教会勢力2
ゴールは、数分も歩いてすぐに現れた。
通路の向こうに見える、出口らしきところから差し込む光。
俺は女騎士と勇者に続いて、その光の下へと向かって行き――。
――抜けた先にあったのは、地下に造られた、一つの巨大な聖堂だった。
美麗な柱が幾本も天井へと延び、そして天井には、一面に広がる何か神話を描いているらしい絵画。そこから、大きく華美なシャンデリアがいくつかぶら下がって明かりを灯している。
幾何学模様が描かれた床には聖堂らしく木製の長椅子がいくつも置かれ、それらが向いている先にあるのは、壁に嵌め込まれたストーリー性のあるステンドグラス。
地下であるはずなのに光を透過して淡く輝いている様子を見るに、裏には何か魔道具でも仕込まれているのかもしれない。
また、ステンドグラスの下には、椅子の並べられている方向を睥睨する、女神らしい精巧な彫刻と、その女神を守護するかのように兵士のような天使像が幾つか置かれ、見ているだけでも思わず佇まいを直してしまいそうになる。
「へぇ……」
思わず、感嘆の声が漏れる。
俺達がいるところは二階のようで、ここから更に下へ降りる階段があり、また今通って来た道以外にもいくつか通路があるようで、見ると同じような形状の通路が反対側にも数本見受けられる。
下の長椅子には、すでに待機している武装集団が腰掛けており、彼らの装着している鎧の意匠を見るにネルやカロッタと同じ聖騎士達が多いようだが、しかしそれ以外に所属する者達も半数程はいるようだ。
恐らく彼らが、教会には属さないが反王子派に属する陣営の者達なのだろう。
「すごいよね、ここ。僕も初めて来た時ビックリしちゃった」
「あぁ……」
ここには確かに、無神論者である俺にも感じてしまう、何とも言えない神聖な雰囲気が漂っている。邪な者は絶対に通さないといった、そんな空気が。
まあ、魔王である俺は入っちゃってるんだけど。
「ここは、我々が秘密裏に会合を行う際にいつも使用している場だ。教会は元々目を付けられているのでな。今回も表の建物は逐一見張られているから、こういう所がどうしても必要になる」
「そんな場所、俺に見せても良かったのか?」
「我々に害意を持っていないのは確かなようだし、それにネルの連れている者だからな。この子はまだまだ世間知らずな面があるが、しかし人を見る眼は確かだ。問題なかろう」
「ちょ、ちょっとやめてよ、カロッタさん」
グリグリと女騎士に頭を撫でられる勇者が、口ではそう抗議しつつも、ちょっとだけ口元を笑みの形に歪ませながらカロッタを見上げる。
きっと、ネルにとってもこの人は姉のようなものなのだろう。仲の良いこって。
「それにしてもお前達、タイミングが良かったな。ちょうど今から指揮官連中を集めて作戦会議を行うところだったのだ。二人をどうするかはまだ考えていないが……まあ、内容だけ聞いていけ」
そう言って下へと降りる階段へ向かった女騎士に続き、俺達もまた階段を降りる。
そして、下に辿り着いた俺と勇者は長椅子の空いていたところに腰掛けるが、しかし女騎士はそのまま中央の通路を通って、正面にある教壇の前へと向かう。
彼女はそのまま教壇に立つと、こちらに向き直り、威勢の良い声を張り上げた。
「諸君!私がファルディエーヌ聖騎士団団長、カロッタ=デマイヤーである。今回の作戦の総指揮を取らせていただく!」
女騎士の言葉に、少々ガヤガヤとしていた聖堂内が静まり返る。
「……え、あの人、そんな偉い人だったの」
「うん、すごい人なんだよ。その圧倒的な剣と魔法の技量で、教会所属の聖騎士団の中でも主軸に位置するファルディエーヌ聖騎士団の団長に最年少で抜擢された人なんだから。能力値なんかは僕の方が高いはずなのに、今でもあの人にだけは全然勝てないんだ」
小声で、嬉しそうに彼女の自慢をする勇者。自身の慕っている存在が、そんなすごい人であるということが嬉しいのだろう。
……確かに、あの女騎士、ステータス高かったもんな。
分析スキルで見た彼女のステータスが、これだ。
名:カロッタ=デマイヤー
種族:人間
クラス:聖騎士
レベル:62
