閑話:???
五百話か……節目として、ちょうど良かったかな。
いつも読んでくれて、ありがとうございます!
――ある日のこと。
晩飯の食材を買うべく、俺はレフィを伴い、近所のスーパーへと向かう。
「レフィ、今日の晩飯、どうする?」
「肉」
「もうちょい具体的に」
「刺身」
「肉じゃねーじゃねーか」
それは反対に位置する食べ物だ。
……つまり、馬刺し的なものが食べたい、と? どこに売ってんだそんなもん。
「刺身、良いよなぁ。せーる時じゃと、すごく安く、美味しい刺身がいっぱい食えるし」
「……まあな。意外と安いよな、スーパーの刺身とか寿司って。そんで美味いから、満足感が高い」
「うむ、最初は生魚に少々抵抗があったものじゃが、慣れると最高じゃ。……うむ、やはり肉ではなく、刺身が良いの。そういう気分になってきた。あ、でも、簡単なさいころすてーきみたいなのも一緒に買うてくれんか」
「わかったわかった、メインが生魚で、んで肉な。野菜は……面倒だから出来合いのでいいか。美味いし」
「あと、味噌汁。味噌汁を飲まんと晩飯を食った気にならん。――こちらの世界の最も良いところは、飯が美味いところじゃな。全く、お主にレイラ程の腕があればの。毎日極楽なんじゃろうが」
「悪かったな、俺じゃ極楽まで行かなくて」
アイツ、一回学んだら、「なるほどー、こんな感じですかー」とか言って、どんな料理でもメチャクチャ美味く作れるからな。
ああいうのを、天才と言うのだろう。
「儂の妻になってくれんかな、レイラ。彼奴、欲しい」
「わかる。間違いなく最強最高の嫁さんになるだろうな。俺も欲しい。……はー、ウチの居候も、レイラくらいスペックが高かったらなー。毎日もっと楽で、日々に潤いが出るんだろうけどなー。ウチのと交換してくれないかねぇ」
「……ほーう? 共に過ごす相方に向かって、そういうことを言うんじゃのう? ん?」
「いや、最初に言ってきたのはお前だが」
「……それはそうじゃが。それはそうじゃが! フン、レイラに比べれば、確かに儂の方が、数段劣るがの! 残念じゃったな、同居人が儂で」
「何拗ねてんだ。冗談に決まってんだろ。俺の相方はお前だけだ」
「…………」
「? 何だよ――いてっ」
無言でパシッと肩を叩かれ、そのままズンズン先へと進んでいくレフィ。
「ほれ、突っ立っておらんで、さっさと買って帰るぞ! 儂はすでに腹ペコじゃ!」
「はいはい」
◇ ◇ ◇
それから、スーパーで一通りの食材を買ってきた俺達は、家に戻り次第晩飯の準備を開始。
昔はロクに家事を手伝おうとせず、手伝っても不器用なせいでぶっちゃけ邪魔だったレフィも、今では普通に料理も出来るし、俺が何も言わんでも自分で色々準備や手伝いをするようになった。
フッ、同居人として、口うるさく言い続けた甲斐があったってもんだぜ……。
「? 何じゃ、その顔は」
「何でもない。――って、お前、中トロばっか食うなよ。俺まだ一切れしか食ってねぇんだぞ」
「ならばもっと食うべきじゃったな! こうして同じ卓を囲んでおるのじゃ、そのようなことで文句を言われてもなぁ!」
「ほう、お前がそういう態度ならば、こちらにも考えがある! このぶりはもらった!」
「なっ……二切れ食いじゃと!?」
「フハハハ、どうだ、贅沢だろう? これを白米と共に……うむ、美味い! いやぁ、そろそろ旬からずれますが、相変わらずぶりは美味いですねぇ。さて、もう二切れ」
