観光再開《2》
昼食を皆でしっかりと食べた後、俺達は観光へと戻る。
まずは、シィ達とはぐれてしまったので、まともに見られなかった土産物屋。
買ったら荷物になるので、そういうのは最後にするのが定石かもしれないが、一人一つ空間魔法の掛かったポーチがあるウチの家族に限っては、それは問題ないからな。
それぞれの予算内で買いたいものを買い、俺はウチで留守番してくれているペット達と、リル一家のための肉を大量に買っておいた。なんか良さげな味付け肉があったのだ。
セツがいるし、リル一家へのお土産はおもちゃとかの方が良いかとも思ったのだが、セツはボールがあれば基本的にはご機嫌なので、結局肉を買ってあげるのが一番喜ぶだろうという判断だ。
育ち盛りで、毎日すんごい食べるからな、セツ。それに準じて、身体もどんどん大きくなってきている。
フェンリルの成体と比べたらまだまだ赤ちゃんレベルの大きさ、といったところであるが、実はもう結構大きい。多分、家に帰ったらまた大きくなっているんじゃないだろうか。
業者か、と思われそうなくらい買ったが、売り上げには貢献しているはずなので、許してもらうとしよう。
そうしてショッピングを楽しんだ後は、次の場所へと移動する。
目的地は一区画歩いた先にある――大聖堂。
「うわぁ、すごい!」
「おっきい!」
「……ステンドグラスが素晴らしい」
歓声をあげる少女組。レイス娘達もまた、ご機嫌な様子で万歳している。
「すごい規模の大聖堂だね……僕のところより大きいかも」
「お前んところ、結構実用性重視って感じで造られてるもんな。こっちはもっと……商業的な観点から造ってる気がするわ」
この大聖堂、外観からして金を掛けているのがよくわかる様子で、豪奢なステンドグラスが至るところに嵌められている。
尖塔が多く、飾りが多く、立派な大鐘楼も見える。
明らかに他者に見せることを意識した造りで、前世だと……ノートルダム大聖堂。あの建物に近いような規模と形状だ。
もう、建物の威容だけで信者を集められそうな感じである。実際、そういう狙いもあるんじゃなかろうか。
対してネルんところは、俺も訪れたことがあるが、ぶっちゃけ結構無骨な造りだからな。
教会とか言いながら、普通に『聖騎士団』なんて軍隊持ってるし、『勇者』も抱えてるし、そういう武辺的な空気があそこにはある。
信奉する神様は同じで、人間の間で広く信仰されている女神様らしいのだが……国が変われば、事情も変わる、ということだろう。
この区画、観光名所として人を集めるためか、この大聖堂のすぐ横に美術館が併設されており、さらに街の歴史を紹介する博物館まであるようだ。飲食店の数も多い。
俺としてはシィの件があるので、この国の歴史が見られるであろう博物館に直行したいところだが……まあ、順番に見ていくとしよう。
観光名所で、しかも世界で一番飛行船の駅が多い国なので、俺達以外にも多くの観光客が訪れており、千差万別な種族が見られる。
人間以外で一番多いのは、恐らくドワーフ。次点で魔族か。
ドワーフが一番多いってのは、納得だな。彼らも、種族全体で職人気質だから、この国の技術が気になるのだろう。
「お前ら、中に入ったらなるべく静かにするんだぞ。興奮しても大声出しちゃダメだからな」
「わかってるよー。わたし達だって、静かにすべきところは、理解してるって!」
「……ん。そんなうるさくはしない」
「うっ……シィはちょっと、ふあんかも。コーフンしちゃって、おもわずこえ、でちゃうかも」
「……その時はエン達が口を押さえてあげる」
