなんとなく生きていけるんだろうなという、諦めのような、焦燥感のような気持ちが僕を支配している。

 でもこの曲は、そんな今の僕には眩しいくらいに夢とか楽しい気持ちがそのまま出ている曲調だ。

 今改めて演奏すると粗削りな部分もあって、他の人に聞かせるもの少し恥ずかしいんだけど……。

 でも、誰かに聞かせることができてよかったと素直に思うことにしよう。

 ココなんかいつの間にか、踊ってるし。

 踊りの方は獣人ゆえか、力強さとしっかりした軸があり、基本的にはくるくる回りながらステップを踏んでいるだけなのだが華やかさがある。

 この子は意外と才能があるのではないだろうか。

 アパスルライツが使えないからって雑用だけさせるのは勿体ない。


 と、ココが歌うのをやめた。

 この先はまだ考えてなかったので、僕の演奏が止まっていたのだ。

 ココの上気した顔を見つめた。

 歌いながら踊ったせいかココの褐色の肌が薄ら赤らんでいるのが分かる。

 その表情はどこか寂しそうだったけど、でも、笑顔だった。


「ありがとう。ミュー」


 その言葉が僕に染み渡る。

 そうか。僕がやりたかったことって――。

 しかし、僕の思考はここで中断する。

 それはある現象とともに始まった。


『その歌、見事也。大義であった。近う寄れ!』


 どこからともなく幼い声が唐突に響き渡ったかと思うと、吸い込まれるような感覚と供に視界が暗転したのだった。

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