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魔王になったので、ダンジョン造って人外娘とほのぼのする  作者: 流優
魔戦祭

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頂を!


「おにいちゃん! とってもとっても、かっこよかったよ! お疲れ様!」


「ん、あるじ、すごくかっこよかっタ!」


「……しっかりキマってた」


「おう、ありがとう。お前らがそう言ってくれるならもう、俺も色々準備してきた甲斐があったってもんだぜ」


 先程までのイベントを見ていたイルーナ達が、興奮した様子で口々にそう話す。レイス娘達も、同感だと示すように何度も何度も頷いている。


 うむ……うむ。色々練って、頑張って良かったぜ。大変だった諸々が、この瞬間に全て報われたような思いだ。


 と、少女組の次に口を開くのは、大人組。


「昔からそうじゃが……お主、意外と物怖じせんよな。こんな大舞台でも」


「ね! おにーさん、度胸あるよね、やっぱり」


「ウチだったら、多分委縮していっぱい噛んじゃうっすねぇ……」


「私だと、声が通らないで、聞き取ってもらえないことになりそうですねー」


「はは、まー、俺にとってここの観客は、ぶっちゃけどうでもいい相手だからな。かかしの集団と思えば、特に何も思わないんだよ」


 俺にとって、ここの観客に何をどう思われようが、別に構わないのだ。


 俺にとって重要なのがウチの面々だけである以上、それ以外の相手からの評価はどうでもいいというのが、正直な思いだ。


 俺は、この家族がいてくれれば、それでいい。


 あと、単純に慣れたのもある。皇帝として、なんかこうやって偉そうに話す機会は、少しはあったからな。


「それよりお前ら、『マジック・フェスタ』の方がそろそろ始まるぞ。そっちもかなり面白いから、楽しんでくれ」


 そして、魔戦祭が、始まった。




 ――これで、帝位は継承された。


 皇帝という、国のトップの座は、この国に戻った。


 この先数十年は、他国の干渉もあり続けるだろうが……国政を自らの手に戻すための契機は、これで得られたと言えるだろう。


 なお、俺にとって重要なダンジョン関連のことだが、悪いがそれに関しては、相当に制限を設けた、一応魔界王とかにちょっとだけ許した権限と同じくらいのものだけをアルヴェイロには渡してある。


 ローガルド帝国に存在している、ウチの草原エリアと同じような、作られた空間の操作権限辺りをちょっとだけ、だ。


 この国がダンジョンを基にしている、ということは一部の者は知っているが、具体的に何が出来る、ということを知っている者は少ないのだ。


 代々の皇帝達も、それに関する秘密は非常に重いものとして秘しており、アルヴェイロ自身もよく知らないようだったので、このままダンジョンとは関係のない国として成長してもらおう。


 何かあったら勿論協力するつもりだが、これは、俺の命綱だからな。悪いが何十年、何百年経とうと、ここを緩めるつもりはない。


 ただ、この国なら大丈夫だろう。

 いや、アルヴェイロなら、大丈夫だろう。やり手しかいない王達を相手にしても、対等にやっていけるはずだ。


 あの男には、それだけの知能と、度胸と、根性がある。そりゃあ、最初から全て上手く行きはしないだろうが、何か問題が起こっても、きっと対処出来るはずだ。


 ローガルド帝国が発展し、人が増えたのならば、それがそのまま俺のDPに繋がる。


 俺のためにも、是非、国を豊かにしてくれたまえ。



   ◇   ◇   ◇



 五日間の予定で組まれている、魔戦祭。


 全部競技の時間で埋まっている訳ではなく、ローガルド帝国が呼び寄せたこの世界の有名な音楽家による演奏、それに合わせた踊り、物語チックなショーなど、人種関係なく呼び寄せられた集団による様々なパフォーマンスの披露も行われた。


 まあ、マジック・フェスタの方は魔法によるパフォーマンスのような競技な訳だが、休憩やフィールドを整えるための時間に、そういうのを用意しておいた方が盛り上がるだろうと結構な量を呼んであったのである。


 で、スケジュール調整が死ぬ程大変だったらしい。お疲れ様だ。


 肝心の競技だが、まず俺があまり絡んでいないマジック・フェスタの方は、すでに優勝も決まった。


 魔族とエルフの一騎打ちとなり、勝ったのは、下馬評通りの、エルフ。


 魔法による演技を行い、より評価の高かったのがエルフだったのだが、しかし実際にはかなりの僅差で、本当に数ポイントくらいの差しかなかった。


 接戦で白熱した、見応えのある良い決勝戦だったと言えるだろう。


 バトル・フェスタの方は、我がローガルド帝国近衛騎士団はと言うと、無事に一回戦二回戦を抜け、決勝ラウンドに進むことに成功した。


 決勝ラウンドは三チームによる三つ巴の戦いとなり、二勝した時点で優勝が確定。一勝一敗で並んだ場合、得失点差で勝敗が決まる。


 最初は、試合時間を短くしたサドンデスでどこかが二勝するまでにしようか、という案も出たのだが、時間の問題でそれは却下となった。


 どれだけ魔戦祭を延長することになるのかわからなくなってしまうし、単純に選手達が消耗し過ぎて、まともな試合にならない場合があるため、問題があるということになったのだ。