「おー、それならへーきだね! よろしく!」
「いや、それ、平気かな……?」
苦笑を溢すイルーナである。
そうして俺達は、人の流れに従って動き、大聖堂の中へと入る。
内装もまた、外装に負けず劣らず豪奢で、広く綺麗だった。
大理石の磨かれた床。教会によくあるような長椅子は少ないのだが、恐らくこれは内部を自由に歩き回れるように配慮されているのだろう。
天井は半分以上が絵画で埋められており、それをステンドグラスから入り込む光と、ドデカいシャンデリアが彩っている。左右には天井近くの高さまで通路があり、三階建てになっているようだ。
広間の一番奥には、この世界の神々を模ったらしい像があり、その傍らにはドデカいパイプオルガンが設置され、ひと際目を引いている。
すごい立派なオルガンだ。壁一面使い、天井まで届くような規模である。この大きさは俺も初めて見た。
そして今、大規模な演奏ではないのだが、そのオルガンと弦楽器の奏者数人で軽快な音楽を奏でている。BGM代わりなのだろう。
リウとサクヤにも見せてあげたかったのだが、実は二人とも、昼を過ぎた辺りですとんと眠りに落ちてしまった。
サクヤだけでなく、リウもさっき力いっぱい泣いていたし、体力的にキツくなってもしょうがない。
だからという訳ではないのだが、元気いっぱいで色々見て回りたそうにしているイルーナ達とは、ここで一旦別行動を取ることにした。
誰か一人大人を一緒に……というのも考えたが、まあ問題ないだろう。護衛の人らもいるしな。
シィのことがあった直後だし、きっと神経を張って周囲を見張ってくれることだろう。
「それじゃあ、俺達はこの辺りでゆっくりしながら見てるから。一時間くらいで次に行く感覚でいてくれ。何かあったらすぐに戻ってくるんだぞ」
「うん、また後でね」
「ぼーけんまつり! たのしみ!」
「……ん。探索し甲斐がある」
◇ ◇ ◇
元気良く去って行くイルーナ達の後ろ姿を、レフィは眺める。
並んで歩く三人と、その上をふよふよと飛んで付いて行く三人。
昔から変わらぬ仲の良さで、しかし昔と変わった点も数多く存在する。
「? どうした、レフィ?」
「いや……あの子らも、大きくなったと思うてのう」
不思議そうに問い掛けてくるユキに、そう答える。
昔と変わった、特に大きな点。
それは、こうして旅行先でもイルーナ達と別行動が出来るようになったところだろう。
少し前ならば、そんな真似はさせなかった。
危険だから、という理由は勿論のこと、単純に目が離せないところがあったからだ。
皆、元々歳の割にしっかりしている面はあったが、それでも子供は子供。その面倒を見ることは、保護者の責務。
以前までは、イルーナ達自身が大人組と一緒に行動したがったというのもある。
だが、今は、こうして彼女らだけで行動をさせるようになった。それで大丈夫だと、自分自身も思っている。
つい先程、シィが迷子になったりなどもあったので、全く心配がない訳ではないが……彼女らが固まっている間は、大体のことは自分達で解決出来るだろう。
そもそもシィも、結局自分で解決し、サクヤと共に無事に戻ってきた。あんなにおっちょこちょいで、あまり深く考えることをしないシィですら、自分で考え、行動し、戻ってきた。
いったいいつの間に、彼女らはこれだけ成長したのだろうか。
学校に行き始めてからどんどん精神が成熟してきているのは感じていたが……考えてみると、それ以前からもう、変化は始まっていたように思う。
それを最初に感じたのは、やはり自分達の妊娠がわかった頃からだろうか?
