観光再開《5》
翌日。
ホテルで朝食を食べ、朝の準備を終えた俺達は、予定通り大聖堂の区画へと向かい、博物館に入館した。
俺が、一番来たかったところだ。
美術館よりもさらに立派な造りで、本館と別館の二つを丸々使った規模であり、レイラも知っているくらいの、つまりその筋では有名な博物館であるらしい。
珍しくテンションが上がって頬を上気させているレイラがすごい可愛かった。
まあ正直、羊角の一族の里にある、集客を意識した博物館よりは一段階劣る感じがあるのだが、あそこと比べるのは良くないな。むしろあっちがおかしいのだ。
中に入ったら考えていた以上に広く、今日一日使っても回り切れるか微妙なところなので、昨日じゃなくて今日にこれを回して正解だったか。
旅行の最終日として、他にも見たいところもあるので、ある程度で切り上げないといけないかもしれないな。イルーナ達がこっちを見たいと言ったら、そのまま博物館観光を続行するつもりではあるが。
ちなみに、俺が博物館へ来たかった理由の一つである、サクヤへと継承された神剣に関してだが、今は俺のアイテムボックスの中に突っ込んである。
サクヤが大きくなるまでは預かっておくつもりだ。護身用として持たせておくには危険過ぎるからな。子供に核兵器持たせてるようなもんだ。しかも、扱いを間違えたら自爆するような核兵器を、である。
ムクロのおじちゃんなる魔物が、どういうつもりでウチの子にアレを渡したのかは知らないが、流石にあんなものを子供に持たせておく訳にはいかないので、これくらいは許してもらわないと困る。
まあ、「大きくなったら渡してくれ」と言っていたようだし、その彼もわかっていたことだろう。
……俺のアイテムボックスの中も、相当危険物が増えて来たな。うっかり取り出したらヤバいってのがある訳だし、気を付けねば。
そうして、館内を回り始めた俺達だったが……。
「あるのはこれだけか」
出土品。
工芸品。
武具類。
エルレーン協商連合の成り立ち。
面白いものはあるが、残念ながら……浅い。
いや、別に、内容が浅い訳ではない。内容は、博物館だけあってすごい情報量だ。
しかし、時代が浅い。
ここ百年二百年くらいの、この国が都市連合を形成し、エルレーン協商連合として成立した経緯の紹介が中心なようで、俺が知りたいのはそれ以前の、もっと古い歴史なのだ。
置かれている一番古いもので、千年前の武器とか、魔道具とかである。その時代の紹介もあるようだが、神代とは程遠い。
……まあでも、仕方のないことかもしれない。
仮にも神代。命が非常に長い龍族ですら追えぬ程の、遥かな過去だ。
その歴史を、百年も生きられない人間が伝え続けるのは、不可能に近いのだろう。
ドワーフの里には、ずっと言い伝えが残っていたが……あれは例外として見るべきだな。よくまあ、歴史が残っていたものだ。
こうなってくると、また精霊王と会って、この辺りのことを聞いた方が早そうだな。多分彼なら、何かしら知ってるだろう。
ムクロのおじちゃんなる魔物のことも知ってるかもしれない。
……というか、考えてみると、この国にあったメッチャクチャ重要な文化遺産を、サクヤが貰っちゃったことになるんだよな。
別にこの国が所有していた、という訳ではないが、この国の領土内に存在した遺物だ。それも、神代というこれ以上ない貴重な時代の、である。
う、うーん……となると、何か埋め合わせをしないと、だな。
神剣のことや、ムクロのおじちゃんなる存在のことをこの国の誰かに話すつもりはない。
多分これは、彼らにとって知らない方が良いことだ。知ってしまったら行動しなければならないが、知らなければそんなものは存在しないのだから。
神剣は、まず間違いなく厄ダネだ。俺だって、こんなものは持っていたくない。
シィとサクヤが、そのムクロのおじちゃんなる存在から形見として貰ったからこそ大事に保管しようと思っているが、そうでなかったら速攻で手放したいのが正直な思いである。
それだけの力があるのが、神シリーズの武器なのだ。
しかし、そうしてこの国の者が気付かぬ内に貰っちゃったからこそ、俺の方で何か、この国に埋め合わせをしなければならないだろう。
俺はこの国に好感を抱いているので、知らん顔してしれっと観光は出来ない。普通に後ろめたい。
ただ、魔帝でなくなった俺の出来ることとなると……やっぱ魔物関係か。
よし、魔物被害で何か困ってることがあったら、俺が排除するとしよう。この国、航路拡張中だろうし、魔物のせいで遠回りしているところとかあるはずだ。
それを狩れば大きな利益になるだろうし、それなら釣り合――わないな。それでもこっちが取り過ぎだわ。
……しょうがない、この国に対する俺の個人的な借りとして、覚えておくとしよう。で……そうだな、サクヤが大きくなって、自分で物事を判断出来るような歳になったら、我が息子に放り投げるとしよう。
はは、いいな。なんかそれはそれで楽しみだ。「えー」って面倒臭そうな顔で、嫌々俺の言う通りこの国に義理立てする息子の姿が見たい。
ま、結局この博物館に大した情報は無さそうだし、今は純粋に楽しむとしようか。
「おにーさん、何だかご機嫌そうだね?」
隣のネルが、こちらを見上げてくる。
「わかるか? 最近の俺はご機嫌もご機嫌、ハッピージャム……何でもない。まあとにかく、色々楽しいんだ。こういう博物館も、個人的に好きだしな」
「あぁ、おにーさん意外と歴史とか好きだよね」
「先人に思いを馳せる、なんて高尚なことを言うつもりは無いが、遺跡とかロマンの塊だろ? 見てるだけでワクワクしないか?」
過去とはそれだけでロマンなのだ。古文書とか謎の遺品とかワクワクする。
そこに暗号とか隠れてたら最高だ。ダヴィンチの暗号の映画とか、前世で超好きだった。蛇が嫌いな鞭使いの先生の映画も全部見た。
この世界で素晴らしいのは、そんな映画みたいな面白遺跡とかが、実際に存在することだな!
