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第十三話 楽団のおしゃべり

 僕が小走りで村の中央に到着すると、既に父さまと村長が農業神の楽団のみなさんの宿を振り分けているところだった。


「来たか、ミュー。こちらのみなさんは教会の方に泊まってもらうから、部屋まで案内してくれ」

「わかりました。父さ……じゃなくて、神父様」


 村の中ではみんなの前でも父さまは父さまと呼んでいたけど、村の外の人の前でもそういうわけにはいかないだろう。

 特にそう呼ぶように言われたわけでもないけどね。

 現に父さまは僕が神父様なんて呼んだものだから、なんかちょっと寂しいような複雑な表情をしている。

 目の前にいる楽団の女性が、突然潤んだ父さまの瞳にあたふたしているので、止めてあげてほしいところだ。

 イケメンの涙は無駄に破壊力が高い。


 僕は、最初に父さまと談笑していた髭モジャのおじさんを含めた数人を教会まで案内するために歩き出した。

 楽団の皆さんは全部で3グループに分けられており、教会はそのうちの1つを泊めることになっている。

 僕の住むクーガ村は、人口が特別大きいわけでもないただの農村だ。

 よって、宿屋といった宿泊専用の施設があるわけではない。

 もし村に来客があった場合は、教会か、村長の家か、集会所のどれかに迎えるということが大半である。

 冒険者とか身元が怪しい人の場合には、馬小屋へ案内ということもあるのだが、わざわざ招いた楽団の皆さんを冬の寒い時期に放り込むわけにもいかない。

 よって、上記の3つに分けて案内するというわけだ。


「お嬢ちゃんえらいねえ。小さいのにお父さんのお手伝いかい?」

「……はい、そうです」


 そう話しかけてくるのは、最初に父さまと言葉を交わしていた髭モジャおじさん。

 話の端々から察するに、この楽団の団長を務めているようだ。

 確かに、髭モジャででっぷりとした体格は、父さまとはまた違った風格がある気がする。

 そしてその後ろには楽団メンバーの5人が続く。

 しかし、見事に僕の性別及び年齢を勘違いされている。

 そんなにわかりにくいかね、僕の見た目?

 普通ならすぐに訂正するところだけど、もしこのおじさんが偉い人だったら指摘しずらいなあ。

 父さまは親しげに話していたけど、他の神様に仕える人たちってどれくらい偉いんだろう?

 前世の口答えしたらすぐにグーパンチが飛んできていた職場の記憶が蘇って体をブルリと震わせた。

 さすがにこのおじさんから罵声や暴力が飛んでくることはないだろうけど、今でも自分の意見を言うのは一歩引いてしまうな。

 よって、僕はまずは軽い世間話で相手の状況を探ることにした。


「みなさんはどれくらい村にいるんですか?」


 僕の言葉に髭モジャおじさんはごく普通に返事をしてくれた。


「そうだな。今日はもう荷物を運びこむだけで、明日からアルスミサを開始するけど、この村の広さなら数日程度はかかるかな」


 こんな子供の質問に気負った様子もなく答えてくれるところを見るに、少なくとも悪い人ではなさそうかな。

 それにしても、アルスミサなんて両親がやっている結界くらいしか知らないけど、そこそこの広さのクーガ村の農地全域を癒すのに数日っていうのはすごいね。


「数日程度で済むんですか?」

「まあ、今回の依頼はこの村の中の地力の回復だからそれくらいで済むよ。これがもっと広範囲だったり、枯れた土地の回復だったりするともっと時間がかかるがね。ここくらい早めに声をかけてくれるとこちらも楽なもんだよ」

「そんな枯れた土地とかでも回復できるんですか? すごいですね」

「いやーそれほどでもないよ! でも、魔物や魔族に荒らされたり、魔力汚染のあった土地は難しいな。あれは農業神に仕える中でも、上位の人じゃないと対応できないな」


 僕の素直な気持ち半分、おだて半分の言葉に調子よく答えるおじさん。

 その口ぶりからするに、この団長さんはアルスミサはできてもそこまで上位の階級にあたるマエストールやコンマスじゃないのかな?