 そして、その決勝ラウンドに進んだのは、ローガルド帝国の他に、やはり非常に強かった魔界王率いる魔族達と――なんと、レイド率いるアーリシア王国の近衛兵達だった。


 決勝に進んだ種の内、二つが人間。彼らの組織力というものの強さがよくわかる結果である。


 身体的な優位がないのにもかかわらず、人間種が他種族を押していた世界の在り方が、ここでも出たと言えるだろう。


 鍛えた戦士達が肉体を以てぶち当たり、魔法が飛び交い、派手にフィールドが変化して戦うサマは、相当見応えがあったようで、観客達の盛り上がりも、ものすごいものがあった。


 この時点でもう、魔戦祭は成功したと言って良いだろう。


 ウチの家族は、五日間の全てを見て行った訳ではないが、扉を繋げてあるので好きな時に来て観ることが出来るため、結構な頻度で競技を観戦していた。


 彼女らが歓声をあげて競技を見ている姿が、本当に、俺にとってどれだけ嬉しかったことか。


 その俺の方はというと、五日間の全てを観戦した。


 多少席を外したりはしたが、この魔戦祭を開催する側として色々やった以上は、最初から最後まで参加するのは義務だろうからな。


 皇帝ではなくなっても、それくらいは、すべきだろう。

 つっても、俺自身メチャクチャ楽しんでいたし、全く飽きなかったので、別に無理して観ていた訳では全然ないのだが。


 そして――。


「行けッ! そこだ!」


「横開いてるぞ!」


「突っ込め!」


「あぁ!?」


「来てるぞ、そこ!」


 五日目の最後、決勝ラウンド最終戦。


 悲喜こもごもの応援。


 フィールドにて戦っているのは、ローガルド帝国近衛兵と、魔界近衛兵。


 アーリシア王国近衛兵は、接戦ながらすでに二敗してしまい、決勝ラウンドを脱落。

 故にこの試合で、どちらが勝っても優勝が決まるが、現在の点数はローガルド帝国近衛兵が負けている状況。


 試合の残り時間も少ししかなく、さらに現在ボールを持っているのは魔界近衛兵であり――が、一発決めれば、逆転も可能な点数差。


 スタジアムの熱気も否応なしに上昇していき、声援もまた決勝に相応しい程で、喉が壊れんばかりに皆が応援している。


 俺もまた、VIPルームではなく、関係者としてフィールド端のベンチ前に立ちながら、チームに声援を送っていた。


 一応、ローガルド帝国近衛兵達のコーチ役として、一緒に競技の練習をしてきた身だからな。


 俺のスポーツに関する知識など、前世ならばアマチュア程度のものだが、それでもセオリーくらいならば知っているため、競技が成熟していない今の段階なら、俺程度でも何とかコーチ役としてやって来られたのだ。


「陣形を崩すなッ、目の前だけじゃなく、視野を広く保てッ! 穴が開いたら一気に入ってくるぞッ!」


 一進一退。が、なかなかボールが奪えない。


 もう一点取って試合を決めようとしているらしく、苛烈な攻撃を続ける魔界近衛兵達に対し、どうにかギリギリのところで持ちこたえ、逆転を狙う我がチーム。


 体格でも魔法能力でも劣る相手に、崩されず守ることが出来ているということは、連係面で一つ優っていると言って良いだろうが、しかし今のままでは、時間切れでこちらの負け。


 どこかでボールを奪い、攻勢に転じなければならないのだが、その合図を出すのは、曲がりなりにもコーチとして活動していた、俺。


 チーム全体で一斉に動く、という意識統一された動きをするためには、やはり外からの合図が必要となるのだ。

 

 声を張り上げて応援しながら、タイミングを見計らう。


 見る。


 相手の陣形、動きの意図、視線、ボールの位置、パサーの位置、『フィールド生成』にて変化したフィールドの形状、魔力の流れ、味方の陣形、味方の意識、疲れの蓄積具合。

 

 ミスは許されない。この時間帯では、ミスとはそのまま、負けに繋がる。


 しかし、相手はあの魔界王が率い、そして鍛え上げた近衛兵。

 何気ない動きの中に罠が隠されている可能性は十分に存在するし、反撃の糸口を探すあまり守備への意識が薄くなれば、再び点数を入れられることも考えられる。


 それもまた、今の時間帯では、『THE・END』だ。


 焦る心を必死に押さえつけ、魔境の森の西エリアで戦闘を行っている時並に集中し、濃密な時間の中、見続ける。


 実際に身体を動かしている訳でもないのに、肉体が熱を持ち、滝のように汗が流れているのがわかる。


 そして――チャンスは、訪れた。


 こちらの守りを崩せず、魔界近衛兵達が、一旦ボールを後ろに回し――今ッ!


