サクヤとペット達
リウとサクヤ、二人と共に過ごす日々も、大分慣れてきた。
二人が泣いても、てんやわんやすることは少なくなり、大人組なら各々だけでも対処出来るようになり、落ち着いた日々になってきている。
もう二人は、『新たな家族』ではなく、『いつも一緒にいる家族』なのだ。
外に散歩で連れて行くことも多くなり、二人の行動範囲はちょっとずつ広がっている。
なかなか面白いのが、その散歩だけでも、二人に性格の差が出ることだ。
リウは、新しいものを見ると興味を引かれて興奮したり、逆にちょっと怖がったりする。どうも、獣人の特色を継いだことで五感がサクヤより大分鋭いらしく、それが理由で大きな音が出るものなどが苦手なようだ。
この前、物が落ちた音にビックリして、泣き出していた。
対しサクヤは、やはり新しいものを見ると興味を引かれて興奮したりするが、それら一つ一つをじっくり観察するような様子を見せる。あんまり怖がったりもせず、初めての場所でも物怖じしない。
おもちゃとかでも、リウは色んなものに興味を示して目移りするが、サクヤはこれ、と気に入ったものだけで遊ぶ傾向にあり、こだわりがある。
だから、サクヤは実は、職人気質でこだわりの強いエンに、ちょっと似ているところがあるのだ。
リウはもう、間違いなくリュー似だな、リュー似。何でも元気いっぱいで、感受性豊か。
まさに、アイツの子って感じである。
「――どうだ、サクヤ。これが、『外』だぞ」
「クゥ」
リルの背中で揺られながら、サクヤを腕に抱き、魔境の森を散歩する。
実は、我が息子にとって魔境の森は、今日が初めてだ。今まで散歩の場所は、草原エリアだけだったからな。
本当はリウも連れて来ようと思っていたのだが、その前にお眠になってしまって寝ちゃったので、今はレフィ達に任せている。
そんな魔境の森の光景に、サクヤは声も出さず、ただじぃっと見入っている。
恐らく、草原エリアとは違うということを、この子も理解しているのだろう。あっちだったらもう、慣れてきてここまで見入る素振りは見せないからな。
それに、魔力の質も随分と違うはずだ。
「お前も、この世界を生きるのなら……戦う術を学ばなくちゃな。何があっても、何が起きても、二本足で立って前に進むために。歯を食い縛って、意地を張るには、この世界じゃあ物理的な力が必要になるんだ」
生きるとは、大変なものだ。
特にこの世界は、前世よりも過酷である。種族同士が手を取り合い始めたとはいえ、魔物という驚異に関しては変わらず存在している。
この世界において、ヒトは自然界の頂点に立っていない。
ヒエラルキーの上位に食い込んではいても、その上に立つ生物は数多存在し、見上げればキリがない程に隔絶した力の差がそこには存在している。
特にサクヤは、波乱万丈な人生を送ることが現時点で確定しているようだしな。
それらに打ち勝ち、乗り越えるための生き方と、戦い方は、男親として俺が伝えてやらなければならないだろう。
それが俺の義務であり、そして今後の人生の楽しみでもある。
「クゥ」
「はは、おう、頼むわ。だってよ、サクヤ。お前が大きくなったら、背中に乗せて強敵との戦いを経験させてくれるってさ。いやはや我が息子よ、お前の人生はなかなか大変そうだ」
「あぁ、うぁう?」
「まあ、でも安心しろ。父ちゃんは実はそこそこ戦えるし、さらに母ちゃんは世界最強だ。ちゃんとお前のことは、守ってやる。いや、ホント、母ちゃんより強い生物はこの世に存在しないんだぜ。そのせいで父ちゃんは毎日尻に敷かれて大変なんだが。お前が生まれてからレフィのヤツ、なんか気が強くなったからな」
「……クゥ」
「お前がバラさなきゃバレんから平気平気」
俺の言葉に、苦笑を溢すリルである。
「そういやリル、セツには狩りの仕方とか教え始めたりしてるのか? あの子はもう、大分知能がしっかりしてきたけど」
「クゥ、クゥウ」
