我が娘との一日
更新遅すぎ?
えー、返す言葉もありません。ごめんなさい!
「ほーら、高い高ーい!」
「あうぁ! あうぅ!」
高い高いをすると、大喜びな声を漏らす我が愛する娘、リウ。短い尻尾もブンブン振られている。
活動的で、ハイハイとかが大好きな我が娘は、高い高いも大好きだ。
泣いている時とかに俺が抱っこすると、全然泣き止んでくれないどころかさらに激しくなる我が子達だが、それでも高い高いをすると高確率でご機嫌になってくれるので、俺の最近のあやし常套手段である。翼を使って飛んでの高い高いだと、もっと喜ぶ。
若干危ないので、それをするとレフィ達に俺が怒られるのだが。
ちなみに、サクヤも高い高いをするとしっかり喜ぶんだが、大はしゃぎになるリウ程じゃないな。なかなかクールな我が息子だ。
「うぅお! あうばぁ!」
高い高いをしているのを除いても、今日は大分ご機嫌なようで、体力が有り余っているのがわかる。
「お、もしかして冒険に出掛けたい気分か? よし、いいぜ! それじゃあ父ちゃんと一緒に、大冒険に出掛けようか!」
体力が有り余っているなら、することは一つ。
そう、大冒険である! 異論は認めない!
俺は、リウをスーパーマンのような横向きの体勢で抱っこすると、そのまま室内を駆け回り始めた。
毎日ちょっとずつ身体が大きくなっている我が子達なので、腕にズシリとした重みが来るが、我が強靭な魔王の肉体があれば、この程度は一時間でも二時間でも問題無い。我が肉体に感謝である。
「てーっててってー! てーれれー、てーててってー! てーれれーれーれー!」
口ずさむは大冒険のBGM。
ジャングル、遺跡探索、神秘の探索には欠かせない、考古学者の大先生のBGMである。
「おっと、危ない! ぐーたら妖怪レフィシオスだ! 逃げろ!」
「あうぉ!」
「誰がぐーたら妖怪じゃ、誰が。リウにおかしなことを教えるでないわ」
そこにいるのは、サクヤの世話をしている、大妖怪レフィシオス。一緒にいるとぐーたらしてしまうぞ!
なお、最近は進化して母親妖怪に変貌しており、さらに恐ろしい存在だ! 人類は母親というものには勝てないからな!
呆れたような顔をしている大妖怪の横をギリギリですり抜け、刺激的な冒険はまだまだ続く。
カーブするように進み、急降下、急発進。
激しい道程を超え、次に到達したのは、我が家を――いや世界を統べる、恐ろしき女王のおわす地である。
「おっと、ここは家事女王レイラの仕事場! ここで暴れた者は生きて帰っては来られない!」
「いばぁ!」
「うふふ、そーれ、追いかけちゃいますよー」
畳もうと手にしていたシーツを手に、ヒラヒラと軽く追いかけてくる家事女王から、踵を返して慌てて逃げる。
「うおぅ! あばぅあ!」
と、どうやら、シーツの動きが面白かったらしく、大はしゃぎのリウである。
リウのツボを完璧に抑えているとは……流石のレイラだ。恐るべし。
「さあ、家事女王のひらひらシーツ地帯を急いで突破するぞ! リウ冒険家、勇気と共に、突撃だ!」
逃げるつもりだったが、リウが必死に手を伸ばしているので進路変更。
ひらひらするシーツの下を、抱っこしたまま一緒に潜り抜け、無事突破。
したのだが、余程楽しかったらしく、「あうよ! あう!」と再びシーツを求める我が娘。
「お? もう一回か? はは、よーし、レイラ、もう一回だ!」
「うふふ、わかりましたー。リウ、シーツの大津波ですよー!」
「きゃうっ、きゃあっ!」
「やっぱ子供は、動くものが好きなんだなぁ」
「聞いた話によると、男の子の方が動くものが好きらしいんですけどねー。ウチだと逆ですがー」
「それな。一般的には、女の子はヒトの顔に興味を覚えるそうなんだが、ウチだとサクヤの方がよく人を観察してるもんな」
「多分、種族差によるものもあるのでしょうけどねー。ま、お母さんは、ただ二人が元気に育ってくれれば、それで満足ですよー」
シーツを三往復したところで、ようやく満足してくれたらしいリウの頭を、レイラは優しく撫でる。
「うおぉ! あうぅ!」
「うふふ、私達の娘は、まだまだ遊び足りないようですねー。パパ、頼みましたよー」
「……パパっていいな。もう一回言ってくれ」
「おいぱぱ、鼻の下が伸びておるぞ。リウにあまりアホ面を見せるでないわ」
「うるさいぞ、大妖怪レフィシオス。レイラにパパって言われて、喜ばない人類がこの世に存在する訳ないだろう。――おっと、リウ。勘違いするなよ? 父ちゃんはちゃんと妻全員を愛しているからな。だから大きくなった時、妻いっぱいの事実に対して引いたりしないように!」
