ひと時の休息《2》
――リューの膝枕で、自分でも不思議なくらいぐっすりと仮眠を取ることが出来た後。
「えっ……イルーナ達が飯作るのか?」
そろそろ晩飯を作らないと、というタイミングの時だった。
「なーにー、おにいちゃん。わたし達には任せられないって?」
「い、いや、そういう訳じゃないが……えーっと、手伝いとかは……」
「大丈夫だから、おにいちゃんはそっちでみんなと座ってて! ね?」
今日は、自分達で料理を作るから、と言い始めたイルーナ達。
妻軍団も、特に何も言わずテーブルに座っている。
「お、おう……わ、わかった。けど、何かあったら、ちゃんと呼ぶんだぞ?」
「大丈夫だって。もー、おにいちゃんは心配しょーだなぁ。仮にケガしても、シィがいるから平気だよ」
「そーだよ! シィがいれば、ちちんぷいぷいのぷい! だよ!」
「……そもそも、そうそうケガしたりもしない。だから、主は気にせず座ってて」
俺と同じく仮眠を取っていたが、先程起き出してきたエンの言葉の後に、レイス娘達が同じ気持ちだと示すためか、「自分達に任せて!」と言いたげな動きを見せている。
俺は、チラリとウチの妻軍団の方を見るが、彼女らはただニヤニヤとこちらを見るのみである。
「わ、わかった。じゃあ、お願いするわ」
ちょっと不安に思いながらも、ただやる気を見せている彼女らに水を差すのも良くないだろうと、俺は大人しくテーブルで待機している大人組の方へと向かう。
「あの子ら……随分やる気だけど、もしかして俺がいない時に、料理の練習してたのか?」
今まで彼女らが料理を手伝ってくれることもあったが、あくまで大人達が中心で、その手伝い、という形だった。
なので、一から十まで彼女らが料理をするというのは――いや、そう言えば幼女達は時々、作った秘密基地で、自分達だけで寝起きする時があるのだが、そういう時は自分らで作ってるか。
ただ、レイラがある程度下処理してから、食材等を渡しているはずなので、本当に一から全てを彼女らが作ることは、そう無かったと思うのだが……俺が外に出てる間に、練習したのだろうか。
「うむ、言うたじゃろう、色んな面で手助けしてくれておると」
「最近、私達が料理する時は必ず手伝いをしてくれてますからねー。普通に料理する分には、もう問題ないくらいですよー」
「と言っても、やっぱりイルーナが見てないと、だんだん変な方向に行っちゃうんすけどね。特にシィ、レイ、ルイ、ローの四人は、すーぐ料理にオリジナリティを加えようとするっすから」
レフィの言葉の後に、レイラとリューがそれぞれそう言う。
「カカ、そういう時、意外とエンなどは、止める側じゃなく、シィらと一緒にやり始めるんじゃよな。大真面目に変なことをし出して、イルーナが『あぁ、もう……この子達は』と苦笑するんじゃ」
簡単に想像出来るな、その様子は。
あと、エンはよく俺に付いて出ているので、他の子達と比べると料理を練習する時間が少なくなってしまっているかもしれないのだが……いや、彼女は切ることだけは誰よりも得意なので、それこそ大人組より得意なので、役割分担すればそこは問題はないか。
けど、代わりにリルを連れて行くとかして、もうちょっとエンを家に残す時間を増やした方が良いだろうか。
そういうことをすると、あの子自身が「……エンは主の武器。だから、連れて行って」と怒るんだが……。
「そうか……もうそろそろ、幼女とも言えなくなるか」
「そうじゃな。少女ではあれど、もう、幼女や童女ではないのかもしれんな」
幼女組ならぬ、少女組、か。
イルーナの背が伸び、精神性が成熟してきていることは、よく知っている。
それぞれの種で命の長さが違い、それ故成長の仕方も違うのがこの世界であるため、前世の年齢基準で考えてもあまり意味はないが、それでも彼女は、前世ならば小学校を卒業してるかどうか、というくらいの歳だろう。
シィやエン、レイス娘達も、まあ見た目は全然変わらないが、イルーナと同じように、成長しているのだと思われる。
俺にとって彼女らの印象というのは、やはり幼い子供達というものなのだが、きっと彼女らは、大人の知らないところで様々なものを経験し、感受性を磨いているのだろう。
……感慨深いもんだな。
「ウチらの方も、少女から繰り上がりで『妻』で『母』っすからね! それらしい振る舞いを、ウチらも身に着けていかないとっす」
「ま、そういうのは自然に身に付くもので、無理に気を張る必要はないんじゃないかの? ほら、儂らの旦那、子供っぽさで言ったらイルーナ達とタメを張るくらいじゃし」
「おっと、俺とそんなに変わらない精神性の奴が何か言ってますねぇ」
「妻と、母としての振る舞いですかー。私も上手く出来るか、ちょっと不安ですねー」
「いや、お主に不安がられると、むしろ儂らの方が不安になるんじゃが……」
「右に同じ」
「左に同じっす」
と、仕事でいないネル以外の大人組で話していると、やがて料理が出来上がったようで、「出来たよー!」とイルーナ達がこちらへ料理を運び始める。
物質を食べないレイス娘達を除き、七人分の料理となると結構な量になるため、運ぶのを手伝おうとするも「おにいちゃん達は座ってて!」と言われ。
大人しく言われた通りにしていると、彼女らは気を付けながら何度も往復して晩飯の用意をしてくれ――それが終わる。
晩飯のラインナップは、味噌汁に白米、野菜炒めと冷ややっこに、きんぴらごぼう。
「おぉ……! メッチャ美味そうだ!」
すっごい今更だが、我が家は俺の影響で、米が主食だ。
色んなものを食べるが、基本的には米を炊いて食べるのだ。
ただ、これだけ和風な品々だと……恐らく、俺が好きなものを用意してくれたのだろう。
元日本人である以上、俺もまた、和食は好きなのだ。
食に対する好みで、やっぱり俺は日本で生まれた元日本人なんだな、というのを感じたものである。
「よし、食べるか! いただきます」
『いただきます』
声を揃えてそう言い、俺達は晩飯を食べ始める。
……美味い。
味付けも完璧で、切り方が不揃いなんてこともなく、普通に美味い。
この子らが作ったのだと知らなければ、普通に大人組の誰かが作ってくれたのだろうと思うくらいだ。
「すげー美味い。マジで」
俺の言葉に、彼女らは互いに顔を見合わせると、まるでいたずらが成功した時のような、満足そうな、嬉しそうな笑みを浮かべたのだった。
幼女組、そろそろ幼女じゃないから『少女組』にしないとって思うんだけど、手癖で幼女組って書いてしまいそうだな……。




