閑話:両親へ
イルーナの家族は、死んだ。
人間達が襲いに来て、両親は彼女を守ろうと武器を取って人間と戦い、多人数が相手でも最後まで一歩も引かず――そして、死んだ。
彼らがイルーナに宛てた最後の言葉。
「生きて……」
聡い彼女は、両親が自分のために死んだことを理解していた。だからこそ、絶望の中を必死に逃げ、一縷も見出せない望みの中、ただただ両親の思いを踏みにじらないようにと身体に鞭を打ち、足を進ませたのだ。
そして――両親の命を掛けた願いは、叶った。
今の彼女の周りには、家族とも言える者達がいる。
まず、ユキ――イルーナのおにいちゃん。
優しく、面白く、イルーナに血を与えてくれる、大好きな人。イルーナのために色々気を遣ってくれ、「ありがとう」とイルーナの心の中でいつも思っている。
血というのは、ヴァンパイアにとって『生』と同じ。生きる上で必ず必要となるものであり、故に神聖視すらされている。
それだけ大切な『血』を、動物じゃなく人からもらうなら、お母さんにとってのお父さんみたいな人からにしなさい、とイルーナは教えられており、それがとても大事なことだということは彼女においても重々理解していた。
だからこそ、自分を救ってくれた人が、自分のために血を分け与えてくれることが本当に嬉しくて、イルーナはすぐに彼に懐いてしまった。
今では、彼と一緒にいると、とってもあたたかい気持ちになり、この上なく安心してしまう。
そして、レフィ――イルーナのおねえちゃん。
ちょっとおかしな口調で、おねえちゃんと言う割には子供っぽいところもあるけれど、でも困った時にはとっても頼りになる人。彼女のことも、イルーナは大好きだった。
ちょっと前に一緒に暮らすことになった、レイラおねえちゃんとリューおねえちゃん。
最初は、レフィおねえちゃんに『お妾さん』という言葉を聞き、それがどんなものなのかを聞いてちょっと怒ってしまったけど、でも二人ともすごくいい人で、今ではとっても仲良し。
ペットのリルとシィもいる。あの子たちは、いつもイルーナの遊び相手になってくれて、ちょっと退屈だな、と思う時も、いつも楽しませてくれる。
そんなみんなに囲まれて、イルーナはいつしか、毎日笑顔を浮かべていた。
――今日もここは楽しく、おとうさんとおかあさんがいなくなった悲しい気持ちを癒してくれます。
だから、心配しないでください。二人のおかげで、今イルーナは、とてもしあわせです。
ありがとう、おとうさん、おかあさん――。




