観光再開《3》
大人組と別れたイルーナ達は、張り切って大聖堂内部の探検を始める。
見慣れぬ場所。複雑で綺麗で、冒険心をくすぐる建物。
まず、「ねぇねぇ、あのパイプオルガン? っていうの、しっかりきいてみたい!」というシィの意見で、カルテットの音楽を聴く。
見たことない種族の子供達に、一瞬奏者達は驚いた様子を見せるが、彼らもプロ。
滞りなく演奏を続け、むしろ子供が好むような軽快な弾き方で、イルーナ達を楽しませる。
二曲程を聴き終わり、満足して拍手した後は本格的な大聖堂探索に移り、まず傍らの大きな階段を昇って上の階へ行く。
この大聖堂は、全部で五階建てだ。
中央の大広間の部分は三階建てだが、左右に二本存在する塔の最上階が五階となっているのだ。
周囲に同じだけの高さの建物は存在しないため、最上階まで昇ると非常に見晴らしが良く、人気なスポットの一つである。
「あはは、このかいだん、おっきいねぇ!」
「レイスの子達なら、ピューって飛んでけるから、ちょっと羨ましいかも」
「……これくらいなら軽い軽い。イルーナも、鍛えれば大丈夫」
「言っておくけど、わたし同年代なら体力ある方だからね? みんながおかしいんだからね? 学校に行き始めてからそれをよく理解したから、わたしは」
やがて、一番上まで昇り切った少女組は、巨大な窓の一つに全員で張り付く。
「よーし、ついた! ん~! いいけしきだねー!」
「わたし達の泊まってるホテル、あれかな? やっぱりこう見ても綺麗だし、あの建物も大きいね!」
「……見て、飛行船。バンバン飛んでる」
「この国、見たことないものいっぱいで、おもしろーい!」
「……ん。主と色んなところ行ったけど、ここはちょっと毛色が違う。ドワーフの里も色んなもの作ってたけど、あっちはあくまで既存の技術を伸ばす方向だった。こっちは新しいものを作ってる印象」
「へぇ~! まあ、あんまりわかんないけど、シィはおっきくなったら、いろんなところにいってみたいね!」
「……その前にシィは文化の成り立ちを学んだ方が良いと思う」
「えー!」
「あはは……でも、結局色々知っている方が、旅行も楽しめるっていうのはわたしも同感かなぁ。レイ、ルイ、ローはどう?」
イルーナが問い掛けると、まずレイが「旅行は好きだけど、でも私は時々でいいかなー」と言い、ルイが「私達の家はダンジョンだからね! 家が一番!」と言い、ローが「でも、三人がどこかへ行くなら、付いてくよー」と言う。
「……ダンジョンが一番というのは同意。我が家は恵まれてる。どこか遠くへ出かけても、ダンジョン帰還装置があるから、帰ろうと思えば一瞬で帰ることが出来る。それが楽」
「ねー。おにいちゃんが設置した扉とかもあるし、おかげで羊角の一族の里に毎日通えるし、多分ウチって環境的に相当楽なんだよね……もう多分わたし、他のところで過ごすこと出来ないと思う」
「まあ、そもそもシィたちは、あんまりながくダンジョンからはなれると、よわっちゃうんだけどね! ぶつりてきに!」
「あっ、そっか。もしかして、この旅行でもそれ、感じたりしてるの?」
「ううん、にはくみっかくらいなら、よゆー! ね、レイ、ルイ、ロー!」
シィの言葉に、レイが「これくらいなら全然平気」と言い、ルイが「多分二週間くらいは大丈夫」と言い、ローが「体感的に、一か月くらい離れたら弱っちゃうかな?」と言う。
「一か月か……長いようで、短いね。ん、わかった、覚えとく。四人も、身体に変化を感じたら、ちゃんと言うんだよ?」
「……ん。ちゃんと言ってくれた方が、安心する」
「はーい、わかった!」
シィの言葉の後に、レイス娘達もまた、わかったと言いたげに片手を挙げた。
――そうして、会話がひと段落した後。
外の景色を眺めながら……イルーナが、口を開く。
「ね、シィ。さっきは、何かあったんでしょ? だから、そんなに……無理しなくてもいいんだからね」
「……むりって?」
「辛いなら、無理に笑わなくていいんだよ?」
「…………」
シィがまだ本調子ではなく、皆を心配させないよう殊更元気に振る舞っていることは、イルーナ達も気付いていた。
普段は底抜けに明るく、ムードメーカーな一面のあるシィ。
だからこそ、いつもと違って彼女が落ち込んでいることはすぐにわかるし、その様子はイルーナ達にとってもクるものがあり、ずっと気にしていたのだ。
シィは、気持ちを見抜かれてしまって一瞬バツの悪そうな顔をしてから、言葉にならないのか口を開いたり閉じたり繰り返し……一つ、頷く。
「……うん、あのね。なかよくなった、けもののスケルトンのおじちゃんがいたの。でも、もう、いなくなっちゃった。もう、にどとあえなくて、それがとってもかなしいの」
吹っ切れてなどいない。吹っ切れる訳がない。
ふとした拍子に昼のことを思い出してしまうし、それで泣きそうになってしまう。ジクジクと、胸が痛む。
そんなに早く、心の整理など付かない。
「でもね……それでもいいって、いまはおもってるの。かなしくないよりは、かなしいほうがいい。このおもいは、ずっとおぼえておこうって、おもってる。だから、だいじょーぶ! ごめんね、みんな。しんぱいかけて」
普段はのほほんとしているシィの、深い感情を感じさせる言葉。
そこに含まれている思いをイルーナ達も強く理解し、故にすぐには言葉が出て来なかった。
「……ね、シィ。それじゃあ、そのおじさんのこと、わたし達にもいっぱい教えて! わたし達も、シィが仲良くなったおじちゃんのこと、ちゃんと覚えておくから」
「……ん。聞きたい」
エンの言葉の後に、レイス娘達もまた、近くを漂って聞く姿勢を見せる。
「ん……ありがと、みんな! あのね、おじちゃんはね――」
そうして、彼女らはいっぱい話をする。
笑って、泣いて、楽しんで、怒って。
大人の知らぬところで、子供達は数多を経験し、数多を感じ、情緒を育むのだ。




