謎の遺跡へ
ダンジョンでゆっくりと日々を過ごしている内に、やがて日程が決まったという報告がイルーナ達経由で入り。
俺達もまたその日に向けて準備を行い、そして当日が訪れる。
「……え、息子も連れて行くことにしたのかい?」
「あぁ、よろしく。サクヤ、挨拶しろー」
「うばぁ、あう!」
「わぁ、可愛い、しっかり挨拶したです! サクヤ君、エミューです! 少し前に会ったの、覚えてるですか?」
「フフ、多分覚えていると思いますよー。サクヤは、よく人の顔を見ている子ですからー」
「……ん。サクヤは記憶力も良い。きっとエミューのこともわかる」
レイラが抱っこしているサクヤに、きゃあきゃあとテンションが高めのエミューと、その横で何故かちょっと得意げな様子のエン。
が、弟子に対し、お師匠さんは「え、マジで?」と言いたげな、心配そうな顔である。
「……だ、大丈夫なのかい? 言っておくが、本当に結構な危険地帯なんだよ?」
「大丈夫だ、そっちに迷惑は掛けないようにする。それに……多分ウチの息子は、調査に役立つぞ。運命力がすごいんだ」
「う、運命力?」
「お師匠様、サクヤの運命力は本当にすごいんですよー。私も、そういうものは存在すると、認めざるを得ないような力を持っているんですー」
「あ、アンタがかい!?」
天地がひっくり返ったかのような顔になるお師匠さんである。
「そういう訳だ、調査には確実に役に立つから、悪いが同行させてくれ。ウチの息子には、今の内から色々経験させといてあげたくてな。じゃないとデカくなった時、酷いことになりそうなんだ」
「……ま、まあ、アンタらが良いならいいんだが。そこを決めるのはアタシじゃないし。……そうかい、それじゃあ……アンタもよろしくね、サクヤ」
「あぅあ!」
目線を合わせてそう言うエルドガリア女史に、ウチの息子は楽しそうに笑った。
「……アンタの息子、本当に人懐っこいねぇ」
「はは、おう、サクヤは人が好きみたいでな」
「何を見ても、全然物怖じしませんからねー。かなり好奇心旺盛なのですよー」
「おや、それはいいね。大きくなったらウチの里に通いな」
「羊角の一族に染まったら、もう大変そうだが、その時はよろしく頼むよ」
「私も、お姉ちゃんとして色々教えてあげるです!」
「……いいね。一緒にいっぱい、教えてあげよ」
これからも、末永く彼女らの里にはお世話になりそうだ。
◇ ◇ ◇
目的地への移動に使われるのは、やはり飛行船だ。
どういう経緯でゲットしたのか、羊角の一族はもう、飛行船の一隻を自分達の移動用に確保してあるらしく、それを使って目的の遺跡にも物資輸送を行っているらしい。
なんか、俺が思っていた以上に大事業であるようだ。
エルドガリア女史の話を聞いた限りでは、羊角の一族の一部門がその研究をやっているようなイメージだったが、いや研究してるのは実際一部門だが、そこに里全体が相当な期待を掛けているような印象がある。
飛行船が使えるようになってからは、人員の更なる動員も積極的に行っているようで、俺達以外の羊角の一族も結構な数がおり、エルドガリア女史の紹介で何人かと挨拶を交わしたりもした。
どうやらそれだけ、彼女らにとって神代の研究とは重要なものであるらしい。
と言っても、その遺跡が神代に所縁のある地である、という風に推測したのはエルドガリア女史らしいので、この流れは結構最近のものではあるのだろうが。
ちなみに、飛行船の人員でエミュー程の年頃の子は、エンを除いて一人もいなかった。
優秀だ優秀だとは聞いていたが、同年代の中では、本当に頭一つも二つも飛び抜けているようだ。多分、幼き日のレイラもそんな感じだったのだろう。
二人の素質が優れていたからか、師匠の教育がそれだけ優れているからか。多分、両方なんだろうな。
エルドガリア女史が忙しくなる前は、イルーナ達も彼女の授業を受けたことがあるそうなのだが、それはそれは楽しいらしい。
勉強が好きじゃないシィと、そもそもそれらに全く興味が無いレイス娘達も、彼女の授業なら聞き入るのだという。
正直、俺も興味がある。
前世の学生の記憶など、もはや相当に薄れてきているが、お世辞にも優秀な生徒だったとは言えず、俺も学ばされるままに学んでいたような状況だったからな。
それが楽しいと思えるようになるのなら、ちょっと受けてみたいものだ。
そんなことを考えながら、俺は飛行船でサクヤをあやす。
「あぶぅ、あう!」
「今日はネルがいないから、なるべくサクヤにはご機嫌でいてもらわないとな」
「なかなか贅沢な魔法の使い方ですが、ネルの結界魔法は優秀ですからねー」
今はニコニコな様子だが、赤子とは泣くものだ。
だから少し前エルレーン協商連合へ旅行に行った時も、ちょっと機嫌が悪くなってギャン泣きする時はあったのだが、リウとサクヤが泣き出しそうになった瞬間それを察知したネルが遮音結界を張って音を消すので、他所の人に迷惑を掛けず済んで助かったものだ。
しかし今は、アイツがいない。
サクヤはそんな泣かない方とはいえ、やっぱり機嫌が悪くなるとそれはもう元気良く泣くので、気を付けなければならない点だろう。
思えば、やはりウチは子育てで相当楽が出来ている。
人数が多いからそれぞれがやれることも多く、分担作業のおかげで今のところそんな大変な思いはしていない。ハーレム最高。フハハ。
「アイツ、もうなかなか勇者として隙が無いよな。剣技は先代勇者に教わった技術とクソ度胸が合わさって敵無しって聞くし、守りは結界魔法が使えるし」
「結界魔法、エンなら斬り裂けるとネルは言ってましたけどねー」
「……でも、かなり硬いのは間違いない。体感的に、多分西エリアの魔物の皮膚より硬い」
「へぇ? それはすごいな。というか、そんなのも試してたんだな」
大太刀の練習を続けているネルが、時々エンの素振りを行っていたことは知っているのだが、その時に結界魔法の硬度も試していたのだろうか。
「……ネルは、リウとサクヤに剣術を教えると決めた時から、一層張り切ってる。でも、ヒト種ならもう、一握りの強者の中に入ってると思う」
「確かに。パートタイム勇者になってからのアイツの実力の伸び方、えぐいもんがあるからな。つまり、大事なのは適切な休養と気晴らし、ということだ」
「フフ、それは間違いないですねー。パフォーマンスの維持は大事なことですー。――頑張らないとですねー、サクヤ。姉と一緒に、勇者たる母の教えを受けることになるのですからー」
「……エンも一緒に教えて、誰にも負けないようにする」
「あぁ、よろしく頼むよ」
サクヤを見ながら、ふんす、とやる気満々な様子のエンの頭を、俺はわしゃわしゃと撫でた。
そんなことを話しながら、俺達はもう結構慣れてきた空の旅を楽しむ――。




