閑話:???
毎年恒例の。
その日、俺達は外へ遊びに出ていた。
割と俺もレフィも引きこもり気味で、必要なことが無いと家から全然出ないので、たまには外に出ようぜと誘ったのだ。
すると、レフィの奴は「ほう! つまり、儂とでーとがしたいのか! 仕方ないのぉ、哀れでモテない我が相方のためじゃ、この儂が付き合ってやるとしよう! しかと感謝することじゃの!」と、ここぞとばかりにどや顔で胸を張っていてウザかったが、ここで言い返すと話が終わるまでにクソ時間が掛かるので、「あぁ、ありがとう。お前が一緒で嬉しい」と素直に礼を言ったら、頬を赤くして照れていた。
どうやら、いつものように言い返されると思っていたようだ。今後はこの路線で攻めて行こうと思う。
まあそういう訳で、俺達は今、家から歩いて十五分くらいの位置にある、駅前の繁華街にやって来ていた。
この辺りじゃあ一番栄えている場所なので、俺もレフィも慣れたところ――いや、嘘だ。
レフィはマジの出不精で、この距離の場所にもあんまり出て来ようとしないので、コイツの方は言う程慣れていないと思う。
我が相方殿の行動範囲は、近所のスーパー。そこが区切りだ。
「で、ユキ。外に出て来たは良いが、何か買うものでもあるのか?」
「あー、特別何か買いたいってものは無いんだが……お前、服とか欲しいのあるか?」
「? 儂の服はあるじゃろう」
「いや、女子ってお洒落好きだろ? お前も、新しい服とか欲しいかなって思って」
「儂は別にいいぞ。女子が着飾りたいと思うのはわかるが、今は不自由しておらんしの」
「そうか。お前がそう言うならいいんだが……」
「それに、正直儂は、お主らの服の文化はあまり好きじゃないのぉ。本来服とは、そうぽんぽん買ったりするものじゃなかろうに。どうせなら、その金で己を磨けば良かろう。見てくればかり着飾ったところで、中身が伴ってなければ滑稽というものじゃ」
……なるほどな。
確かに、その通りかもしれない。
外見を磨くことは大事だし、疎かにすべきものではないだろう。
しかし、それ以上に大事なのは、中身の方のはずだ。どちらを磨くべきかなど、明白なことだろう。
「……お前、そういうところ、割としっかりしてるよな」
「儂はしっかり者故」
「しっかり者(笑)」
「鼻で笑うな、鼻で」
と、レフィはこちらを見上げ、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ま、ユキが望むのならば……その通りに着てやっても良いぞ? どのような恰好でも、受け入れてやろうではないか」
からかうような妖艶な表情。
「……じゃ、これ」
俺は、たまたま通り掛かった店のその商品を、レフィに見せる。
「……『働いたら負け』?」
「ニートのお前にピッタリなプリントのTシャツだろ?」
「……どうやらお主は、一度わからせてやる必要があるようじゃな!」
「いいぜ、受けてたつ! あのゲーセンで――おっと、そういや俺、買いたいゲームあった」
「お、では、先に買いに行くか。今の時代、だうんろーどがあるようじゃのに、お主現物を欲しがるよな」
「棚に並んだ背表紙を見るのが割と好きでな。あと、俺達って結構ゲーム買うだろ? けど、ダウンロードで買ってると、インストールで容量が食われてSDカードがすぐ満杯になるからさ」
「あー、やりたい時にすぐやれない、というのは、確かに結構いらっとするの。いんすとーる、時間掛かるし」
「だろ? アンインストールとかして容量確保とかも面倒だし。まあ、ダウンロードの手軽さは強いが」
そんなことを話しながら、俺達は近くの電気屋に入る。
「で、ユキ。何のげーむを買うんじゃ?」
「新作のRPGだ。軽くプレイ動画とか見てたんだが、かなり面白そうでな」
「ほう、お主の選ぶたいとる、なかなか面白いものばかりじゃし、楽しみじゃ。それじゃあ儂は、横でお主のぷれいを見ているとしよう」