「ま、待て! クッ、ならば儂は、このエビ! エビを二切れ食うてやるわ! ……エビ二切れじゃと、尻尾が邪魔で食い辛いのう」
「せやろな」
ダラダラと喋りながら、飯を食い終わった後は、順次風呂に入り、歯を磨き、就寝の準備をする。
まあ、すぐに寝ることはなく、この夜の時間に、布団に寝っ転がったままゲームや将棋なんかで遊んで、日付が変わるくらいまでは遊ぶことが多い。
日課、という訳でもないのだが、何となく飯を食った後の時間は、二人で遊ぶことが多くなった。あんまり騒ぐと隣の三姉妹に悪いので、声は抑えめに、だがな。
あと、将棋はともかく、対戦ゲームだとお互いが熱くなって収拾が付かないことになる場合が多いので、確実にうるさくなるため、夜にやるゲームは協力ものが多い。
どちらも極度の負けず嫌いなもので。
――そうして、時計の針が次の日になったことを告げた頃。
流石に眠くなってきたので、ゲームを切り上げ、電気を消す。
各々が布団に潜り込み、おやすみ、というタイミングだった。
「? おわっ」
突然、隣り合っていた布団からゴロンと転がり、俺の布団の中へと入ってくるレフィ。
相方の温もりに、俺の心臓が跳ねる。
「な……何だよ」
「たまには、の。――ユキ」
「お、おう」
「お主の相方は、儂だけか」
こちらを見て、微笑むレフィに、俺は答える。
「……あぁ。いつでも、どこでも、どの世界でもな」
「カカ、クサいことを言うの。おっと、どうした? 暗くてもわかるくらい頬が赤くなっておるぞ」
「うるせぇ、はよ寝ろ」
「そうしよう」
そう言ってレフィは、俺の胴に腕を回し、俺の首元に頭を寄せ、瞳を閉じた――。
◇ ◇ ◇
目を覚ます。
玉座。
手すりに手を触れ、思う。
「地球での生活か……」
俺の妻は、レフィ一人じゃない。
今は、ネル、リュー、レイラの三人も、俺の妻だ。俺には勿体ない、最高の妻達だ。
だから、こう言ったら彼女らに悪い気もするのだが……あんな感じでレフィと二人で、貧乏ながらも協力し合い、毎日喧嘩し、ギャアギャア言いながら過ごすのは、それはそれで楽しそうだし、いいなと思うのだ。
同じ歩幅で先を歩き、日々に生を刻み、同じように老いてくのだ。
ま、向こうの俺からしたら、恐らくこっちの俺のことを、羨ましく思うんだろうがな!
隣の芝生は青い、ということだろう。
いや、別に今の生活に不満がある訳じゃないし、超満足してるのは間違いないんだけどな。
ただ、何だか羨ましくなってしまった俺は、我が妻を呼ぶ。
「レフィー!」
「む? 何じゃ、起きたのか。どうした?」
「添い寝してくれ!」
「ハァ? 別に構わぬが、お主今昼寝しとったところじゃろう。まだ寝るのか」
「気分だ、気分。お前と昼寝したい」
そう言うと、呆れた顔だったレフィは、ちょっと嬉しそうな様子になる。
「……仕方ないのう! 全くお主は、甘えたがりじゃなぁ。面倒じゃが、お主の妻として、付き合ってやるとしよう」
「おう、もう俺は、お前がいないとダメだ。どうしようもなんねぇ」
「……な、何じゃ、急に。今日は嫌に素直じゃな」
「これからこの方向性で行こうかと思って」
「……フ、フン、そうか。それよりほれ、寝るんじゃろう? こちらに来い」
レフィはそそくさと布団を敷いてくれ、俺はそこに彼女と共に入る。
「もう、最高の妻だ。お前が俺の相方で、たまんねぇぜ。俺は超幸せ者だ。おっと、どうした? 頬が赤いぞ」
「うるさい。はよ寝ろ」
「そうする」
俺は、笑って彼女を抱き締め、目を閉じた――。