いずれにしろ、早いものである。
十年くらいなら、つい最近といった感覚なのが龍族。それより少ない年月など、ヒトで言えば一週間や一か月。そんなものと変わらない。
レフィも、ユキ達と暮らすようになったことで、時間感覚が龍族のものではない、ヒトの彼らに近しいものには変化してきている。
騒がしく、慌ただしい日々。
凝縮されていて、一日一日が濃密なため、ユキと出会う前の千年と、出会った後の数年が同じ長さに感じているくらいである。
だが、そんな時間軸の中でも、彼女らはあっという間に成長してしまったような気がするのだ。
いや……子供を育てる、というのは、そういうことなのかもしれない。この感覚は、恐らく親ならば皆感じるものなのだろう。
時間の流れとは主観によって変化する、相対的なもの、と言ったのは……ユキだったか。
子供達は、大人の知らないところで身も心も成長させ、やがて大人へと至っていく。
きっとリウとサクヤも、あっという間に育ってしまうのだろう。
だから、今のこの時間は、刻まれる一秒一秒は、とても大事にしなければならないものなのだ。
今日と同じ日は、二度と訪れることがないのだから。
自分は、そのことに気付かず千年を生きた。だが、今になってそのことを知ることが出来た。
それは……この上なく幸運なことなのだと思う。
ユキもまた、こちらの言いたいことを理解したのか、小さく笑みを浮かべながら言葉を返してくる。
「成長したよなぁ、あの子ら。毎日一緒にいるからわかり難いけど、この一年だけ見ても、相当に変わったと思う。ただ、俺はイルーナ達に負けず劣らず、お前らも変化したと思うぜ?」
「そうかの?」
ユキは最近、妻達に「母らしくなった」と言う。
自分自身、心境の変化は大きい。日々の中で、まず最初に気にするのはリウとサクヤのことだし、自分のことをしている時でも、常に意識の片隅に二人のことがある。
自分の中心に、二人があるのだ。そしてその生活を、悪くないと思っている。
ただ、それで母としてしっかりやれているかと言われると、まだ自信が持てない。
母となって数か月。自分でやれることを一つずつやっているが、まだまだ試行錯誤中、というのが正直な思いだ。
「間違いない、ずっと一緒にいる俺が言うんだ。一番変わってないのは……俺だろうな。全く、お前らを見てると焦るぜ」
ユキは……どうだろう。
昔と変わった面はあると思うが、変わらない面の方が多いとは思う。
出会った頃から面倒見は良かったし、イルーナ達の親代わりとして、保護者らしくしなければという思いを持っていたことは知っている。
一家の大黒柱として、皆を支えなければと、ずっと頑張っているのは知っている。
だから、そういう面では父親になった今もあまり変化がないように感じられるのだ。
阿呆なところも変わらず、ふざけるのが好きなのも変わらず、子供っぽい面があるところも変わらない。
何より、一本通った芯は折れず、曲がらず。
ずっと同じ、変わらぬ信念の強さを持ち続けている。
「ま……お主はしかとやっておるよ。夫として、父として」
「そうか?」
「うむ、お主をずっと見ておる妻が言うんじゃ。間違いない。お主に対する不満は……それはもういっぱいあるがの。しっかりやっておる部分もあるから、許してやろう」
「あ、不満はあるんだ」
「当然じゃ、当然。精進することじゃの」
なんて二人で話していると、会話を聞いていたネルが笑って口を開く。
「安心して、おにーさん! レフィはこう言ってるけど、おにーさんにもうぞっこんラブだから! レフィは、典型的なツンデレさんだからね!」
「ばっ、ち、違うわ、阿呆!」
「レフィのツンデレは、母親になっても変わらないっすねぇ。良いことっす!」
「ふふ、レフィがツンツンしているところを見ると、平和を実感しますねー」
「よしお主ら、喧嘩を売っておるのじゃな。覇龍を敵に回したこと、覚悟せいよ」
「なんか、お前が覇龍どうのって言うの、久しぶりな気がするな」
「最近言わなくなったっすよね、レフィ。多分それより先に母親っていう立場の方が来るようになったんじゃないっすか?」
「うん、僕もそう思う」
「私もそう思いますねー」
「……お主ら、本当に動じなくなったのぉ」
ハァ、とため息を漏らすレフィを見て、彼女の家族は、楽しげに笑った。