「別に自分でやってもいいんだぜ?」
「儂は見てるのも好きじゃから構わんぞ」
そう、レフィは自分でゲームをやりたがる方に見えるが、意外と人がプレイしている様子を横から見るのが好きらしく、RPGとかは自分でプレイせず、俺がやってる時に隣に座って指示厨をしてくることが多い。
ぶっちゃけ俺も、コイツが横で楽しそうにしているのを見るのが嫌じゃないので、対戦ゲーをやることも多いが、同じくらい一人用のゲームを二人でやることも多いのだ。
途中で出て来る謎解きとかも、どっちが先に解くか、みたいなところがあり、俺が先に解いてどや顔をして「ぐぬぬ……」と唸らせる時もあれば、レフィに先に解かれて、煽られて「ぬがー!」となることもある。
ムカつく敵がいれば、「ユキ、やれ! そこじゃ!」「あぁ、任せろ!」と一緒に興奮し、ギャグシーンがあれば二人で腹を抱えて笑い、感動するシーンがあればお互いちょっと無言になり、涙ぐみながらティッシュを渡し合って、後程「良かった……」「良かったの……」と感想を語り合うのだ。
コイツと過ごす、いつもの……大切な日常だ。
「よしレフィ、さっそく帰ってプレイ――じゃないわ。今日は外に出るって目的で出て来たんだった」
「欲しいものは買った訳じゃし、帰るか?」
「いや、せっかくだから今日くらいは外で遊ぼうぜ。だから……さっきの続きで、ゲーセンだ!」
「結局げーむではないか。が、構わんぞ! 儂らでここのげーむを制覇――じゃなかった、儂とお主とで雌雄を決する時じゃ!」
「おうともよ! 今日一日、お前を悔しがらせ続けてやる!」
その後俺達は、ゲーセンに行って一通り遊び、カラオケに行って互いの下手な歌を笑い合い、良い時間になったので近くのラーメン屋で飯を食って、帰った。
そして、風呂に入ったりなんやかんやした後に、今日買ったゲームをやり、二人でぎゃあぎゃあと楽しみながら、寝落ちした。
最高の一日だった。
◇ ◇ ◇
「レフィ、散歩行こうぜ、散歩」
「む? まあ良いぞ。何じゃ急に」
「いや何となく。最近子供らの世話に付きっ切りだろ? たまには外出ようぜ、外」
そう言うと、ニヤリと何だか不敵に笑うレフィ。
「ほう、つまりお主は、儂とでーとがしたいということじゃな! 仕方がないのぉ、哀れで寂しがり屋の我が旦那のためじゃ、この儂が付き合ってやるとしよう! しかと感謝するように!」
「はいはい、感謝してるよ。お前は旦那の要望に付き合ってくれる良い女だ」
「うむ、うむ、よくわかっておるではないか! では行くぞ、ユキよ!」
そうして、無駄に元気なレフィと共に草原エリアへと出る。
温かな陽光。
心地よい空気。
「そうじゃ、久しぶりに、肩車でもしてもらおうかの!」
「わかったわかった。ほら」
グイ、と俺は、レフィを肩車する。
軽く、小さく、だが大きい我が妻。
「お前好きだなぁ、肩車」
「うむ、我が夫が奴隷のようにあくせく儂のために動いておるのが楽しい――違った、目線が高くなると、世界がよく見えて心地が良いのじゃ!」
「おう、前半部分が聞こえてる時点で取り繕っても無駄なんだわ」
全部言い切ってたよな、しかも今。
俺は苦笑を溢し――言葉を続ける。
「……なあレフィ」
「うむ?」
「いや……今日も最高の一日だな」
「儂がおれば、お主は毎日最高じゃろう?」
ニヤリと笑みを浮かべ、上から見下ろしてくる。
「さあ、どうかね。お前から受ける負荷を、他の妻軍団と子供達が癒してくれるから、プラマイでプラスなのかもしれないし」
「何~? そんなことを言う夫は、こうじゃ!」
「ちょっ、うはははっ、おまっ、肩車している最中にそれは反則――どわぁっ!?」
「ぬわぁっ!?」
くすぐられて体勢を崩した俺は、そのまま後ろに倒れ、肩車されていたレフィもまた当然同じように倒れる。
草原に転がった俺達は、顔を見合わせ。
そして、同時に笑い出した。