「あぁ、そうか。そういやそうなるか」
セツは、ボール遊びが大好きだ。
ボールと見ればブンブンと尻尾を振り、投げれば一目散に追いかけていく。
ただ、あれは、考えてみれば獲物を追いかける練習でもあるのか。うむ、あの様子だと、狩りの才能はありそうだ。
少々おっちょこちょいな面が現時点で見え隠れしているが、『フェンリル』という種族に生まれた時点で、戦えないなんてことはあり得ないだろう。
「俺は、あの子がボールを追いかける姿を見る度に、『あぁ、お前と親子だな』って思うぜ」
「……クゥ」
「ははは、そうか。リル奥さんも俺と同じこと思ったか。流石、よく見てるな、お前の奥さんも」
セツは、外見は二人の特色を継いでいるが、やっぱりリル似だな。間違いない。
違うところと言えば、リルは迷惑を掛けられる側だが、セツは相手を振り回す側であるということか。
まあ、女の子はそれくらい元気でおてんばな方が可愛いというものだろう。
――なんて、サクヤをあやしながら、リルに乗って散歩を続けていると、近くに寄って来る覚えのある気配。
「おう、揃ってるな、お前ら」
のそりと現れる、四匹の魔物達。
デカ蛇のオロチ、デカ鴉のヤタ、白猫のビャク、水玉のセイミ。
別にサクヤと初めての顔合わせという訳ではないので、テキトーにのんびりしてくれていて良かったのだが、今日俺達がこっちに出て来ると聞いて、集まってくれたのだ。
ちょっと前にそう言ったら、「主の家族が来るのに、顔を見せないのはあり得ない」とビャクが大真面目な顔で言い、だがその直後にセイミが「みんなで、可愛がりたいだけだけどね~」と言い、嘘が付けないオロチとヤタがスッと俺から顔を逸らす、なんてやり取りがあったのだが、コイツらはコイツらでウチの子らを心から歓迎してくれているようだ。
「ほら、サクヤ。ウチのペット軍団だぞ。みんなに挨拶するんだ」
「だぁ、あぁう」
俺の言葉を理解している訳ではないだろうが、ペット軍団を見ながら、機嫌良さそうに声を漏らすサクヤ。
こういう時、コイツらの対応も大体決まっていて、オロチとヤタは慌てたようにワタワタとし、ビャクは「なーお」と鳴いて普通に挨拶し、セイミはこちらに近付いて楽しそうにふよふよと周りを漂うのだ。
オス二匹の方は、自分らが不器用だと思っているから、小さくか弱いこの生き物に下手に近付いたら、ケガさせてしまうんじゃないかと気にするのである。
イルーナ達に振り回されまくって、いい加減子供には慣れただろうと思っていたのだが、赤子はまた別ということか。
「あう、あぁぶう」
と、サクヤが、動きに興味を引かれたのか、近くでふよふよ漂っていたセイミに手を伸ばす。
セイミは、気を利かせて肉体の水玉の一部をサクヤに向けると、我が息子はきゃっきゃと喜びながらそれに触れ――次の瞬間だった。
セイミの身体が、ボワリと淡く光る。
えっ、と固まっていると、サクヤはセイミから手を離し……光が消える。
思わず腕の中を見ると、つい今しがたまで元気いっぱいだったはずの我が息子は、眠そうに数度瞳を瞬かせ、そして数秒後には眠りに就いていた。
「……今のは、何だ?」
セイミに顔を向けるも、ただ不思議そうにその場を漂っている。
何か、体感的に変化が起こるようなものではなかったのか。
「っ、これ……」
俺は、眠るサクヤを見ている内に、そのことに気が付く。
この子が今、いったい何をしたのかはわからないが……しかし、明確な意思の下に行動したことだけは、確かなようだ。
何故なら、サクヤのステータスに、新たな称号が追加されていたからだ。
それは――『魔物の王』。
魔物の王:魔物達と心を通わし、統べる者。種も言葉も違えど、しかし彼らは王を慕い、王に従い、共に苦難を乗り越えるのだ。
十五巻発売!
花粉に憎しみを覚え、ティッシュを手放せない毎日ですが、十五巻発売して嬉しいから作者は元気です。