「大丈夫ですよー、ユキさん。世界はそういうものだと認識させておけば、そもそも疑問に思うことすらないでしょうからー。思春期になっても問題無いかとー」
「お、おう、なかなかの提案をありがとうレイラ。……よし、じゃあその教育方針で!」
「その時は儂が、しかとリウに世の真実を教えておこう」
「レフィさん? お前もしかして俺の敵か?」
「今更気付いたのか。子供も出来たのに、ちと脇が甘いのではないか? お主の最大の敵は、常に側にある! 寝首を搔かれんよう気を付けるんじゃの」
「よし、戦争だ。お前の横暴は、必ず我が子達にも伝え、お前という世の脅威に抗う戦士として教育することとしよう!」
「あばぁあう! あうぅ!」
「……が、今は我らが娘が遊び足りない様子なので、またの機会にしてやろう。命拾いしたな、我が妻レフィシオス!」
「子供らが儂とお主、どちらの味方になるのか、甚だ見ものじゃの! ま、良かろう。儂もサクヤの世話をせねばならんからな、勝負はお預けじゃ」
「リウ、この二人は仲が良過ぎてこうなってるだけなので、そこ勘違いしちゃダメですよー?」
「「そこ、うるさいぞ!」」
「うぅう?」
気を取り直して俺は、リウと共に更なる大冒険へと出かける。
次は、ネルとリューがいる火と熱湯と刃と氷の、地獄のようなエリア――通称『キッチン』に向かいたいのだが……。
「ネル、リュー、そっちは行っても大丈夫かー?」
「大丈夫だよー!」
「もー、ちょっとだけっすよー?」
許可は出たが、元気なリウが一人ハイハイで遊びに来ちゃうと困るので、先に一つだけ注意しておく。
「リウ、ここはちょっと危ない場所だからな。火を使ったり、包丁使ったりすることがあるから、普段は遊びに入っちゃダメだぞ?」
「あうぅ?」
「そうだ。父ちゃんが、母ちゃん達にちょっかい掛けたくなった時のみ、一緒に来てもいい」
「いやそれもやめてほしいんすけど?」
「あはは、ちょっと困っちゃうね」
妻達の苦言も何のその、俺達はキッチンエリアの攻略を開始する。
「リウ、スニークだ! 声を潜め、ゆっくりと、だが確実に、少しずつ気付かれずに進む……これもまた、大冒険の醍醐味! でんでん、でででん! でんでん、でででん!」
「ご主人、BGM爆音っすけど」
「その独特のBGM、僕もう覚えちゃったよ」
世界一ダンボールが似合う蛇のおっさんの、偉大なBGMだからな! なら、爆音で行かないと。
そうして低空飛行で――いや別に飛んでないが、リウを抱えたまま、こっそりゆっくりと広いキッチンを進んでいく。
漂う良い匂いに、足が止まりそうになるが、俺達は鋼の意思を持つ冒険家。
欲に負けたりなどしない――。
「……ネル、つまみ食い! ちょっとだけ!」
「しょうがないなぁ。はい、じゃあこれね」
「あ、もう……ネルは相変わらず、ご主人に甘いっすねぇ」
「いやぁ、この顔で言われちゃうと、ね」
餌付けするように俺に一切れ肉をくれるネルと、そんな彼女の姿を見て呆れたような顔をするリュー。
「あぶぅ?」
「悪いな、リウ! この肉は脂身が多いから、まだダメだ! お前が大きくなったら、それはもう美味くてバカみたいにデカい肉を、たらふく食わせてやろう! だから今は、この菓子だ!」
「あぶぅ!」
子供の栄養補給用のお菓子を少しだけ食べさせてやると、嬉しそうに頬張る我が娘。可愛い。
「よーし、冒険のための栄養補給も済んだし、それじゃあ次は……城の方に行くか! おーい、俺、リウとちょっと出て来るわ! 満足したら戻る!」
無事キッチンを攻略した後、妻達から返ってくる返事を聞きながら俺は、今度は我が魔王城の方へと向かう。
やって来たのは、草原エリアが一望出来る最上階。
俺が一から造り、今もなお拡張し続けているこの草原。
今までに教えてもらった話から察するに、ここが広がれば、最終的には……多分、そのまま新たな一つの世界となるのだろう。
まあ、仮にやろうとしたら何千年と掛かるだろうし、そこまでするつもりも無いのだが。
今の俺はもう、辛く、残酷で、大変な、とてつもなく美しいこの世界を、気に入っているのだから。
まあ、我がダンジョン君には相当世話になっているし、偉大な先達を持った後進として、俺に出来ることはなるべくやっていこうと思ってるんだがな。
リウとサクヤもまた、我がダンジョンと、この混沌とした世界を愛する子に育ってほしいものだ。
「リウ、お前がもっと大きくなったら……ここだけじゃなくて、もっと色んなところへ行って、冒険しような。サクヤと一緒に、この世の混沌を楽しもう」
「あう!」
リウは、とても楽しそうに、無邪気に笑った。
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