閑話:妻達との会話
二話続けて閑話すまん!
「ご主人、ご主人」
「どうしたのかね、我が妻リュー君」
「ご主人って、おバカっすよね」
「我が妻リュー君、随分唐突に来ましたね」
俺の言葉の後に、近くにいた妻集団が、テキトーな様子で言葉を挟む。
「誤解の余地なき、じゃな」
「愛すべき、って付けてもいいよ、おにーさん」
「お馬鹿な子程、可愛いとは言いますからねー」
「何だ、お前ら。寄ってたかって。俺をいじめたいのか」
「そうしたいかどうかと言えば、そうじゃな、その通りじゃ。お主が散々言われて『ぐぬぬ』と唸っているサマを見たい」
「安心して、おにーさん! レフィにいじめられて泣いても、僕がいい子いい子ってしてあげるからね!」
「では私は、お可哀想なユキさんのために、膝枕でもしてあげましょうかー」
「リュー、君のせいで、こんなことになってるんだが、君は結局何を言いたかったのかね?」
「あはは、いや、ご主人はイルーナ達に『俺みたいなちゃらんぽらんになりたくなければ、ちゃんと勉強しないとだぞ』って言うじゃないっすか。でも、ご主人は結構博識だし、となるとご主人が求める水準って、どのくらいなのかなーって思って」
「何度か言ってるが、俺は知ってるだけだぜ。知ってるが、それを活かす能力がない。他人にああいうのがあるぜ、こういうのがいいんじゃねーかって無責任に言うことは出来るが、その知識を活用して自分でどうこう、ってのは無理だ」
賢い者というのは、そういう『応用が利く者』だろう。
紙面上の成績が良くて、それだけでオーケーとなるのは、学校の成績までだ。
まあ、俺はその学校の成績も、普通に悪かった訳だが!
だから、博識というのは間違いだ。前世で義務教育を終えていれば、俺くらいの知識はあるだろう。
後は、結構本読むのが好きだったし、漫画やアニメも普通に見ていたので、そういう経緯で得た知識も多少はあるかもしれない。
とは言っても、あれだな。
そういう応用を利かせられる者は、前世でも今世でも、ちゃんと勉強して、知識も持っているイメージだ。
まず、色々知っているからこそ、それを活かすことが出来ているように思う。
「でもご主人、曲がりなりにも、って言ったら失礼かもしれないっすけど、皇帝としても結構しっかりやれてないっすか? 名目だけっていうのは聞いてるっすけど、たとえそうでも、立派だなとは思うんすよ」
「ありがとう、我が妻リュー君。君は俺の味方であるようだ。……いや、よく考えたらネルとレイラは味方してくれてたし、つまり敵はレフィだ」
「おっ、何じゃ。喧嘩か? よし、買おう」
「レフィ、妊婦なんだから激しく動いちゃダメだよ」
「安心せい、儂は最近、特に身体を動かさずに旦那をしばく術を学びつつある。お主らにも、後で教えてやろう」
「お前、なんか最近気が強くないか。いや、元からか」
「母とは子を守る者じゃからな! 向かってくる阿呆には、強く行かんとの、強く」
「夫に向かってそれを申すか」
「大丈夫っすよ、ご主人。レフィはちゃんと、ご主人のこと頼りにしてるっすから。勿論、ウチもっすよ!」
「リュー、愛してるぜ」
えへへぇ、と照れるリュー。可愛い。
「何じゃ、リュー。ダメじゃぞ、そのようでは。確かに頼りになる時もあろうが、基本的にはダメダメじゃ、この男は。儂らの子がこの阿呆に似ないよう、儂らで見ておかんとならん」
「! 確かにそれはそうっすね。ご主人に似て無鉄砲になられても困るし……その点、イルーナ達はご主人に似ても、思慮深さが元々あったから大丈夫でしたけど」
「あー、それはそうかも。おにーさんはおにーさんのままで、もうしょうがないって感じだけど、子供がそういう面で似ないように気を付けないと……」
「……ユキさん、ごめんなさい、私も擁護出来ませんねー。やんちゃ、という程度なら可愛いものですが、ユキさんみたいに崖で止まらないで飛び込む真似はやめさせませんとー……」
「お前らいったい俺に対してどんな印象を抱いてんだ」
「阿呆」
「おバカ」
「良くも悪くも突き抜けてる、って感じかな。おバカに」
「お世話のし甲斐のある方、ですかねー。一人放っておくと、少し不味いかも、という感じのー」
「正直にありがとう。妻達の愛を感じられて涙が出そうだ」
俺に味方がいるように感じたのは、どうやら勘違いだったようだ。
夫とは、一人孤独に、家を守るのみ。
これが男の戦い、ということか……。
「……いいぜ、お前らがそういう態度で来るなら、俺にも考えがある。子供が産まれて大きくなったら、それはもう、母親には言えない悪い遊びをたくさん教えて、お前らの気苦労を増してやる!」
「ほう、具体的にはどのような遊びじゃ」
「まずは、服を泥だらけにする遊びだな。それはもう、洗濯が大変になるくらい汚してやる」
「あはは、確かにそれは、大変だね」
「ウチ、洗濯機の魔道具あるから、外と比べると相当楽っすけどね。洗濯」
「次は、擦り傷だらけになるような、スポーツとかをいっぱい教え込んでやる! つい最近造ったアスレチックエリアも拡充して、夢中になって生傷を量産するような場所にしてやろう! 同時に、きっと服も泥だらけになっているはずだ」
「身体が丈夫で健康になってくれそうですねー」
「大怪我だけはせんように注意せんといかんの」
「最後に、鬱陶しいくらいに構うことで、きっと親離れが進むことだろう! お前らは、子供の早過ぎる成長に、寂寥を覚えて感傷的な気分になるはずだ」
「つまり、愛情をいっぱい注いで育てるんだね?」
「良い夫として、頑張ってくれるみたいっすね」
「何とでも言うがいい! ただ、俺の計画は、密かに進行しているということ、お前達に伝えておこう……その計画が明るみに出た時! お前達はきっと、ああなんて男を夫にしてしまったのかと、悪逆非道なる魔王の仕打ちに泣き、叫び、絶望するはずだ……」
「悪逆非道なる魔王よ。そろそろ晩飯の用意しようと思うから、手伝え」
「はい」
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