 ということは、うちの父さまと同じくらいの立場か。

 あの父さまと同じ。そう思うと大したことがない気がするぞ。

 ……よし。早めに訂正しとこ。

 僕はこちらに機嫌よく自慢話を続けようとするおじさんにできるだけ自然な感じでさらりと話す。


「ちなみに僕は男なのでお嬢ちゃんじゃないですよ。あともうすぐ十五歳になります」

「えっ!?」


 そういって固まる団長。後ろを歩いていた団員の皆さんも大なり小なり一様に驚いた顔をしている。

 そんなに驚くことか。失礼な。


「レミアヒムは成人間近の息子にあの溺愛っぷりなのかよ……」


 そうぼそりと呟く団長の言葉に、その事実を改めて考えさせられてしまう。

 うん。確かにやばい。

 それについては返す言葉もございません。


 それはともかく、さっきの話の中で気になる話がもう一つある。

 魔物は聞いたことがあるけど魔族ってなんだろう?

 魔物はたしか不思議パワーのエクストラを使える動物だったよね。

 見たことはないけど、ドラゴンが火を噴いたりするのもエクストラの力だとか。

 その疑問を口にすると、団長は気を取り直したように質問に答えてくれた。


「嬢ちゃ……じゃなくて。坊やは魔族を知らないのかい? まあ、この辺じゃそう見ないだろうからな。俺たちみたいな姿をしていて、知能もあるけど、アルスミサ以外のエクストラも使えるってやつらだよ。羽や角が生えていたりするんだぜ。そうそう、うちの楽団にも荷物持ちをしている、子供の魔族が一匹いるけど、危ないから一人で近寄っちゃだめだぜ」


 エクストラ+動物=魔物

 エクストラ+人間=魔族

 ってことか。

 ちなみに、まぎらわしい表現になるけど、人間という言葉には、エルフやホビットといった種族が含まれていて、前世の僕や村の皆みたいな種族を限定するときは「ヒト」と区分けしている。

 ともあれ、羽やら角が生えているが生えているという言葉に、僕の中の魔族の姿はデーモンとか呼ばれそうなラスボスっぽい見た目の人型になっていった。

 うん、これは強そうだ。

 しかし人間にとってはアルスミサがエクストラみたいなものだって聞いていたけど、ある意味魔族にならないのかな。それともアルスミサは除外?

 そこら辺の区分なんて考えた人間基準だろうから、わざわざ自分たちを魔族なんて自称しないような分け方なのだろうけど。


 荷物持ちの子供が魔族ねえ。

 もしかして、僕がさっき村の入り口で見た、重い荷物を抱えていた子供だろうか。

 魔族といえども子供なんだから小さいのは仕方ないにしても、そんなに危険には見えなかったけどな。

 フードかぶってたから姿はよくわからなかったけどさ。

 僕がそんなことを考えていると、後ろを歩いていた楽団の中の美人なお姉さんが、団長に向かって諌めるように言う。


「団長、今は魔族って差別用語だからあんまり言っちゃだめですわ。うちにいるのも魔族ではなくてなんとか系っていうジュウジン?だったじゃないかしら?」

「あいつらは遥か昔はヒト族を支配して、邪神を信仰し、国を作ってたらしいから、今くらいの扱いで丁度いいんだよ。調子にのると何するかわかんねえ」

「本気を出されたらヒトよりも強いのは確かだけどねえ……」


 団長は、そうだろと言って鼻を鳴らす。


「あいつらは野生だと人を食うこともあるって話さ。同じ言葉を話していても、気を許すと坊やみたいな小さくて柔らかそうな子供は食べられちゃうぞ!!」

「はあ。それは、気をつけます」


 大きく手を上げて、驚かすように声を上げた団長は、僕の反応がいまいちだったのか、少し恥ずかしそうに取り繕う。

 前世の感覚を引っ張っているせいか、こういう差別的な話は好きになれない。

 どちらかというと前世では僕もマイノリティーな側だったわけだし。

 そこまでこの団長も悪い人には見えないけど、こういう遠慮なく悪口を言う人は苦手意識を持っちゃうな。

 少なくとも、直接話してみるまでは判断は保留しておきたいところ。

 もっとも僕にしても、本当にその魔族、じゃなくてジュウジンとかに頭でもかじられたら、愛と平等を唱えられはしないだろうけど。

 そうこうしているうちに教会に到着。

 僕は気を取り直して皆さんを恙なく教会に案内していく。


「到着しました。こちらにどうぞ」

「おお、すまないね」


 一生懸命掃除をした客間に楽団の皆さんを案内すると、楽団のみなさんはほっとしたように荷物を置くと、めいめいにくつろぎ始める。

 旅暮らしに慣れていると言っても、やっぱり落ち着ける場所というのは違うのか。

 僕は楽団の皆さん全員を案内し終わったところですぐに教会を出た。

 アルスミサの準備は明日からやるということだったが、今晩はみなさんを迎えての宴会が予定されているので、そちらの準備もあるのだ。

 まだまだ忙しいのはこれからだ!


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