HP:1312/1312
MP:3400/3400
筋力:387
耐久:409
敏捷:552
魔力:611
器用:1192
幸運:198
スキル:聖魔法lv5、火魔法lv5、剣術lv7、索敵lv2、危機察知lv5、短剣術lv5、斧術lv3、細剣術lv4、鞭術lv4
称号:剣姫、戦乙女
まず目につくのは、武器関連のスキルの多さか。しかも軒並みスキルレベルが高く、剣術スキルなどに限っては脅威の『7』である。称号も『剣姫』とか『戦乙女』とか戦闘関連のものだし。こえぇ。
レベルも相当高く、器用値に限っては千越えなのだが……器用値って、もしかして剣技と関係あるのか?ネルも器用値高かったし……。
俺、圧倒的に器用値が高いはずなのに全然剣が上手くないから、関係ないのだと思ってたんだけど……もしかして、ただ俺が才能無いだけ……。
……ま、まあ、大剣はちょっと使えるし、関係無いさ。普通の剣は俺使わないしな。うん。そういうことで納得しておこう。
HP・MPは除外した人間の能力値の平均を、色々見て少しだけわかってきたのだが、大体こんな感じだ。
・子供:10~100
・一般人:100~150
・戦闘職:150~400
・達人:400~600
・キチガイ:それ以上
戦闘職なんかはピンキリで、かなり強さに幅があるが、しかし大体多いのが200~300前後だ。400やそれ以上のヤツはあんまり見ていない。
600を超えた数値をしているヤツは、勇者以外に例の斧のヤツがドーピングしていた時のステータスで見たぐらいで、そしてあの女騎士で三人目だ。人間達からしたら、十分に人外の領域だろう。
ここにいる騎士達の能力値を見ても、大体300~400前後で、恐らくは精鋭部隊なのだろうが、頭一つ抜けてあの女騎士の方が強い。
まあ、これはあくまで人間の基準だ。他の魔族や獣人族などのステータスはウチのメイドのしか見ていないので、そっちの平均を知れたらもう少し印象が変わるかもしれない。
俺がそう思考を続ける間にも、女騎士の言葉は続く。
「――我々は現在、少々マズい状況に置かれている。知っての通り、リュート=グローリオ=アーリシア王子がご乱心し、王都は現在混乱の極致にある。このまま混乱の最中に彼の者が王の座に就いてしまった場合、王子に反対の立場を取っていた我々は窮地に立たされるだろう」
凛と響く声に、整然と耳を傾ける騎士達。
「ここに集った者達には、それぞれの思惑はあるだろう。だが、はっきり言って我々には今、味方が少ない!我々は手を取り合い、そして勝利を勝ち取らなければならない!!異議はあるか!?」
その言葉に異論を挟む者はおらず、ただ無言の熱狂だけが場を支配する。
「――よろしい!!では、今より作戦会議を行う!!」
――その後、横からボードのようなものを取り出し、それを用いてカロッタが作戦の説明を行い、幾度か質問が飛び交って、作戦の内容が詰められていった。
作戦はまず、どうにか連絡が取れた、予め街の外で待機しているらしい部隊と、内側にいる部隊の半数以上を用いて、王都の内外を繋ぐ門を急襲。
そちらで騒ぎを起こし、十分に注目させてから、残りの少数部隊が王城に潜入。第一に国王の救出を目的とし、可能であれば王子も捕らえる。
国王に関してはどうやら、居場所を特定することに成功したらしく、現在城の内部の地下牢にぶち込まれているらしく、まだ生きてはいるそうだ。
……なるほど、そうだな……。
……ちょっと脅しをしておきたいから、俺は俺で、国王の救出に先回りするか。
後で、やって来た部隊に身柄を渡せばいいだろう。
「――作戦決行は明日の深夜、教会の鐘が響く時、一斉に行動を開始する!!以上、質問はあるか!?――では諸君、これで解散とする!!勝利を我らに!!」
『勝利を我らに!!』
その言葉で締め括られると同時、聖堂内が喧噪に包まれ、騎士達が一斉に行動を開始する。
壇上で作戦の説明をしていた女騎士は、そのまま俺達のところまで戻って来ると、口を開いた。
「――お前達、今日王都に来たということは、寝床の確保ができていないだろう?一応、アテがあるからそこまで案内しよう」