 そこで俺は、事前に定めていたサインを出した。


 同時、ローガルド帝国近衛兵がまず発動したのは、『衝撃ショット』。


 それを食らったのは、前線より一歩後ろでボールを受け取った、魔界近衛兵のパサー。


 体勢を崩し、次の瞬間、さらに『風爆ガスト』の連係攻撃を受けたことで、ボールが手から離れ、浮き上がる。


 転がるボール。


「取れッ!」


「渡すなッ!」


 入り乱れる敵味方。


 ただ、サインによって一斉に動き出しており、そして味方が必ず魔法を当ててくれる、と信じていたローガルド帝国近衛兵達の行動は、魔界近衛兵達よりも一歩早く――ボールの奪取に成功。


「カウンターだッ!」


「ヤバいぞッ!?」


「行けッ!!」


 攻守の交代。


 ボールを確保しようと密集したため、お互い陣形は崩れに崩れており、故に一度抜ければ……行ける。


 いち早く攻撃に移り、走りながら陣形を形成していくローガルド帝国近衛兵。


 阻止すべく、魔界近衛兵達もまた下がりながら、『フィールド生成』と『土壁ウォール』で素早く防御態勢を整えようとするが、間に合わない。


 跳び、走り抜け、パスを回し、ボールは魔界近衛兵側のゴールラインを超えていた。


 これにより、ポイントのリードはこちらに移る。


 歓声と悲鳴。


「まだ終わってねぇぞッ、最後まで気ぃ抜くなよッ!」


 残り時間はあと僅かだが、ゼロではないのだ。


 何より、試合時間が過ぎても、ラストワンプレーは、攻撃の手が止まるまで継続が許される。


 故に、魔界近衛兵達の攻撃もまた、凄まじかった。


 身体能力の高さと魔法能力の高さのどちらをも駆使し、どんどんとラインを押し込んでいく。


 ピィィ、と、すでに試合時間が過ぎたことを示す笛も鳴らされたが、終わらない。押し込まれ続ける。


 ローガルド帝国近衛兵達は、押され気味になりながらも、最後の力を振り絞り、必死に防御を続け――その時、サイドライン際を走っていた魔族に、タックル。


 精強な肉体を持つ魔族に対し、一人でのタックルでは多少の足止めにしかならないものの、そのことは初めからわかっていた。


 刹那だけでも、足が止まればそれで良かったのだ。


 そこに、的確に『風爆』が打ち込まれ、ボールを持っていた魔族は転がり、パスも出来ずにサイドラインを割ってしまう。


 つまり――ボールデッド。


 試合時間がすでに過ぎている今、それはそのまま、試合終了を意味する。


 この瞬間、ローガルド帝国近衛兵達の、優勝が決定した。


『オォォッ!!』


「ッしゃぁッ!!」


 俺達は、感情の高ぶるまま、スタッフ全員で一気にフィールドへと飛び出す。


 大熱戦を制し、勝ったのだという事実に、 ローガルド帝国近衛兵達は両手の拳を天高く掲げ、歓喜の雄叫びを溢す。

 ローガルド帝国の覇を、自らの手で勝ち取り、この国の民にそれを見せられたのだと、感情を爆発させる。

 

 そして最後に、最高に熱い試合にしてくれた魔界近衛兵達と、握手し、抱き合い、互いの健闘を称え合った。


 その光景が、魔戦祭に訪れた全ての観客達の心にも、強く刻まれたのだろう。


 今までで最も大きな拍手がスタジアム全体を包み込み、それは、いつまでも止むことなく鳴り響き続けた。




 これにて、全てのプログラムの消化が完了。


 大熱狂の中で閉幕式は行われ、第一回魔戦祭は幕を閉じた。


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こちらもどうか、よろしくお願いいたします……! 『元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~』



書籍化してます。イラストがマジで素晴らし過ぎる……。 3rwj1gsn1yx0h0md2kerjmuxbkxz_17kt_eg_le_48te.jpg
― 新着の感想 ―
[良い点] こういうファンタジー世界でのスポーツ競技、あり得ない挙動ができてテンション上がるし好きだわー [一言] 番外編でこの競技が未来で盛んになった後に選手になろうとする少年少女とか読んでみたい。…
[良い点] 読んでるだけでもハラハラする、緊迫感のある良い回だった……! [一言] 今回も楽しく拝読しました。 次回の投稿も楽しみに待っています。
[一言] 国が発展させた分支配者の懐が温まる、かくあるべきなんだよなぁ。
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