「おにーさんも男の子だねぇ。サクヤも、きっとパパみたいになるんだろうね。現時点で自分の好奇心に素直だし!」
ベビーカーのサクヤの頬をプニプニ突きながら、笑うネル。
サクヤもネルの指を掴み、楽しそうに「あう、いおお!」と遊んでいる。
一日経ったおかげか、今日のサクヤは大分落ち着いている。
周囲をキョロキョロして、まだむずがる時があるが、母親達の誰かがあやしてやれば機嫌を戻すくらいにはなってくれている。
なお、リウもサクヤも、俺があやしても全然泣き止まない。むしろさらに大声で泣き始めるので、俺の抱っこは二人の機嫌が良い時にしか許されていない。
いやホント、俺だと全然ダメなのだ。
寝かせようと思った時に抱っこすると、「何してんの?」と言いたげな様子でこちらをキョトンと見るのみで、二人とも「あぶぅ、あう!」とか「いおぉ、あお!」とか言って遊びたがるし、泣いている時に抱っこすると、もうギャン泣きになって暴れ始めるのだ。
なのに、レフィ達が抱っこしてあやすと、すぐに寝るし、すぐに泣き止む。
いや、泣いている時に限っては、理由如何によっては全然泣き止まないこともあるのだが、寝かせようと思ってあやすと、すぐに寝るのである。
恐るべし……ヤツら『母』は、安眠光線を身体から放っているのだ。
いったい『父』と何が違うのか……疑問は尽きない。
「ぶあう! いあ!」
と、サクヤの琴線に引っ掛かる何かがあったらしい。
ネルの指から手を離し、急に展示の方へ興味を示し始めるサクヤ。
「お、サクヤが何か見たいようだぜ」
「何だろうね。……これは、弓かな?」
「そうっぽいな。弦は無いが、ちょっと変わった弓だな」
「武器に興味を引かれるとは、見る目があるね、サクヤ! お母さん、息子の趣味が良くて嬉しいよ!」
「ネル、頼むから、二人を風呂過激派と武器フェチに育てようとするのはやめてくれな」
「えー、僕は世の中の素晴らしいものを教えようとしているだけなんだけどなー」
「あなたは最近、極端なんですよ……」
いつからネルはこうなってしまったのか……まあ可愛いから別にいいんだけど。
武器の話をこれ以上するとネルが暴走しそうなので、俺は流すようにオホンと一つ咳払いする。
「で、サクヤが興味を持った弓は、どういう謂れが……あー、これ、もしかして……」
「……その顔、もしかして神代の品?」
「……そうらしい」
博物館の方の説明文は、『過去、首都ルヴァルタ近郊の遺跡から発掘された弓。材質と製造方式から少なくとも二千年以上前の遺物であることは確実だが、内蔵魔力が高過ぎるため、具体的な年代の特定は不可能』と書かれている。
俺も、パッと見ただけの時はわからなかったが……分析スキルを使って確認したら、一発だった。
必中の弓:魔力を込めると射程が伸び、目標に向かって追従する。かつて神々の大戦が起こった時、人々は神を助けんと武器を手に取り、戦った。而して英雄は生み出され、敵を葬り、なべて死を迎えるのだ。
……この弓は、神シリーズではないようだが、その時代のヒト種が作った武器なのだろう。
やっぱりこの国の周辺は、神代と深い関係のある場所なんだな。
というか、サクヤが分析スキルを持っていないことは確認済みなのだが……何故数多ある展示の中から、ピンポイントでそういうものを発見出来るのか。
お前の嗅覚どうなってんだ、ホントに。
「俺はこれ以上、この博物館をサクヤに見せるのが怖くなってきたぞ」
「あ、あはは……ま、まあ、色々見て、色々知っておくことは、決して悪いことじゃないはずだからさ。まだ小さい内に、こういうものに慣らせてあげておこうよ」
「……サクヤの中の常識がおかしくならんよう、俺達で教えてあげないとな」
「……せ、責任重大だね」
いいか、サクヤ。
お前がポンポン見つけてるものは、本来は伝説のシロモノと言うべきものなんだ。
一つでも発見出来たら、『世紀の大発見!』と銘打って良いくらいのものなんだ。
そのことをゆめゆめ忘れないように。




